再会
ザナン討伐から始まり、シェノ、オーゴという魔族と協力関係を結んだ……成果としては上々であり、俺としては考えていたよりもずっと多くの結果を残した。
というわけで一度都へ戻ることに……うん、心の中では帰りたくないと呟いているのだけれど、こればかりは仕方がない。
「ゼノ殿、本当に感謝する」
帰り際、ファラは俺にそう言った。
「ゼノ殿がここに来たことで、魔族との戦いが劇的に変化した。感謝してもしきれない」
「できれば、これを壊さないで持続してほしいんだけど」
「無論だ」
深々と頷くファラ――ちなみにこの場にシェノやオーゴの姿はない。彼らにも俺については説明してあり、もし何かあればファラを介して連絡がつくようにしてある。オーゴについては人間と顔を突き合わせて問題ないのかと問い掛けたが、彼自身「気にしていない」と一言で片付けた。
魔族は人間にとって敵……そういう認識でおおよそ合っていると思うのだが、中にはオーゴのように自分の領域さえ守れれば人間と手を組むようなこともいとわない存在というのも、一定数いるようだ。
「たぶんだけど、ファグラントとの戦いをきっかけにして、迷宮内も大きく変わろうとしている……どういう事態になるのか注視する必要があると思うぞ」
「わかっている。私としても観察すべきことであるし、またゼノ殿のおかげで手に入れた迷宮攻略の糸口を手放したくはない。全力で取り組むさ」
うん、大丈夫そうだな……そういうわけで、
「それでは」
「ああ」
手を振って別れる……こうして俺は、都へ戻ることとなった。
馬車移動により俺は都へ舞い戻ったのだが……屋敷へ戻る前に呼ばれた。といっても王様と謁見するわけではない。
「待っていた、ゼノ殿」
現在いるのは、ギルフォードの屋敷。そこで彼と話をすることになった。
また、傍らには騎士クローの姿もある。
「報告、聞かせてもらった。私からも礼を言いたい」
「俺としては自分のためにやったことだから、別にいいさ」
「というより、話の流れ的にこういう結果になった、か」
ギルフォードが述べる。うん、正解だ。
「どういう経緯であれ、結果はこちらの想定以上だった……重臣の方々もこの結果には驚き、満足している」
「ひとまず敵を作ることはなかったと?」
「ああ、そう思ってもらって構わない」
「ただ、魔族を味方に引き込んだこと……良く思わない人間だっているんじゃないのか?」
「ゼロではないだろうが、少なくとも表立って反応してはいないな」
「そこが一番気掛かりだから、対処しておいてほしい」
「わかったそこについては細心の注意を払おう。なおかつ現地のファラと連携し、関係維持に尽力させてもらう」
……大丈夫かなと心の中で呟いたが、ギルフォードはニコリとなった。
「そう警戒しなくても大丈夫だ。敵意のない魔族が協力関係を結んだのはいいことだと城側も認識している。例えば人間が迷宮管理者となるため動くといったことにはならないさ」
「根拠はあるのか?」
「言ってみれば、歴史が語っている」
歴史? 首を傾げているとクローから説明が入った。
「過去、人間が迷宮管理者となって攻略しようとしたこともあったそうです。しかしそのどれもが頓挫し、また迷宮管理者としての権限も数年しかもたなかった」
「もたなかったって、人間の器で管理者は無理だと?」
「力の問題ではなく、ああした場所がどれだけ人間にとって過酷な環境なのか、ということだ」
そう述べたのはギルフォード。
「人間でも迷宮管理者となることはできるのだが、この管理者という資格自体は魔族が座るために作られたものだ。よって人間が管理者となっても権限などに制限が掛かる。加え、迷宮の鬱屈とした環境が、人間に牙をむく」
「ああ、なるほどな……つまり、迷宮で暮らすことができず耐えられないってことか」
「そうだ。元々私達人間は大地の上で暮らす存在だ。迷宮という環境はそうした人間にとって過酷なものであり、異常な環境。管理者になったとしても、体が耐えきれないというわけだ」
まあ、そういうことなら俺が危惧していた事態はないか……。
「ただ、そうした失敗の歴史があるにも関わらず、試みようとするケースもある……そこについては私達で上手く止めるさ」
「大丈夫なのか?」
「これについてはゼノ殿に頼ることはできないからな。頑張らせてもらうし、信用してもらいたい」
……ここまで言っているのだから、俺も頷くことにした。
「さて、おめでたい話でできれば終わりたいのだが……実はあまり良くない話もある」
「何か事件でもあったのか?」
「湖とは別所の迷宮入口から、魔物が出現した」
む、深刻な話だな。
「ただしそれらはきちんと討伐した……ゼノ殿と協力関係を結んだ魔族……名はオーゴといったか。彼の情報から考慮しても、魔族ベルンザークが動いている兆候と見て間違いないだろう」
「……ファグラントの時は、迷宮の中でも端っこの方だったよな? 密かに侵攻しようとしていたわけだけど、今回は違うと?」
「どういった意図があるのかはこちらにもわからないが……仮にベルンザークが直接的に地上侵攻を目論んでいなかったとしても、魔物が地上に出現するほどに迷宮内には魔物が存在しているのは確定的……意図は不明にしても、何か動こうとしているのは間違いない」
それは地上侵攻が目的ではなく、もしかするとオーゴとかの動きを察知して……という可能性も否定できないな。ともかく迷宮内は情勢が大きく変化しつつあるらしい……注意しなければ。
「その中で俺はどうすれば?」
「ひとまず魔族との連携はこちらでやる。報告では魔族シェノ及び魔族オーゴとの関係も良好らしいから、それを壊さないようにしていく」
「何かあったら俺が仲裁に入ってもいい。だから頼むよ」
「ああ」
ギルフォードは深々と頷く。これでひとまず話は終わりか……さて、次は――
「ゼノ殿、屋敷に戻るだろう?」
「あ、うん、まあ」
「嫌そうだな……それはいいとして、実を言うと屋敷で待っている人がいる」
「俺を?」
「君が帰ってくるということで、屋敷を訪ねると言っていた」
誰だ……と一瞬考えて、すぐに察した。
「わかりました」
俺はそう応じた後部屋を去り、屋敷を出た。そこから自分の屋敷へと辿り着き、中へ。
侍女とかが近づいて一斉に「おかえりなさいませ」と告げるのだが……全員が一様に頭を下げるものだから変に緊張する。そのうち慣れるとは思うけどさ……。
まあいい。俺は客が来ているとの報告を受け、その人物が待つ客室へ。
軽くノックをして部屋の扉を開ける。そこに、
「や、久しぶり」
「ミーシャ……」
都に辿り着いて以降、一度も顔を合わさなかったミーシャが、そこにはいた。




