激突
通路を抜けた先に存在していたのは、奥行きの広い空間。左右の壁には何やら壁画的なものが描かれ、なおかつ淡い光などが生まれている。
そして真正面奥には五段程度の階段と、その上に玉座が一つ。先ほど声を発した相手はその玉座に座っている存在からだった。
見た目は……黒髪を持つ三十前後の男性。全身を白銀の鎧で身を固めているのだが……ふむ、その姿は魔族というよりどこぞの騎士みたいに見える。
「動きがずいぶんと怪しかったため、そういう可能性を考慮していたが……なるほど、オーゴが俺を倒すのに必要なのは力ではなく策。どのように迷宮管理者の力を引きはがすか……それに懸っている。そこをプレル――貴様に頼んだというわけか」
完璧に、こちらの策を読み切っている……か。
「その策は戦力をオーゴ達に投下した時点で成功したな。連合を組んで仕掛けるオーゴ達にこちらは精鋭で応じる方法がなかったからな」
「お前は地上侵攻に失敗したと聞いている」
次に話し始めたのは、プレル。
「幹部のファグラントを始め、多くの手駒を失った……だからこそ、戦力をそちらに傾ける必要があった、と」
「そういうことだ」
「普通ならば地上侵攻に失敗し部下が滅んだことを契機に、少しは動きを止めても良かったのではないか? むしろ、そうすべきだったと私は思うが」
「止めるわけにはいかない……全てを手に入れるために」
ベルンザークは語る……その瞳には、確かな野心が宿っている。
「それに、貴様の魂胆は見抜いている……管理領域に侵入した時点で、な」
「なるほどね……ならばさっさと始めようか」
プレルが不敵な笑みを伴い力を発揮する――同時にベルンザークは立ち上がり、俺が彼女の前に立つ。
「貴様は唯一の護衛のようだが……強いのか?」
この様子だと俺がファグラントを倒したってことは知らないみたいだな。
「どうだろうな」
「ふむ……まあいい。さっさと終わらせよう」
言葉の直後、ズグンと迷宮内が鳴動する。
迷宮管理者としての力を発揮したか……さて、俺にどれだけ対抗できるのか。
刹那、ベルンザークが動き出す――と、まず彼は跳躍を見せた。俺達へ向け直線的な動きであり、また同時に拳を構える。
武器は用いず、拳で攻撃するって感じか……ただ空中だと身動きはとれないはず!
「食らえ!」
まずは挨拶代わりのビーム。光が放たれベルンザークを一瞬で飲み込む……が、
パアン、と突然ビームが弾けた。そしてなおも迫り来るベルンザークの姿が。
「威力はあるようだが、迷宮を総べる私には通用せんぞ!」
うおおおお――!! これは強い! と、待て待て。興奮してる場合じゃないぞ!
ベルンザークは俺達の近くに着地し、突撃してくる。間近まで迫られようとしている中……これは、やるしかない!
俺は即断し足を前に出す。攻勢に転じる――それにベルンザークは少なからず驚いた様子。
「この状況下で前に、か! 度胸だけは認めてやろう!」
肉薄する俺とベルンザーク……さて、通用するかどうか――
俺は右手に力を集め、放ったのは先ほどと同じビーム。ただプレルからもらった道具を利用した、力を結集した一撃だ。
ただしこれは効果範囲が小さくなるため、避けられやすくなる……だからこそ近距離で、かわされにくい状況下で仕掛ける!
俺の目論見は、見事成功する。ベルンザークが俺の攻撃をものともしない点もあったが、俺のビームが、相手の胸部へ直撃した。
とはいえ、鎧を抜けるかどうか不安もあったが……その白銀の鎧が砕かれ、見事相手を撃ち抜く!
「ぐっ……!?」
思わぬ攻撃にベルンザークはたじろいだ。さすがに一撃とはいかないが、それなりにダメージは与えたか。
ならば、追撃――!!
「もう一発だ!」
さらなるビームを繰り出し、それがベルンザークの脳天へと突き刺さった!
よし、と心の中で呟くと同時、相手の体が一気に吹き飛ぶ。頭部に当たったことで体の自由が効かなくなったのか、盛大に床に倒れ込んだ。
「さすがだな、ゼノ」
後方からプレルの声。一度首を向ければ笑みを浮かべる彼女の姿。
「迷宮管理者の力を行使していても、これだけ対抗できる……その調子でもう少々頑張ってくれ」
「……なるほど、相当な手練れというわけか」
次いでベルンザークの声。視線を戻せばゆっくりと相手が起き上がっている。
「迷宮管理者としての力を活用してもなお、弾き飛ばされるとは……貴様、何者だ?」
「悪いけど、それは俺も知りたいくらいなんだが」
こちらの言葉にベルンザークは一度眉をひそめる。
「……まあいい、そういうことならば相応の力で応じるまで」
さらに迷宮が震える。さっきよりも力が増幅しているわけだが……プレルは数分耐えればいいと語っていたが、この調子だと果たしてどこまでもつのか。
気付けば鎧も再生されている。どうやら装備は体の一部らしい……この能力も厄介だな。
とはいえ、考えている余裕はない――ベルンザークが仕掛ける。それを俺は拳に力を集めて真正面から激突する!
次の瞬間、ギシリと体から大きく軋むような音が……けれどどうにか耐える。次いでこちらはゼロ距離からビーム射撃!
真正面に光が炸裂し、ベルンザークは反動により大きく後退させられる。ダメージはあったみたいだが、精神的な衝撃は少ないためかすぐに体勢を立て直す。
さらに突撃を敢行する魔族――それに俺は持てる力で対応する。一時でも気を緩めれば間違いなく全てが終わる。ベルンザークはさらに迷宮管理者としての力を高め、俺を打ち破ろうとするが……こちらもそれに呼応するように拳を振るう。
その時間は……プレルが予告した通り、ほんの数分の出来事で間違いない。だが俺にとってみれば途轍もなく長い時間のように感じられ――景色だってスローになっていく。
そうした中で俺はベルンザークを見据える。迷宮管理者である自身に対抗する俺に恐れなどは抱いていない。むしろこうやって打ち合うことが、楽しいとさえ思っている雰囲気だった。
そんな表情をするのは、まだ余裕があるためか、それとも――胸中で考えていた時、
「完成したぞ!」
プレルが叫ぶ。同時に、広間からこれまでと違う力が生じる。
それと同時にベルンザークは後退し――俺はそこでビームを放つ。
こちらの攻撃が直撃し、相手は動きを止める……同時、広間はプレルの魔法によって、一時白い光に包まれた。




