騎士との話し合い
俺自身がなぜ異世界にやって来たのかを探るには、迷宮へ入らなければならない……と思うが、まずそこに至るまでに様々な障害がある。まずはそれを是正しないといけない。
しかも現在は国側が迷宮を封鎖している。その間にやれることはやっておく――この世界に来るまではアニメとか見ていた普通の高校生だったのだが、今はずいぶん冷静に物事を考えることができている。もしかしてこれはこの体……魔族の特性と関係しているんだろうか?
「ま、その辺りの解明もいずれ、かな」
呟きながら俺は客室で人を待つ。騎士クローと会って数日後。彼から連絡があり、今日訪ねてくるそうだ……聖騎士団の団長、ギルフォード=アスレイが。
名前からして肩が凝りそうな感じである……と、ノックの音。返事をしながら立ち上がると扉が開き、
「貴殿がゼノ殿か」
――金髪碧眼の、絵に描いたような男前の人物が現れた。年齢は、三十手前といったところか?
身長は俺より高く、現在は士官服なのか真っ白いパリッとした衣装に身を包んでいる。前世で言うところの軍服とか、スーツとかそういう感じの正装ってところかな? なおかつ胸を張り威風堂々とした佇まいと、威圧とは異なる温和な雰囲気。第一印象は最高の一言である。
「初めまして」
「ああ。クローから話は聞いているな? 私はギルフォード=アスレイ。どういう呼び方でも構わない」
「……ではギルフォードさん。お越し頂いてありがとうございます」
「魔族幹部を倒した御仁だ。是非一度挨拶を、と思っていたので丁度よかった……それと口調も砕けたもので構わない」
言いながら俺の正面に。こちらが手で促しながら双方ソファに腰を落ち着かせる。
「では早速本題といこうか……そちらの要求は?」
「まず、最終目的としては迷宮の奥深くへ行くこと。それには人員なども必要だけど、派手に動くと城側に警戒される可能性もある」
「確かに、その通りだ」
ギルフォードはあっさりと頷いた。
「城の人間の中には迷宮攻略をせず封印を施せばいい、という考えの人間もいるため、君のことを口実にでもして厄介事が起きる可能性は否定できない」
「それをしたくないわけで、じゃあどうすれば穏便に迷宮探索ができるのか……」
「体裁としては、聖騎士団に協力するって形になるとは思う」
協力――ふむ、ここで一つ疑問が。
「クローさんは騎士団が四つあると言っていたけど」
「聞いていないのか。ならまずその説明からだ――」
――この国には四つ、違う特性の騎士団が存在しているらしい。ギルフォードが統括する聖騎士団は、簡単に言えば迷宮などから来る魔物を退治、及び迷宮の調査を担当するらしく、言わば攻守の『攻』に該当する騎士団らしい。
反対に都など町を魔物から守る騎士を『守護騎士団』と呼ぶ。こちらが『守』の役割であり、基本的に地方などに所属する騎士は迷宮に押し入るケースもないため、守護騎士団がもっとも数が多いとのこと。
「三つ目は『魔法騎士団』だ。宮廷魔術師団とは異なり言わば騎士として魔法を扱う者達が所属する。やや数は少ないが、魔法を駆使するため魔物との戦いにおいても強い」
「なるほど……四つ目は?」
「王室などを護衛する『近衛騎士団』だ。非常に人数は少なく、基本は都の中でも特に重要な施設……行政施設や王達を守る役目を持つ。ただ誰でもなれるわけではない」
「選ばれた騎士、って感じかな?」
「そういう解釈をしてもらって構わないな」
あっさりと頷く。ふむ、この中で俺は聖騎士団と協力するって体裁か。
「協力って形を取れば、少なくとも妨害されるような可能性は低くなるのか?」
「おそらくな。とはいえ魔族である以上、あまり城には深入りしない方がいいかもしれない」
「俺のことを良く思っていない人間がいるってことかな」
「魔族幹部を倒した以上、あなたのことを評価している……とは思うが、内心ではどうなのかわからない」
うーん、やっぱり上手く付き合っていかないとまずいだろうな。
とはいえ、果たしてどこまで上手く立ち回れるのか……考えているとギルフォードはさらに続ける。
「もし何の滞りもなく、かつ仲間など戦力増強についても問題ないようにするためには……より信用を得る必要があるだろう」
「信用、か。魔族の俺にできるのか?」
「仕事をすればいい」
「仕事?」
「ファグラントを倒したという実績はあるが、それは実質見えないところで行われた。ミーシャ君が説明して納得した様子だったらしいが、彼女も彼女で記憶を失っているし、その魔族が本当のファグラントだったのか……そう疑う者もいるらしい」
なるほど、そういう面でも疑われているわけだ。
「魔族という立場の君は、今以上に信用されるためには実績を上げた方がいいだろう」
「つまり俺が人間側の味方だときちんと……それこそ騎士団と一緒に行動し、証明すればいいってこと?」
「その通りだ」
うんまあこれは仕方がない……なんとかなるだろ。
「わかった。迷宮に入れるようになるにはやるしかなさそうだし、魔族討伐なんかに協力するよ」
「すまないな。現在攻めあぐねている地点があるため、まずはそこの協力をお願いしたい」
攻めあぐねている……うーん、またも疑問が。
「魔族は日々地上に侵攻してるのか? ファグラントのように」
「今まで散発的に動いていたのだが、今回大規模に動き出していることがわかった……といったところか。ただ以前から地上へ侵攻しようとしている魔族もいる。今回頼むのはそうした相手だ」
魔族側も一枚岩ではないってことかな?
「えっと、それで俺はすぐに行けばいいのか?」
「現在ファグラントを倒したことで都も警戒中であるため、それが解かれた後、正式な手順を踏んで協力をお願いする。少しの間屋敷で待っていてもらうことになるな」
「で、案内は一体誰が……」
「クローに任せよう」
うん、それなら安心だ。
「聖騎士団として、少なくとも君に危害を加えるようなことをする人間はいない。そこは安心してくれ」
……一緒に仕事をするわけだから、そんなことがあってはまずいよな。聖騎士団側も対応に気を遣うのかな。
「以上で話は終わりだ。詳しい事情は追って伝えることにするよ」
「はい、ありがとうございました」
礼を述べ、ギルフォードは部屋を去る……気付けば肩に力が入っていた。
とはいえ、まあ上々ではないだろうか。仕事を引き受けることになったけど、正直この屋敷にずっと居続けるのもそれはそれでキツイと思っていたし。
ひとまず俺のやることとしては、戦果を上げて人間側に「俺は味方です」と強くアピールすること。その上で戦力を整え、迷宮攻略に挑む……こんなところか。
「とりあえずやることが決まっただけでなんか楽になったな」
今までどうすればいいか漠然とした不安しかなかったからな……戦いに行くってことはまた迷宮の中とかで頑張らないといけないわけだけど、大幹部様を倒した実績があるんだ。大丈夫……だと思う。
「油断はしないようにしよう……」
ふと体がなまってしまわないように鍛錬とかすればいいのか考えたが、俺基本的にビーム撃つだけだからな。鍛錬もへったくれもないか。
「とはいえ、他にもっと戦法を増やした方がいいんだろうな」
ビーム一辺倒ではいずれ限界が来ると思うし……というわけで俺は出発までの間、新技とかについて頭を悩ませ続けた。




