黒い魔物
まあ、あれだけ叫んで派手に暴れていれば当然敵も来るよね。一度帰ろうかと思ったのだが、音の発生源は後ろ――つまり、今まで進んできた道なんだよな。
振り返る。あ、さっきと同じスケルトンだ。剣と盾を持っているのも同じ。
ミノタウロスとこいつらはセットなのか? あるいは、ミノタウロスが死んだら仲間を呼ぶ的な能力なのか?
疑問は出てきたけど、とりあえずスケルトンならビーム撃てばいいだけなので楽勝だ。よって、発射!
青い光が通路を駆け抜け、スケルトン達に直撃。綺麗に掃除していく。よしよし。
うん、ファンタジー的世界観で明らかに浮いているけど、これが一番安全かつ最も効率がいい方法だ。とりあえずビーム万歳である。
程なくして全部倒したのだが……うーん、まだ足音が聞こえるな。もしかして数が多いのか?
このまま待って戦うのもいいんだけど……と、視界にまたもスケルトンが。またビームで対処しようかなと右手を前に出した時、気付く。
えっと、通路からわんさか来ているんだけど……って、待て待て!
通路を埋め尽くすというか、まるで巨大な白い津波のように猛烈な数が来てる……! 明らかに前よりも多い!
即座にビームを撃ってみる……もちろん前方にいるスケルトンは消し飛んだけど、それ以上に後続からやってくる――完全に数で押し潰す気じゃないか!
慌てて後退しながらビームを撃ちまくる。が、後からどんどん来る光景はどう考えても普通じゃない。
もしや、魔物を散々倒したから報復を……? この迷宮の主の仕業だろうか? ロックオンされたってことなのか?
これはまずい。強行突破するのも一つの手だけど……逃げられるなら逃げて、一度態勢を立て直したいところだ。
ビームを散発的に撃ちつつ、俺は少しずつ後退する。やがて角を曲がり、そこから一気に駆けたのだが……目の前に見えたのは一枚の壁――って、
「おい、嘘だろ!?」
ってことは、押し寄せてくる敵を倒さないと逃げられないってことか!? 考える間にもガシャガシャと近づく音が聞こえてくる。
俺は壁とスケルトンを交互に見る……よくよく見たら壁は複雑な紋様が施され、明らかに他の壁と違っている。これに理由があるのか――疑問に思った次の瞬間、
ドガン! と、大きな音が。突き当たりに存在していた壁が、突如破壊された。
ここに来た時点でまずかったのか……その奥からのそりと現れたのが、黒い触手。それが何本も現れて……えーっと、確実にヤバいやつだな!? とにかく離れないとまずいよな!?
すぐさまスケルトンと対峙し、、前進しながらビームを撃つ! 次々消滅していくスケルトン……う、背後から気配がする!?
一瞬だけ振り返った。そこには俺の眼前まで伸びた数十本の黒い触手が!
「うおおおっ!?」
体に巻き付こうとしたので慌てて回避! するとスケルトンの一体に絡みついた。そのままものすごい勢いで引っ張られて、あっという間に引きずり込まれる哀れな骸骨。しかも一体や二体ではない。伸ばされた数だけスケルトンを拘束し、どんどん破壊された壁の奥へ……って、パニック映画かよ! しかも無差別じゃないか!
俺はビーム発射を再開し、とにかくスケルトンを消し飛ばす。そして迫り来る黒い触手。俺なら巻き付かれても振り払えると思うけど、触れるのも嫌だ! とにかく逃げる!
ひたすらビームを撃つ作業に入る――しかし、本当に疲れないなこの体! こんだけ無茶をしているというのに、一向に疲れが見えないぞ!
内心驚きながらひたすら敵を駆逐していく……やがて、スケルトンの最後尾が見え、俺はそこを突破し包囲を脱することに成功した。
「……とりあえず、大丈夫そうか」
で、再び最初のフロア。あぐらをかいて階段を観察しているのだが、それっぽい触手は現れない。
包囲を脱して以後、とりあえず何事も無く済んでいる。けど、さすがにあれだけのスケルトンをけしかける以上は、魔物を倒しまくる存在に気付いているはずだ。これからの探索が面倒なことになるだろうな。
「これからどうしようか……」
かといって、逃げ場がないこのフロアに留まり続けるのもいただけない。とにかく進むしかない。
しかし、迷宮の全容さえわかっていないのにこのザマである。果たして無事に地上まで行けるのだろうか……。
階段を下り、分かれ道へ。で、なんとなくさっき行こうとした右を見てみると、
曲がり角の手前に、黒く丸い塊があった。
「……げっ」
あれ、絶対さっきの黒い触手の本体だよな?
どうしよう、無視して探索した方がいいのだろうか。いやでも、もし帰ろうとしたら通路が塞がれて戦うしかない、なんて状況になったら悲惨だ。
今は距離があるためか動かない。というか、あの球体どう見ても浮いているんだけど、どういう原理なんだろ? 魔法かな?
「……ここからビームを撃って倒せるかな」
右手を前に出す。相変わらず反応しない敵。
ちょっと力を入れて、準備をして……いけ!
青い光が撃ち出される。それは真っ直ぐ性格に、黒い球体に……当たった!
ギャオオオオオ!
悲鳴? みたいなものが上がった……どっから声を出しているのか気になったけど、思考する余裕はなかった。
黒い触手が球体から現れる。すぐさまこちらへ伸ばされ、俺を狙うべく迫ろうとするが、距離がある以上こちらが有利!
再度ビームを撃って触手を消し飛ばす……が、数が多くビームは通路全体をカバーすることが難しく、こちらに迫ってくる――
「うお、ヤバいって!」
どうする!? 必死で頭を回転させて……すかさず腕を振った。
それと同時、目の前に赤い火柱が生じる。あらゆるものを燃やし尽くす地獄の炎、みたいなイメージで使ったけど……結果、触手は炎の触れあっさり炭になった。 よし、通用する!
ならば、ビームに応用を利かせ……炎を練り混ぜた赤い光線が球体へ向け放たれる。敵は回避することもできずその身に受け、次の瞬間火柱が上がった。
再び聞こえる魔物の叫び声。伸ばされた黒い触手もやがて力をなくし……消えた。
倒した……だが、
「……新たに使った技が、結局ビームの派生技か……」
ビーム、汎用性が高すぎるな。威力が十分な上に遠距離でもその攻撃力が変わらない。そしてこの狭い通路で十分すぎる攻撃範囲。なおかつ俺が咄嗟に出せるとくれば、つい頼るのも無理はない。
だが、なんか他の技も……そう思いながらじっと右の道を注視。二体目とかこないだろうな。
まあ、距離を開けていれば向こうは反応しないみたいだし、俺は攻撃できるから不意をつかれなければ大丈夫か。よし、探索再開といこう。
今度は真正面の道を選ぶ。とにかくこのフロアだけでもどういう構造なのかを確認したいところだ。上り階段が見つかったら探索を中止して迷わず進もう。
歩き進めながら、音などに注意する。これだけ暴れた以上、スケルトンの群れが徘徊していると考えていいはず。
そう思うと慎重になり、できる限り忍び足になる……と、ここでカツンカツン、とどこから階段でも下ってくるような音が耳に入った。