せめぎ合い
こちらが動いた矢先、ザナンは腕をかざし黒い光弾を放った。
「これで終わりでは話にならないぞ」
声は聞こえたが、答えることなくビームで対抗。双方が激突し、打ち勝ったのは――俺だ。
光弾を消し飛ばし、ビームがザナンに直撃……する前に彼は回避に転じた。
「迷宮管理者の私と互角とは、よほど力を持った存在のようだな」
「どうも」
追撃のビーム。だがそれもザナンは避ける。
発射するよりも早く動いていることから、たぶん俺が腕をかざす位置でどこに撃つのかを見極めているらしい。
回避力は高い……ふむ、遠距離から攻撃していても埒が明かないな。
「考えているようだが……手は一つしかあるまい」
ザナンが言う――ビームを撃っても当たらないのならば、残る手段は接近戦。相手も同じことを思っている様子であり……ザナンもそれを望んでいるような雰囲気。
となれば当然ながらそれに乗っかるのは罠なわけで……俺はビームを撃つ構えを見せたまま、立ち止まった。
「来ないのか?」
尋ねるザナン。ふむ、こっちとしては出方を窺うつもりなんだけど……どうするのかな。
「まあいい。それならそれでやり方はある」
接近戦はないと読んだか、ザナンはさらに魔力を高める。
それと同時、背後で気配。一瞬だけ振り向くと、俺達が通ってきた通路の入口が、魔法で封鎖されていた。
「これで逃げ場はない」
彼は魔力を解放。頭上に突如巨大な光球が生まれた。
それを見て、直感する――数秒後にそれは破裂して、周囲に光が拡散する。全方位攻撃――俺がどう動こうとも絶対に逃れられない手法で仕掛けるというわけか。
対処法としては防御結界を作るか、仕掛けて魔法そのものを潰す……後者はもう間に合わない。ならば、
「弾けろ」
一言。直後光球が、爆散した。
轟音と共に光弾が床や壁に突き刺さる。壊れるようなことはないようだが、威力は相当なもののようで分裂した光弾から相当な力を感じられた。
なら俺は――両腕を交差させて、防御開始。それにザナンは笑った。防げるはずがない。そういう自信が表情から見て取れた。
さて、どうなるか……光弾が直撃するが、俺の防御の前に阻まれる。うん、こっちの結界はきちんと動作している。
やがて光が俺を包み、一挙に襲い掛かってくる……が、それも全て防いで見せた。少しすると視界が晴れ、眉をひそめるザナンが見えた。
「今のを、防ぐか」
驚いている間にビームを放つが、それもまたかわされる。うん、この方法では駄目だな。
ならもっと……この空間を覆うくらいの攻撃がいる。そうだな、先ほどのザナンの攻撃……これを真似してみるか。
俺は次の攻撃準備を始めようとしているザナンに対し、両手を左右に広げた。隙を大きく見せる俺に、さらなる困惑の表情が映る。
「何……?」
呟きが聞こえると同時、俺の頭上にザナンが作り上げたような光球が出現した。それに相手は瞠目。同じ攻撃――そう認識したことだろう。
そして俺は光を、爆散させる!
「いけっ!」
声と共に光弾が縦横無尽に広間を駆け巡る。これにはザナンも回避は難しいと判断したか、手をかざし防御の構えをとった。
結構力を入れた攻撃だ。果たして――そう思った矢先光弾の一つが突き刺さる。結果は、一瞬で相手の防御を弾き飛ばした。
「な――」
さすがにこれは相手も予想外だっただろう。俺は目論見が達成したと確信して口の端に笑みを浮かべる。
そして多数の光弾が相手の体へ突き刺さる。迷宮管理者であることを踏まえれば、耐えきるとは思うが……果たしてダメージは如何ほどか。
四散した光弾はあっという間に勝利され、静寂が生まれる。そして真正面に見えたのは、肩で息をする魔族の姿だった。
「何だ……その力は……」
「正直、そんなに力を入れたわけじゃないんだが」
こっちのコメントに鋭い視線を投げてくる。ふむ、迷宮管理者としての力を保有する魔族相手でも勝てるか。これはいい勉強になった。
さて、ここで逃げられるのもまずいため、さっさと決着をつけるべき……そう判断した俺は、再度光弾を形成する。
「ぐ……!」
さすがにこれ以上はまずいと判断したか、ザナンは魔力を高め俺と同じような光弾を作る。
同じような魔法――というか正直俺はザナンの攻撃を真似ただけだが――これでどちらが上か決まる。もっともザナンは攻撃を受け続けて多少なりとも疲弊している。有利なのは間違いなくこちら。
「舐めるな!」
ザナンが吠える。俺の心の声を聞いたのか、にらみ殺すとでもいう風に眼光をこちらに注ぐ。
それに俺はひどく冷静な気持ちで、光弾を炸裂させた。
ザナンもまた相対する。双方が魔法を撃ち合いとなり……これでおそらく勝負は決まる。
ほぼ同時に弾け、最初の光が激突すると――俺の光がザナンの光を消し飛ばした。相殺というわけではなく、光弾は勢いを維持したまま壁へ突き刺さる。
それをザナンはどう思ったか――ともあれ彼は俺へ向け光弾を降り注いだ。それにこちらは防御で対処。また同時に光を発射し、迫り来る相手の魔法に対抗する。
結果――俺の光が次々と目の前の光を吹き飛ばしていく。その奥で、驚愕するザナンの姿。また同時に魔法を維持しながらも回避しようと試みた様子だったが、無意味だった。
次の瞬間、敵も光が全て消え去り俺のものだけが残った。そして魔族に突き刺さるこちらの魔法。悲鳴のような声が聞こえた気もしたけど、光が爆発する音によってかき消された。
相手の魔法と激突しているので、見た目に変化はなくとも威力はいくぶん落ちているはずだけど……やがて四散した光が全てなくなる。残ったのはボロボロになった魔族だけ。
「……何者だ、貴様」
「人間に味方する魔族だよ」
するとここで、ザナンは俺を見据え、
「……なぜ味方をする?」
「諸事情があってね。迷宮に入り色々と探りたくて、今はその前段階……きちんと迷宮攻略できるよう、国の信用を得るため頑張っている最中だ」
「その標的が――」
「正解。あんただ」
と、ザナンは突如笑みを浮かべた。
「……迷宮を探索できればいいのか?」
「何?」
「どういった事情があれど、迷宮に出入りできるようにすればいい……という話だろう? ならばこの私が支援しよう」
――ふむ、懐柔作戦できたか。
「さすがに滅びたくはないからな……そっちの協力は約束する。人間共には倒したと言えばいい。挑発に乗らず、迷宮内でおとなしくしていれば、そちらの面子も立つだろう?」
「……一つ、いいか?」
俺はザナンに問い掛ける。
「そうやって潜めば、この迷宮に人間がやってくるだろう。その場合はどうするんだ?」
「それは――」
間を置いた。うん、人間を迷宮に入れさせたくはないみたいだな。
「……残念だが、人間の敵である内は交渉決裂だな」
「ま……待て! わかった、人間に危害は――」
「それにあんたの目を見てわかったことが一つ」
こちらは淡々とザナンを見据え、
「心のどこかで人間を見下している……その態度はたぶん滅ぶまで消えることはないだろ。そんな気持ちがあるうちは、裏切るかもしれないし、間違いなくそういう未来しかないだろう」
口が止まった。それと共に俺は一気に間合いを詰める。
拳には魔力。ザナンは疲弊しているためか動きも鈍く、避けることはできなかった。
そして――相手が恐怖で顔を引きつらせている間に、俺の拳がザナンへ突き刺さった。




