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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

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湖岸で

 ――ふと、目が覚めると真っ暗闇。あれ、と思いながら起き上がると、すっかり夜となっていた。


「……昼寝のつもりだったんだけど」


 頭をガリガリとかく。あー、これはやってしまったな。

 とはいえここまで平和に眠ることができていたのだから、あれ以降敵襲はなかったのだろう。


 俺は暗い中でログハウスを出る。外はすっかり夜も更けており、夜行性らしき鳥の鳴き声とか聞こえた。

 また、かがり火がたかれているポイントがいくつもある。おそらく見張りの兵士や騎士だな。


「ファラは……」


 周囲を見てもいない。昼間あれだけ暴れたのだから、休息も必要だろう。眠ってしまったかな?

 ま、それならそれでいいか。俺はどうしようかと悩む。とりあえず目はさえているので眠る気は起きない。けどこんな夜に出歩いているのを見られたら、怪しまれるのではないか。


「……いや、どうせ寝ることはできないし、歩くか」


 湖でも眺めて時間を潰そう。そんな風に思い、俺は静かに歩き始めた。足音が多少なりとも響くが、咎めるような人もいない。

 湖面に近づくと、淡い魔力を感じた。ふむ、敵を察知したらわかるような魔法でも使っているのかな?


 なんとなく腰を下ろし、湖を眺める。月明かりが水面を照らし、どこか幻想的と思える光景が目の前に広がっている。

 ふむ、個人的には好きだな……魔物がいなければ当分ここで過ごしたいとか思ってしまう。


「長い戦いになりそうだな……」


 魔族をどうにかしなければならないけど、肝心の魔族が見当たらない。もし発見できれば事態を大きく動かすことができると思うが。

 今は戦いが終わった後でずいぶんと湖は穏やか。まあ魔族も襲撃直後警戒しているであろうこの時にちょっかいをかけてくるとは思えないので、当面何も起こらないかな。


 この調子だと、迷宮へ再び入ることができるようになるのはいつの日か……ぼーっとそんなことを考えていた時、


「……ん?」


 湖に、気配。いや、それは気配という言葉も微妙な、違和感。探知の魔法にも引っ掛からないような力。

 なんだろう、突然湖の見た目には変化がないけれど、ほんの少しだけ、水竜が出現する時のように、魔力が。


「まさか……魔族?」


 夜襲でもする気なのだろうか? ともあれ違和感を感じたのだから、少しは調べないと。

 俺は立ち上がりゆっくりと湖岸へ。目を凝らしてみるが先ほどのような違和感はない。


 気のせいだったのか、それとも俺のことに気付いたか……もし気付いていたのならこっちに干渉してきてもおかしくない。

 ふーむ、どうしよう。ファラに言って周囲を警戒してもらうのもありか。魔族が動き出したのなら、上手くやれば誘い込むことだってできそうだけど、俺自身そんな駆け引きをやりきれる自信はない。


 ここは騎士や兵士の安全確保が優先か……そんなことを思いながら踵を返そうとした時、


「おおっと、待ってよ」


 声がした。しかも位置は横。

 すぐさま体を向け手をかざす。ビームをいつでも撃てる準備をしたのだが、


「わわっ、待った待った。いきなり攻撃はやめてよ」


 そう告げるのは、子供。青い髪を持った少女であり、服装なんかは旅してきた町で見かけた一般人と同じような物。

 ただ、こんな夜半に少女が一人、しかも俺に気付かれずここまで来るなどとは考えにくい。こいつは、


「魔族、でいいんだよな?」

「うん、そうだよ。あのー、襲い掛かったりはしないから、安心して」


 こちらを安堵させるためか、笑みを見せる少女。


「えっとね、できれば騎士さんとかに何も言わないでほしいなあ」

「……俺が湖から離れようとした時、何をしようとしたのかわかったのか?」

「まあね。私が少しだけ気配を見せたら反応したから、そのことでしょ?」


 にこやかに語る少女……ふむ、よくよく観察すれば目の前にいる少女の気配はずいぶんと希薄。おそらくだけど、眼前にいる少女は幻影かなにかで、本体は湖の中にいるんだろう。それだけ薄い気配だったから、すぐに見つけられなかったってことか。


「……わざわざ俺を呼び止めたってのは、そうまでしてバレたくないってことか」

「うんうん、そういうこと」

「で、なぜ俺が言うことを聞くと思ってる?」

「あ、うん。言いたいことはわかるんだけど、まずは話を聞いて」


 両手を挙げて敵意がないことを示しながら、少女は言う。こっちは警戒する態度を緩めぬまま、じっと窺うことにする。


「最初に言っておくけれど、私は昼間騎士さんを襲撃した魔族とは別人だよ」

「別……? それじゃあ何の目的があって干渉しにきた?」

「その、当該の魔族を倒すために」


 意味がわからない……と、少女はなおも続ける。


「えっとね、信じられないかもしれないけど、魔族だって派閥争いとか、そういう政争的なものがあるの。私はそれに巻き込まれて一度は窮地に立たされ、今はどうにか復権しようと頑張ってるところ」

「……信用できないな」


 俺はそうコメント。すると少女は小首を傾げ、


「どうして?」

「そうやって言って取り入ろうとしている、なんて可能性もゼロじゃない。昼間の戦いを目撃して、こいつは味方に引き込むべきだと判断し、話をでっち上げた、とか」

「うんまあ、そういう疑いをもたれるのは理解できるよ。でも落ち着いて。頼むから……お願いします」

「…………」

「すみません何でも言うこと聞くのでよろしくお願いします」


 あ、土下座した。この世界にも土下座ってあるんだな。


「……まあわかったけど、いくつか確認していいか?」

「どうぞ」

「まず名前は?」

「シェノといいます」

「こうやって俺に干渉してきた理由は?」

「ここで下手に騎士に警戒されるとたぶん、私が動いているのがバレちゃうので」

「つまり昼間魔物を操っていた魔族にバレるとまずいと」

「はい、そうです」

「……頭、上げていいよ」


 土下座したまま会話をするシェノに対し告げると、彼女はゆっくりと起き上がる。


「それで、具体的にどうしようと思ったんだ?」

「たぶん騎士さん達はまた仕掛けると思ったから、それと共にザナンを妨害するような魔法でも仕込んでやろうかと」

「……ザナンってのは、魔物を操っていた魔族?」

「うん、まさしく」


 どうやら魔族も一枚岩ではない……いやまあ、迷宮で味方してくれた存在もいたからな。こういう魔族がいるのは当然か。

 これはかなりチャンスだな……ただ彼女の目的は魔族の中での地位を高めること。最終的に迷宮の奥へ行き、そのためには魔族撃破も辞さない俺にとってはいずれ敵になる可能性がある。


 この場合どうするべきかなあ……少々沈黙しているとシェノがおっかなびっくりこちらを窺う。言葉を待っているその姿は、小動物のようだ。


「……復権してどうするんだ?」

「私は魔族に奪われた迷宮内の所領を取り戻したいの。その目的を叶えられれば他のことは気にしないよ」


 ……こういう味方になりそうな魔族を集めて迷宮を探るってのも悪くはないよな。うん、この出会いは良いものだと思うことにしよう。


「わかった……とはいえ全面的に信用するわけじゃない」

「う、うん」

「ひとまずこの場で倒そうとはしない」

「ありがとう」

「で、一つ質問なんだけど、その所領ってのはこの湖周辺なのか?」

「うん。具体的に言うと湖内にある島の周辺」


 そこに別の魔族が居座ってすみかを追われたってことかな?


「オッケー、事情は理解できた……が、さすがに一方的にこっちが要求受けてばかりなのはさすがにな」

「わかってる。私としてもさっさと魔族が消えて欲しい」


 そして彼女は、語る。


「あの島にいる魔族を倒すために……実は、地上以外にももう一つ道があるの――」


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