能力を検証する
水を何度もすくって喉を潤した後、俺はさっきのビームについて考える。
死ぬ、と思った時に考えついた結果がビームであった。最後に見ていたアニメが頭に浮かんだので、宇宙空間に飛び交うビームを想像した。結果、ビームが出た。
……無茶苦茶である。
「これ、見てたアニメがファンタジーだったら、魔法っぽいものになってたのかな……」
まあ答えは出ないんだけどね……えっと、これが魔法扱いなら詠唱とかが必要な気がするけど、そうした過程もなく出せた。ということは、俺が何か能力を使う際、詠唱とかはいらないってことじゃないか?
よし、能力の検証だ。さっきのようにビームをイメージして……右手を突き出した瞬間、俺の想像通り先ほどのようなビームが出た。
うおお、マジか。もしかして、俺がイメージしたものが自由に使えるのか?
ならば、そうだな……炎を出そう。こう、手の先からゴオオ、と燃え上がるような感じで。
右の手のひらを上にして強く念じていると、手のひらから火が出てくる。それが次第に大きくなって、天井へと勢いよく燃え上がり、
「――あちっ、あちちちっ!」
顔が焼ける! 熱い!
慌てて消した。間近で見る炎は迫力あるけど、熱が半端じゃないせいで顔が熱いどころか痛い。
でも、炎を出した右手は何も感じない。魔法を使っている間は、保護でもされるのかな?
なら、体全体もそういう保護ができるのでは……ちょっと念じてみると、体に一瞬だけ違和感が。それはすぐに消えたけど、体の表面に何かまとったような気がする。
もう一度炎を出してみる。念じていると次第に燃え上がり……おお、今度は熱くないぞ。
「なるほど、これで攻撃を防御するわけだ」
結界みたいなものかな? うん、敵の攻撃を防げるような手段を見つけたことはよしとしよう。
次に右手を突き出し色々試してみると――風よ出ろ! と思うとその通り旋風が舞い、氷を! と体に指示すると目の前にパキパキと氷が生まれた。
どうやらその氷、俺の考えた通りに形を変える様子……なんとなくさっきの虎をイメージしたのだが、それっぽい四本足の動物もどきはできたけど、原型はほとんどない。
想像力が足りなかったか、単に俺のセンスの問題か……後者だな。俺、美術の成績なんて一と二しかとったことないし。
ひとまず最後の氷像以外は大体イメージ通りに出すことができた。しかし、ここで新たな問題が発生する。
「イメージして使えるのはいいけど、最初のビームと比べて遅いなあ」
念じて想像通りの形になるまで時間が掛かる。これでは戦闘に使えないのでは? うーん、最初の時は必死だったからすぐに使えたとかいう感じだろうか?
もっと早く出すためには……呼吸を整えて手を突き出す!
ビームが……出た! 洞窟の壁に直撃して岩を削る。
「ふむ、ちょっと意識すればいけるっぽいな」
炎とかも……うん、こっちも同じだ。これなら大丈夫そうかな?
けど、戦いになったら意識してとかキツイよな、たぶん……ん、待てよ。
意識して出るということは……例えば声を出すとかでも大丈夫なのかな?
「炎よ!」
試しにやってみたらすごい勢いで出た……うおお、声出しながらの方がいけるのか。
それどころか声に出した方が明らかに威力がありそうだ……よし、とりあえずやばそうだったら絶叫しながら攻撃だな! 見てくれは死ぬほど悪いけど!
戦い方はある程度決まったので、次はどうしようか……沈黙すると、ピンと張り詰めた静寂が洞窟内を支配する。
ここまであたふたとしながら時間も結構経っているんだけど……例えば魔王がやってきて「私のために働いてもらおうか」などといった展開にならない。完全放置であり、こっちとしては何をしていいのかもわからない。
まあ俺が魔族になってしまったのが誰かのせいでないとしたら、この状況にも納得いくんだけど……とりあえず、気の向くままに行動していいのかな?
なら、俺がしたいこととしては――
「よし、迷宮を出よう」
薄暗い雰囲気のこの空間では気が滅入ってしまいそうだ。とりあえず迷宮の外を目指そう。
魔王とかにしてみたら完全に予想外の行動だろうけど……俺は今、太陽を欲している。日差しを浴びたい。魔族の使命? 目的? んなもん知るか!
行動方針も決定したので、早速歩き出す。虎みたいな魔物以来敵もいないけど、できればこんな調子であってほしいなあ。
洞窟を離れて迷宮へ逆戻り……そして周囲に響くのはひたすら俺の足音だけ。しかし本当に殺風景だな。お宝とかそういう物もないのか? 明かりがあるってことは探索済みで、ここに立ち寄る必要なしと捨て置かれたのか?
うーん、現時点でわかっていることは俺は魔族で、ここは迷宮であることくらいか。情報なさ過ぎるな。
もしこの迷宮を探索する冒険者とかに遭遇したら、話をするのも手かな……まあ俺のことを見ていきなり戦闘なんて可能性も否定できない。やる場合は慎重に、だな。
俺がいた最初の部屋の扉を通り過ぎ、洞窟から反対方向の通路を進む。代わり映えのなさ過ぎる景色は正直この時点で飽きた。
少しすると、下り階段を発見。お、ダンジョンっぽくなってきたな。左右を見回すとそれぞれに通路が。
「俺がほしいのは上り階段なんだよな」
とにかく外に出たい。よって階段を進まず右の道へ。
……ふと思ったけど、外って俺が想像するような世界が広がっているんだろうか? この迷宮の外はキラキラと注がれる太陽光に、風になびく木々、青い空――みたいなイメージなんだけど、もし違ったらどうしよう。
例えば……空はどす黒く、辺り一面黒く変色した地面に、草木など一片もない、とかだったら……テンションだだ下がりである。
ま、まあここは俺のイメージを信じて進むしかないな――そんなことを考えながら、俺は通路を調べることにした。