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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

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城の主

 元来た道を戻り地上まで帰ると、なんだかちょっと安心してくる……魔族だけど頭の中は人間だからな。やっぱり迷宮そのものと合わないのかも。


「ゼノ殿、帰ってきたか」


 で、ログハウスへ戻ろうとするとファラが話し掛けてきた。


「迷宮の中を散策していたようだが」

「あ、うん。それが――」


 シェノの管理外にあった地底の城について説明。すると彼女も興味を持ったらしく、小さく「ふむ」と呟いた。


「聞いたことがないな……そもそもこの湖周辺の迷宮は魔族も存在していたし手付かずだったからな。まだまだ知らないことが多い」

「もし城から魔物とかやってきたら……」

「可能性としては十分あり得るな。そう距離もないようだし」

「どうしたの?」


 ここでシェノの分身が登場。俺が地底の城について話すと、彼女は小首を傾げた。


「そんなものがあるんだ」

「……知らないのか?」

「私は基本、湖周辺しか知らないし」


 彼女の知識外か……しかしあの佇まいは相当な魔族がいそうな気配。


「俺としては是非調べたいところなんだけど……さすがに厳しいか?」

「地底にある城……そこにどういう存在がいるのかなど不明なことが多いからな。正直下手に接触して地上にまで侵攻されてはまずい」

「そうだよな……」


 となると放置……? と、シェノが手を上げた。


「私の迷宮に隣接する場所なら、調べることができるかも」

「え、本当か?」

「うん。だけど詳細はわからないよ。精々どのくらいの力を持った存在が迷宮管理者をしているか、くらい」

「それでも十分だ。早速頼んでいいか?」

「わかった。結果がわかるまで半日くらいかかるよ?」

「うん、頼む」


 ――そうしてシェノの本体は作業を開始する。一方俺は暇になったわけだけど……。


「ゼノ殿、都へ戻るのはもう少し先になりそうだな」

「だな。もし調べがついたら地底の城を調べるのは……」

「正直、私としてはきちんと迷宮で防備を固めてからが望ましいな」


 兵士や騎士が迷宮に入り込んでいるからな。彼らの安全が保証されるまで深追いはしてほしくないのだろう。


「あー、わかった。それじゃあとりあえず――」


 ログハウスに戻っていると言おうとした時、兵士がファラの元まで駆け寄ってきた。


「た、隊長!」

「どうした?」

「迷宮から緊急伝令です!」


 緊急――もしや俺が深入りしたことで何か起きたのか?


「内容は?」

「それが――」

「あ、あの……!」


 そこでシェノの分身がまたも近づいてきた。こっちは何事かと思った矢先、


「突如魔族が現れ――その、話がしたいと」

「魔族が私の管理内に入り込んだ。で、私と話がしたいって……!」


 ほぼ同じ内容を、兵士とシェノは告げた。


「……何?」


 訝しげな目をするファラ。俺も内心同意だった。魔族が襲撃ならわかる。けれど訪れて話がしたい?


「……その魔族はどこから来た?」


 俺はシェノ問い掛ける。すると、


「……ゼノが向かった方角」

「地底の城の主ってことか……?」

「ふむ、話がしたいと言って一網打尽にする可能性も否定できないな」


 ファラが述べる。うん、こういう事態になったのはたぶん俺のせいもあるだろう。よって、


「ひとまず話は俺が聞こう。何かあったら連絡ってことで」

「わかった。というか元々ゼノ殿が招き入れた客人だ。頑張ってくれ」

「了解」


 そういうわけで、またも仕事……まあシェノと遭遇した時のように、事態が大きく動きそうだし気合いを入れよう。






 舞台は変わって迷宮内。その魔族と俺は、ザナンと最初に戦った広間で会うこととなった。

 こちらが腕を組み待っていると、やがて入口から魔族が現れる。


「ふむ、君がザナンを破った魔族か」


 ――見た目、初老の紳士といった感じ。大柄で肩幅も広く、元武人のような雰囲気を醸し出している。

 髪も年齢に合わせて白髪混じりなのだが……魔族だし、見た目通りの年齢なのかはわからない。


「ああ、俺がザナンを倒した……で、あんたは地底の城の主か?」

「いかにも。少しばかり様子を見に来たようだったから、是非とも挨拶を、と思ったのだ」


 にこやかに語る魔族。一見すると敵対する意思はなさそうに見える。


「私の名はオーゴ。貴殿が語った通り城の主だ」

「……発見した時どうしようかと思っていたから、そっちから来てくれたのは幸いだな」

「どうかな? ここで私は攻撃を開始するかもしれんぞ?」

「だったらあんたを倒して城の主にでもなるさ」


 そう言い返した瞬間、オーゴは笑い出した。


「なるほど……いや、私もザナンを倒すような御仁に喧嘩を売るつもりはない。今回は単なる挨拶だ。新たな隣人がどういう存在なのか、確認しておかなければならなかったからな」

「……ここの新たな管理者は人間と手を結んでいる。そういう場合はどうするんだ?」

「そちらが下手に干渉してこなければ、私は何もしない。基本私はどこの管理者とも中立的な立場を維持しているからな」


 ……すぐさま襲い掛かってこないのは幸いか。そしてやりようによっては交渉とかできそうだ。

 それに、なんだか情報を持っていそうだし……。


「……まず人間側が湖の下にある迷宮を制圧して、どうするかまではわからない。駐屯していた騎士の隊長は悪いようにはしないと言っているけど」

「湖周辺は探索しても実入りが少ないからな。人間側はすぐに興味をなくすと私は勝手に思っているが」


 そう述べると彼の眼光が俺を射抜く。


「ただ、どうやら君は少し違うようだな」

「……俺の目的は、迷宮最深部を目指すことだ。俺はここ最近、突然迷宮の中で目覚めた。その経緯とか、理由とかを知りたいんだ」

「自分探しのために、危険なところに潜り込むのか?」

「俺にとってはそれだけ価値のあるものだと解釈してくれ」


 その言葉で「なるほど」と呟くオーゴ。反応は悪くないな。


「ならば……人間が何かをせずとも、貴殿は独自に動くつもりか?」

「できればそうしたいけど、迷宮というのは俺単独でどうにかできるような代物でもなさそうだからな……個人的に協力者を見つけ迷宮探索をしたいけど」

「最深部を目指すということは、少なくとも私が管理している場所を欲しているとか、そういう考えはないのか?」

「そこは一切ない」


 キッパリ否定。オーゴは「そうか」と呟く。


「感触は悪くないな。私としては変にもめ事を起こさなければ自由に通行してもらって構わないぞ」

「いいのか?」

「ああ」


 これはかなり大きな進展ではなかろうか。


「わかった、ならもし迷宮探索に入る場合は、よろしく頼むよ」

「いいだろう……ザナンの時はずいぶんと高圧的だったが、今回は違うようだな」

「アイツと一緒にされるのは嫌だな」


 俺は肩をすくめる。オーゴは「そうか」と答え、


「今日は仲良くなるために訪れた。そちらが平和的に事を進めるなら、こちらもそれに従おう」


 ――話し合いは上々といったところか。ひとまず無難にまとまった。

 あとは、そうだな……少し話し合ったら情報とかくれるだろうか?


 俺はそんな期待を抱きながら……オーゴへ向け口を開いた。


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