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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

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手を組む魔族

 翌日、俺は屋敷を離れ目的地へと向かう。今回の迷宮内における戦いは人間側が参加するわけではないが、とりあえず馬車移動はできた。


「そういえば……オーゴはベルンザークの手勢が攻めてくるとは言っていたが、ベルンザークそのものが攻めてくる可能性は考慮していないのか?」


 シェノによれば迷宮管理者になったらそれ以外の場所へはいけないって話だけど……例えば一時的に権利を譲渡するとか――そんなことしたら部下に裏切られたりするか。


「ともあれ、ベルンザークを倒さない限りこの戦いは終わらない……気合いを入れないと」


 オーゴは俺のことを見込んで大役を頼んだわけだが……ファグラントを打ち破ったとはいえ、果たして俺に迷宮管理者としての力を持つ相手を打ち破ることはできるのか? 疑問はあったが、そこは今回手を組む魔族と連携して、ってところだろうか。

 色々と疑問はある中で馬車は進み続け……目的地へ。森の中に存在する迷宮の入口であり、俺は恐る恐るといった感じで中へと入る。


 中は……最初に目覚めた空間とどこか似ている。魔法による明かりは存在するのだがどこか不気味で、怪しく室内を照らしているように感じた。

 歩いていると、俺は魔物の姿を発見する。ビームで倒すかと思った矢先、その魔物は俺のことに気付くと道を開けた。


「……既に連絡は届いているってことか」


 呟き俺は通路を進む。すると壁に張り紙らしき物が。

 それには矢印的なものが描かれ、進むべき道を示している……ずいぶんと親切だな。


「というか、こんなことするくらいなら迎えに来ればいいんじゃないの?」


 そんなツッコミを入れながら順路に従い進んでいく。やがて目の前に扉が現れ、ノックをすると「どうぞー」と中から声が。

 声色は女性っぽいな。俺は扉を開けて中を確認。扉から奥へ通路が続いているのだが、その左右には所狭しとテーブルが設置され、資料などが山積みとなっている。


 そして部屋の奥に存在しているのが……白いローブを着た魔族。背丈は低い上に肩まで伸びた茶髪を揺らし、俺に背中を見せて何事かブツブツと呟いている。

 正直、不気味である……でも目の前の魔族が今回手を組む存在なわけだから、きちんと接しないと。


「あなたが今回、戦いに協力する魔族か?」


 問い掛けに、魔族は突如作業を止めて振り返る。

 顔つきは……やや切れ目の美人。部屋の中身やローブ姿もあって俺には目の前の魔族が研究者か何かのように見えた。


「ああ、そうだ。君の名前はゼノだったな」

「ああ。オーゴの紹介でここに来たんだが」

「そう、私が今回君と手を組む魔族だ。名はプレル。よろしく」


 どこか芝居がかった口調と所作。魔族はそこで腕を組み、俺のことをじーっと眺める。


「なるほど、傍からその実力を窺い知ることは難しいな……ファグラントを討ったとは本当か?」

「ああ」

「ま、それなら今回の作戦で上手くやれば、ベルンザークを倒すことができる」


 確信を伴った発言。どういう根拠なのか訊こうと思ったのだが、彼女はそれを手で制した。


「まあ待て、立ち話もあれだから座ってゆっくり会話をしよう。茶でも用意しようか?」

「いや、いいよ。それよりどういう作戦なのか教えてくれ」

「せっかちだな。まあいい。では私の完璧な作戦を教えよう」


 自信ありげに彼女は語る……正直大丈夫かなと、心の中で思った。






 顔を突き合わせる形で椅子に座ると、プレルは口を開いた。


「私の作戦は極めてシンプルだ。魔法を用いてベルンザークが保有する迷宮管理者の権限を、一時的に封じる」

「封じる?」

「先に言っておくが管理者の権限そのものを奪うことはできない。そこはヤツを倒さない限りは。ただし、迷宮管理者の利点……迷宮そのものの魔力を行使することに策を講じることはできる」

「それが封じるってことか」

「いかにも」


 コクリと頷くプレル。相変わらず芝居じみた口調で怪しさ満点って雰囲気を発しているが……見た目が妙齢の女性なので威厳もなければ迫力もない。


「ベルンザークとファグラントは、元々同じくらいの力を所持した魔族だった。両者は事あるごとに出会っては戦いを繰り返すような間柄だったのだが、ある時決闘をした。負けたら支配を受けるって条件で」

「それでベルンザークが勝ったと」

「そうだ。戦いは拮抗し、ほんのわずかな差だったようだな」


 プレルはどこか嬉々として語る。


「よって、迷宮管理者としての力を封じてしまえば、ファグラントを倒したゼノ君の力であれば十分勝てるというわけだ」


 なるほど……ファグラントにおいても最後の最後で魔物の力を吸収し俺と戦った。素の力は俺と比べて低いと考えていいだろうし、迷宮管理者としての力を抑え込めば、確かに勝てそうだ。


「ベルンザークに私の魔法を使うには、その近くまで行かなければならない。よって君がやるべきことは戦いが始まった以降の私の護衛だ」

「あんたは戦う能力ないのか?」

「見て想像できたかもしれないが、私は基本研究を主とする」


 周囲には資料の束。正直迷宮とは不釣り合い。


「この迷宮について色々と調べていてな……まあ他の魔族からすれば変人と解釈されているわけだが、今回の戦いでそれが役に立つわけだ」

「それはわかったけど……ベルンザークの近くまで連れていけばいいんだな?」

「そうだ。頼むぞ」


 ……戦力的には頼りにならないってわけか。でも何もできないとなると相当しんどいぞ。


「自衛の手段とかはないのか? 通路で挟まれたりしたら面倒なことになるぞ」

「防御の魔法くらいは持っているし、低級の魔族ならば追い払える。とはいえ迷宮管理者としての力もヤツの領域に入れば使えないから、あまり期待しないでくれ」


 なるほどね……ま、自分の身を多少ながら守れるのなら、なんとかなるか。


「わかったよ。あんたの作戦はベルンザークを倒す上で不可欠……頑張るさ。ただ、一つだけ質問が」

「何だ?」

「あんたはなぜ、この戦いに参加しようと思った?」


 尋ねるとプレルは意味深な笑みを浮かべ、


「ベルンザークの管理領域に、迷宮の深部へとつながる道がある。私はそこにこの迷宮を統括する存在がいると踏んでいる」


 そう述べたプレルは、真っ直ぐな瞳で俺を射抜き、


「私は迷宮の真実を知りたい……それだけだ」

「……わかった。俺も同じような考えを持っている。頑張ろう」

「ああ、よろしく」


 握手を交わす。なんというか、似たような目的を抱えた同士、ってことか……ともあれ、俺の目的を果たすのに最良の選択であることは間違いなさそうだった。


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