表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/66

迷宮管理者

 結果としてシェノとファラの交渉は首尾よく進み、翌朝早速仕掛けることになった。

 もう少し様子を見て……と俺は思ったのだが、ファラ自身「早い内に仕掛けた方がいい」という判断だった。


「ずいぶん性急に仕掛けるみたいだけど……大丈夫か?」

「心配はいらない」

「……あの魔族を結構信用したみたいだな」

「これでも人を見る目はある」


 そうファラは答えると、笑みを浮かべた。


「話をして、まあ多少なりとも下心はあるようだが……それはあくまで自分の居場所を確保するためだ。魔族を味方に引き入れることはこっちとしては利することになるし、悪くはない」


 ……相手は人じゃないという野暮なツッコミは置いておいて、俺はさらに質問する。


「もし罠だった場合は……」

「そうなっても対応できるような手はずは整えておく。リスクがあるのは事実だが、本来魔族と戦う場合はこのくらいあってもおかしくない。安全策ばかりではなく、こういうやり方もしないといけない」


 勝つためには、か……俺は「わかった」と応じ、これ以降追及するのはやめにした。


 というわけで速やかに準備を始める……のだが、作戦としてはファラを始めとした騎士や兵士が魔族をおびき出すべく昨日と同様けしかける。そして引きつけている間に俺は水中にある入口から迷宮へ入り、魔族を倒す。

 水中に入る込む術については、なんとなく頭に浮かんでいる。イメージとしては結界か何かで体を覆ってしまえばいいだろう。


 作戦自体シンプルではあるのだが、シェノが仮に敵だとしたら、俺が魔族のところへ入り込んだ時点で敵がわんさかいる……って感じだろうか。全部ビームで倒せばいいんだろうけど……うーん、敵の強さによって変わるな。

 ファラ達からすれば「大幹部を倒したのだから、そう難しくはない」って感じなのかもしれないけれど……はてさて、どうなることやら。


 加えてシェノの扱いについてだけど……俺が面倒見ることになった。身体検査をして分身ってことでほとんど力を持っていないことは確定。彼女自身が何かする可能性は低いが、魔族ということで俺が面倒見ることになったわけだ。

 俺としては気にせず過ごせばいいだけ……そういうわけでログハウスの中で二人、顔を突き合わせて翌日まで過ごすことに。


 とりあえず、世間話の呈で話をすればいいかな……よって、


「なあ、ザナンって魔族はいつこの湖を統括するようになったんだ?」

「……五年くらい前かな」

「その前は、君が?」

「正確に言うと、私の親みたいな存在」

「みたい、って何だ?」

「魔族は人みたいに子供を産むってことはしないよ。私もいつのまにか迷宮の中にいて、拾われて親みたいな魔族と出会って育った」


 ……魔族の生態ってそんな感じなのか。ん、待てよ? ということは俺も同じような感じなのか?

 でも俺はどうも引き込まれた感じもあるしな……ふむ、


「なあシェノ。変なこと訊くけど、俺のことは知っていたのか?」

「……知っていた?」

「えっとだな、俺が魔族に対し立ち回っていたことは知ってるのか?」


 首を振る。ふむ、彼女は知らない……魔族の俺が今回いることで、少し探りを入れたってところだろうか。


「そっか……実は以前魔族と戦ったことがあるんだが、そいつには前世の記憶とかあったんだよ」


 俺自身がというより、こういった説明の方がわかりやすいだろう。


「俺はまったく記憶がないけど、前世があるのは確定みたいだ……迷宮で目覚める前に何かしら活動していた節があるから。シェノも同じような感じなのかと」

「ううん、何も記憶はないよ? それに迷宮で気付いた時、私は何の力も持っていなかったし」


 ということは、シェノと俺とではスタート地点が違うな。迷宮に存在する力が時折魔族を生み出している――ただし、俺みたいな例外もいるってことだろうか?

 なんにせよ、謎は深まるばかり。


「わかった……その育ての親がザナンにやられて、今どうにか打開しようと動いているってことか」

「うん。騎士と一緒にあなたなら話がわかるかなー、と」

「……ちなみにだが、自分自身を鍛えてザナンを倒すという選択肢は?」

「無理無理」


 手をパタパタと振る。分身に力がないのは確定だけど、本体も全然力がないのか?


「それじゃあ仮にザナンを倒してこの周辺の迷宮を奪還したとしても、すぐに奪われるんじゃないか?」

「迷宮管理者の資格を得れば、どうにでもなるよ」


 ……迷宮管理者?


「あ、その説明をしないといけないか。えっとね、迷宮には目に見えないけど区切りがあって、魔力の質がフロアなんかによって違うの。その区切られた範囲の魔力と同調することで、迷宮に存在する力を自分のものにできるの」


 ほう、それは面白い。


「迷宮管理者になると、その区切られた迷宮内の力を使えるようになるから、とても強くなる」

「へえ、なるほど……ってことはザナンもその力を持っている?」

「だからこそ、あれだけ魔物を作り出せるんだよ」


 つまり迷宮の力なのか……と、待てよ。


「その迷宮管理者になれば、力を大いに増やせるのか?」

「あ、でも制約があるよ。迷宮管理者はその区切られたエリアの周辺でしか活動できなくなるの」


 む、となると例えば俺が力を得るとかは厳しいのか。

 この辺りのことは、ファラとかも把握しているんだろうか……魔族が人間に協力したこともあるから、さすがにわかっているか。


 そして俺は一つ考えついた。迷宮攻略……それを少しでも楽にするためには、シェノみたいに味方になりそうな魔族を引き込み、迷宮管理者になってもらう。それにより迷宮内で安全圏を確保できるし、なおかつ迷宮周辺の地域も安全になり、人間側も得をする。

 単純に迷宮の奥深くへ行くより、勢力圏を広げる方がいいかもしれないな……なおかつこれは人間側も説得しやすいかもしれない。勢力圏を増やし地上に影響を少なくする。それは人間側にとっても都合がいいだろうし。


 一つ懸念があるとすれば、俺に対する風当たりかな……魔族を説得し勢力圏を広げる――その役目は魔族である俺だろう。迷宮における勢力圏が広がれば、俺のことを脅威と見なす存在が現れてもおかしくない。

 うーん、この辺りは判断が微妙なところだけど……まあいい。現時点では迷宮の内情もわからないし、攻略するにしてもヒントもないから大変だ。シェノを味方にできれば、迷宮内で味方が増えることになるし、攻略の第一歩としては上等だ。


「ん、わかった。俺は迷宮を攻略したいと思っている。それを成し遂げるには、シェノみたいな魔族の協力も必要不可欠だろう。今回の作戦、頑張るさ」

「お願い」


 ――詳しく話していないけど、彼女も結構大変だったんだろうな。そんな風に思えてしまうような、どこか影のある言葉だった。

 俺は「よろしく」とだけ告げ……会話は終了。それからは口数も少なく――騎士達が準備をする中で、一日が終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ