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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

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迷宮支配者

 曲がりくねった迷宮の中をさまようように進んでいく……けれど迷宮の支配者たる存在の棺がある場所まで、もうそれほど掛からないようだった。


「近いな……」


 呟きながら真っ直ぐ歩き続ける。相変わらず魔法の明かりは存在し歩く分には不自由ない。ここまで来ても迷宮の様相はあまり変わらず、精々迷宮を構成する壁が硬質になった程度。

 まだ迷宮の先は続いているような錯覚に襲われるが、もうすぐゴール……そう思った矢先、開けた空間に出た。


 通路と同じような材質で構成された部屋ではあるのだが、天井がドームのような形をしてずいぶんと高い。加え至るところに魔法の明かりが存在し、ここだけまぶしいと感じるくらいの光量だった。

 そうした中で、部屋の中央に台座が存在している。そしてその上に、目当ての棺があった。


「これか……確かに少しだけど力を感じるな」


 もし覚醒していなかったら気付いていないかもしれない、微弱な魔力。けれど今の俺には克明にわかる。

 周囲を見回すと、この部屋で行き止まりになっている様子。もっとも道が無茶苦茶枝分かれしていたので、ここが最奥かと言われると微妙なところだ。


「さて……」


 俺は棺の近へと歩む。木製の黒い棺で、見た目は何の変哲もない。

 少し迷ったけど……無謀かなと感じながら棺に手を掛けた。


 そして力を入れてみる……が、棺が開く様子はない。


「単純な力じゃ無理か……これでできたらベルンザークだってそうしていただろうし」


 ビームを撃ってみるか? けれどそれをやると最悪棺を貫通して中にいる存在に被害が……とはいえ生半可な力では絶対に開かないだろう。どうしようか?

 少し悩んでいると……棺の中に存在する力が、少しばかり揺らめいた気がした。


「目覚めたか?」


 身構えたが……何も起こらない。棺の中で寝返りでも打ったのだろうか?


「ともあれ、ここに来て収穫無しはさすがに勘弁願いたいな」


 たぶんベルンザークを倒したことで大なり小なり迷宮が混沌と化すだろう。そうなった場合、果たしてこの棺のある場所へ再度自由に向かうことができるのか。


「……少なくとも、話ができるのならやりたいな」


 呟き、俺は考える……ならば――


 俺は棺に手を当てた。破壊するのではなく、棺の中に呼び掛けてみてはどうか――俺自身迷宮の支配者の力を所持している。つまり、この棺の中にいる存在と同質の魔力を持っている。

 もし外部から似たような魔力を注がれていたら、反応するのでは――そんな風に思い、俺は力を棺へと流し始めた。


 これでもし失敗したらお手上げだ。他に方法はないか……思案する間も魔力を棺へと注ぐ――その時、中の魔力がまたも揺らめいた。


「お……? 成功か?」


 魔力を流すことを止めないまま棺をじっと観察する。その時、ギシリと空気に軋んだ音が生まれ、棺から魔力が溢れた。

 即座に俺は手を棺から離して後退する……棺が開いた瞬間襲い掛かってくるなんて可能性は低そうだけど、さすがに警戒はしなければ。


 やがて……棺がゆっくりと開く。そしてゆっくりとした動作で顔を出したのは――


「――な」


 絶句した。驚き相手を凝視する。

 その相手もまず、俺のことを見据えた。次いでわずかながら目を見開いた後……やがて何かを悟った顔をした。


「……自分と似た気配が棺の外にあったため、目覚めたが」


 前置きをしながら、相手は立ち上がる。


「まさか――自分と同じ姿をした存在が目の前にいるとは、な」


 ――そう、棺から現れたのは、紛う事なきこの俺の姿。顔立ちから服装に至るまで全てが同じであり……魔力が同じであるにしても、さすがにこうまで全てが一緒だとこちらはただ驚くしかない。


「……あんた、名前は?」


 そして俺は問い掛ける。すると相手は、


「私か。名はゼノ――事情は把握しているようだな。私は過去、この迷宮の管理をしていた」


 ――俺は自分の名は咄嗟に浮かんだ単語を口にしたわけだが、それはもしかすると魔力を介して生まれた俺に宿っていた、迷宮支配者の記憶の断片だったのかもしれない。


「……俺もゼノと名乗っている。となれば――」

「まず、どういう経緯で君が生まれたのかが気になるな」


 こちらの言葉を遮るように、相手――『ゼノ』は口を開いた。


「事情をまずは知りたい。なぜ君はこの場所を訪れたのか。そしてなぜ、同じ姿をしているのか」

「……わかった、説明するよ」


 俺はじっと相手を見据える。やはりどれだけ見ても自分自身の姿だ。

 『ゼノ』はこちらの言及に小さく頷くと、ゆっくりと棺から出た。次いで俺の前に立ち、


「……鏡が目の前にあるようだな」


 そんな感想を漏らした。俺も内心同意する。

 奇妙な……俺の方が偽物なわけだけど、改めて姿が同じであることに驚きを隠せない。漏れ出る魔力だけで『ゼノ』のことを再現したプレルの能力がすごいって言うべきだろうか。


「……話自体はそう長くない」


 俺はひとまず前置きをする。


「けど、あなたにとって決していい話でもない……ひょっとするとあなたが怒り狂うかもしれない」

「自分自身の姿が目の前に現れるような事態だ。ロクなことにはなっていないだろう」


 こちらの言動に『ゼノ』は肩をすくめた。


「棺の中で眠っていた時、自分の体から力が漏れ出ていることには気付いていた。おそらくそれを利用し、私の分身を作ったのだろう」


 うん、それについては正解だ。


「だがなぜ私の体を作ったのか……そこについては説明があるのか?」

「ああ。しっかりと説明させてもらうよ。ただ、こちらも色々と質問がある。あんたに答えられるかわからないけど」


 こちらの表情に対し、『ゼノ』は突如目を細めた。


「どうやら並々ならぬ事情があってここに来たようだな……いいだろう、情報交換といこう」


 笑みさえ浮かべながら語る……そこで俺は改めて相手を見据える。


 ――彼の存在が、ある意味俺がこの世界に連れてこられる理由になったと言っても過言ではないだろう。俺はようやく迷宮支配者と顔を合わせたわけだが……この世界へ連れてこられた俺の目的が叶えられる可能性は、間違いなく低くなった。

 とはいえ――この迷宮を支配する存在だ。所持する力は一級品であることは間違いなく、俺のことについても突破口を見いだせるかもしれない


 どこか祈るような気持ちを伴い、俺は話し始める――その間『ゼノ』はずっと、俺の話を聞き続けた。


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