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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

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新たな管理者

「が――」


 短いうめき声と共に、ザナンの体は崩れ始め、消えた。


「……ま、あんたみたいに人を見下しているのが魔族の大多数なんだろうけど、な」


 あのまま交渉しても悪い方向にしかならないだろう……そう確信できた。


「さて、ミッション完了。魔物は消えたはずだし、あとはシェノの本体を見つけ出せば終了だ」


 そう思っていると、背後に気配。振り向き相手を確認すると、シェノだった。


「ザナンの気配がなくなったから様子を見に来たんだけど……」

「本体か?」


 こちらの疑問に彼女は小さく頷いた。


「うん。倒したの?」

「ああ、迷宮管理者……確かに強かった」


 俺の言葉をただただ驚きをもって受け入れるシェノ。彼女にとってはザナンという存在は絶対的なものだったってわけだ。


「で、ここからどうするんだ?」

「……ザナンが消えた以上、私が迷宮管理者にならないと」

「ならないと? 誰かが絶対にならないとまずいのか?」

「迷宮の魔力を管理する存在がいなくなると、魔物とかが大量発生するの」


 へー、なるほど……ん、待てよ。俺が最初にいた辺境の迷宮にもそういう管理者がいたのか?

 それともファグラントが管理者を……? 疑問はあったけど、もし問題が出たら国が対処するだろうし、問題ないか。国側だってこの辺りのことは認識しているだろうし。


「この管理者というのは誰でもなれるの。ゼノさんは騎士と手を組んでいたよね? たぶん魔術師さんとかが管理者となるつもりだったんじゃないかな。実際人が管理者になるケースもあるみたいだし」

「そっか……で、それはどこにいけばなれるんだ?」

「こっち」


 指を差す。彼女の案内が始まり、俺はそれについていく。

 いくつか角を曲がった後、辿り着いたのはドーム型の空間。その中央に何やら紋様が施されていて、魔法陣のような感じに見えた。


「この場所に魔力を注ぐと、管理者となることができるの。ただし、前任者が滅ぶか辞退していないと無理だけど」


 解説する間にシェノは部屋の中央に立つ。


「俺はこの場にいていいのか?」

「うん、大丈夫――」


 そう答え準備をしようとした時だった。

 突然、部屋の天井から気配。何事かと見上げると黒い、スライムのような見た目の存在がシェノの頭へ降り注ごうとしていた。


「危ない!」


 即座に俺は地を蹴った。彼女を抱え中央から離れると、シェノの立っていた場所に漆黒が降り注ぐ。


「これは……罠か?」

『――そう易々と渡すわけにはいかないな』


 声がした。エコーがかったそれは、先ほど戦っていた魔族と同じ声。


「まだ生きていたか」

『生きていた、とは少し違うな。この場所は迷宮管理者にとって肝にあたる部分。守るのは当然の話だ』


 本体とは別に残していた分身ってところか。


『しかし、ここに来たということは本体は滅んだか……まあいい、ならばこの私が管理者を引き継ぐまで』


 形を成し、見た目は先ほどまで戦っていたザナンとなる。本体よりも力はないはずだし、撃破はそう難しくない……と思うのだが。


『魔族同士が結託して本体を打ち破ったか』

「どういうことなのかは、ご想像にお任せするよ。シェノ、後ろにいてくれ」

「うん」


 頷く彼女。そしてザナンは部屋の中央で、突如魔力を噴出させた。


『ここに来たことを後悔させてやろう』


 ――この場所が迷宮における魔力スポットなのか、相当な魔力がザナンの分身に注ぎ込まれている。いや、こうした場所だから迷宮管理者となるための魔法陣が存在しているってことか。

 それに俺は対抗するように魔力を静かに体へ集め始めた。どうやら分身は俺とザナン本体の戦いを知っているわけではない。ならばこちらの実力がわからないうちに仕留めた方がいい。


『終わりだ』


 ザナンが迫る。それに俺は右手を突き出し、相手を滅するべく魔力を高める。

 直後、魔族の拳が繰り出され、俺はそれを阻むようにビームを撃った。この攻撃は相手にとって多少ながら驚きを与えたらしく、目をわずかに開いた。


 けれど相手は構わず仕掛け、拳とビームがせめぎ合う。迷宮管理者としての力を行使するザナンは、分身でありながら確かに脅威。しかし力はやはり本体の方が上だった。

 途端にザナンは苦境に立たされる。ここに来て彼は理解したようだ……戦い続ければ確実に自分が滅ぶと。


『くっ……!』


 呻き、退くか悩んだ。ただそれは俺にとって付け入る隙となる。

 どうしようか判断を迷ったことで、俺は一気に押し込む――結果、ビームが一気に拳を飲み込み、


『――ガアアアッ!』


 声を上げるザナン。ビームに飲み込まれた体は本体とは異なり一撃で死滅していき……やがて、跡形もなく消え去った。


「よし、これで終わりだな」

「あ、ありがとう」


 礼を述べるシェノに、俺は肩をすくめた。


「協力者だから当然だよ。それに、もし礼をするなら今後迷宮攻略を始めた時に」

「わかった」


 頷いた彼女は再び魔法陣の中央へ。一応他に異常がないかを確認し、


「始めるよ」


 呟き、彼女の体から魔力が発せられた。

 それにより、周囲に渦巻き始める迷宮の力がシェノを取り巻き始め――まるで彼女を見定めるように渦を巻く。


 時間にして、五分ほどだろうか……沈黙している間に魔力が静まっていく。これで終わりなのかと思っていると、彼女は俺へ体を向けた。


「できたよ」

「もう、か……それで、迷宮管理者となったら何ができるんだ?」

「魔物の管理とか、この力を利用して迷宮内に色々と部屋を作ったりとか」


 ダンジョンマスターって感じだな。


「わかった。俺は一度外に出て騎士達と会ってくる。シェノは?」

「分身は外にいるから、それで話をするよ」

「よし。ならそれで」


 結論が出たので俺は部屋を出る。シェノはどうも迷宮管理者としてやることがあるから、まだこの部屋に残るらしい。

 ふむ、ザナンの態度から考えても彼女は味方……で、いいんだろうな。ここまで協力してくれたわけだし、変に警戒しすぎかもしれない……ザナンを倒し魔物の出現自体は防いだのだ。結果としては上々か。


 問題は、騎士側の対応。魔族を倒し、別の魔族が迷宮管理者となったわけだけど……シェノはこっちの味方という感じだが、強硬な人間は「その魔族を追い出し人間で管理しよう」とか言い出しかねない。

 シェノは人間が管理を行ったという話もあるって言っていたが……正直、この迷宮は基本魔物や魔族のものであり、人間が深く立ち入るべきではない気がする。そんなことを思うのは俺が魔族だからなのか、それとも――


 色々と考えながら、俺は足を迷宮の入口へ向ける。元来た道を辿るつもりはない。迷うかもしれないけど、どうせなら地上から……そんなことを思いながら、魔物がいなくなった迷宮を歩き続けた。


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