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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第二話

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広大な湖

 ファラの案内によって通されたログハウスは、ベッドもあり前線基地でありながら結構快適そうな空間だった。


「異常があれば報告させてもらう。それと駐屯地の面々には話を通しているので、自由に歩き回ってもらって構わない」


 そう告げてファラは立ち去る。残されたのは俺と、クロー。


「では、私もお暇させていただきます」

「クローさんは帰るのか?」

「そうですね。ご武運、祈っております」


 言ってファラに続き部屋から去る……さて、一人だな。


「どうするか……」


 さっきファラは「歩き回って構わない」と言っていたが、変に動き回って怪しまれるのもまずいだろう。


「とはいえ部屋にこもりっぱなしというのも……怪しまれるかな」


 考えすぎ? まあとりあえず湖そのものを少し見て回るか。

 俺は少ししてから家を出る。駐屯地であるため兵士などが歩き回っており、色々と準備を進めていることはわかる。


 ちなみに俺のことを気に掛ける人間はいない模様……まあ見られるよりはいいか。というわけで湖へ。

 改めて眺めると……海と見間違うくらいに広大であり、点在する島もそれなりに遠く、こちらの岸まで来そうにないけど。


「水が得意な魔物でもいるのかな?」


 例えば半魚人的な魔物が……あと魔族幹部は空を飛べばいいか。


 人間側からすると確かに攻めにくいのは確か。空を飛ぶには魔法を使わないといけないと思うので、それ以外は当然船だろう。周囲を見ればそれらしい船――といっても手こぎのボート――も見つけることができるので、この考えは正解のはず。


 けど、魔族からすればそこが狙い目なわけで……空を飛べる人物にしても、さすがに俺みたいに無茶できるような人はそういないだろう。そうなると数でどうしても不利になる。当然多勢に無勢。


 うん、島に満足いく戦力を送るのは無理だな! 攻めあぐねているのも頷ける……ただ、ここで俺はどう動くのか?  例えば兵を輸送する兵の護衛? ただ相手としてはその船を破壊してしまえば退路を断つことになるし、危ない……俺一人でどれだけ船で移動する兵を守れるかという話にもなるし――


「どうしたのだ?」


 ファラの声だった。振り向くとこちらに歩み寄ってくる姿が。


「首を傾げていたが」

「いや……ここで俺はどう動けばいいのかと」

「ああ、それか。まずは湖にいる魔物の殲滅に協力してもらいたい」

「湖にいる?」

「そうだ。敵は島に存在する迷宮から出現するだけでなく、湖の中にもいる」


 はー、なるほど。


「船でどうやって島まで移動するのかとか考えていたけど、それ以前の問題なのか」

「その通りだ。単純に兵を送ろうにもそもそも湖の魔物に襲撃される」

「どんな魔物なんだ?」

「鱗を持った人間……頭部は魚とほぼ同義だ」


 半魚人かな。


「他にも竜のごとき魔物がいる」

「竜……?」

「水中に棲まう竜だ。船を丸呑みできるくらいの大きい個体もいる」


 また大層な……そういえば俺は迷宮で強敵と幾度も出会ったが、巨大な敵とは遭遇した経験がないな。もし竜が出てくるなら、その竜が初めてかな。


「えっと、もし出現した場合俺はどう戦えばいい?」

「竜が出現したのならば私が仕留める。ここは任せてくれ」


 自信に満ちた表情。ふむ、対策を立てているってことか。


「ゼノ殿には他の魔物の掃討に協力をしてほしい。数の上で劣勢に立たされることが多くて、実際に犠牲者も出ている」


 数か……人間の方が本来は数で圧倒したいくらいなのに、それでも負けていたらどうしたって厳しいよな。


「ここにいる兵士だけど……駐屯地としては数は多いのか?」

「それなりに、な。ただし湖は広大であり、魔族もそれを利用し上陸地点を分散したりする。こうなるとこちらも兵をバラバラにするしかない」


 へえ、なるほどな。どうしても戦力集中が難しいのか。


「ここが重要拠点であり、国もそれを理解しているのだが……さすがに兵数が無尽蔵というわけにはいかない。他にも重要な場所はあるからな」


 苦労しているようだ……なるほど、状況は理解できた。


「そういうことなら、是非とも協力させてもらおう……もう一つ確認だけど、今回の仕事で何をすれば成功したと言える? 騎士クローから魔物の撃破と入口封鎖とか聞かされているけど」

「正直封鎖についてはできるかどうかわからない。入口そのものを封鎖するには色々と資源を投入しなければならないし、準備も必要。そもそもそれらを島まで持っていけるかどうかも怪しい」


 うーん、大変だな。


「しかしそういった道筋が立つのなら……とは思っている。ゼノ殿の役目としては、ひとまず戦況の改善だろうか」


 改善、ね……駐屯地自体ザッと見る限り例えば怪我人多数でどうしようもない状況、とはなっていない。劣勢からひっくり返すというよりは、悪い意味で現状維持しているこの湖の戦いを、どうにか優勢にしたいってところか。


「了解、わかった。善処させてもらうよ……ひとまず俺は騎士ファラの指揮下に入る。自由に使ってくれ」

「そう言ってもらえるとありがたい」


 そもそも勝手に行動して迷惑掛けるのもまずいし……一人で戦うわけではない以上、周囲には注意しないと。


「ただゼノ殿、もし自分の判断でいけると踏んだのなら、自由にしてもらって構わない」

「いいのか?」

「ファグラントを倒した御仁だ。私では手に余る部分もあるだろうし……あなたもそう言われていた方が動きやすいだろう?」


 ふむ、悪くはない物言いだけど……なんとなく、試されている感じもする。


 つまり俺が「使える」存在なのかどうか……ミーシャの件もあるのでそう疑っている様子はないが、それでも魔族ということで俺が寝返った時に備え色々対策は講じているのだろう。

 ま、最初はどうやったってこんな待遇になるよな……うん、改善できるように頑張らないと。


 そういうわけで、俺はひとまず部屋に戻ろうとして……ふと湖に存在する島に目を凝らす。

 敵が見えないかなーとか考えたけど、遠目からは確認できないな。


「敵がここから観測されるケースは稀だ」


 と、ファラが口を開く。


「それは取りも直さずこちらが警備に当たっていることを理解し、迷宮の入口はあれど魔物はいないことを装っている……と、私は考えている」


 誘っているわけか。人間側は油断して島へ上陸した際こっぴどくやられたとか、そういう経緯がもありそうだな。


「もしゼノ殿の強力により湖の魔物を倒すことができれば、情勢が大きく変化する……良くも悪くも、な」

「魔族を倒して後は任せるってことはしないさ。最後まで面倒見るよ」


 こちらの言葉にファラは笑みを浮かべた。


「助かる……さて、ここで一つ質問だが、ゼノ殿は食事をとるのか?」

「あんまり腹は減らないけど一応な」

「ならば少しばかり貴殿を招いて食事でもしようと思ったのだが」

「……そっちと二人で?」

「ああ」


 ――なんだか個人的なことを訊きたそうな感じがする。たぶんミーシャのことだろうな。


 ま、親交を深めておくのは悪くない。というわけで、


「ああ、いいよ」

「では、夕食の時間になったら呼びに行く」

「わかった。それまでに部屋に戻っているさ」


 そう告げるとファラはこの場を去る……そんな中俺は、しばし湖を眺めた後、ログハウスへ戻ることになった。


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