地上への道
脇道から際限なく敵が出現し続けるけど、俺達は魔物達を利用しどうにか突破する。そのまま一気に階段を目指すが……これは、いけるぞ!
「真正面に強い魔物の気配はない。ファグラントってやつは、おそらくいない!」
俺の言葉にリーズは頷き、
「魔物に指示を出してこのまま突破を!」
「了解した!」
すぐさま魔物達へ命令。するとさらに前進する速度が増す。
おし、このまま突っ走る……! そう考え一気に階段まで到達する!
おっしゃあ! 心の中で叫びながら俺とリーズは魔物を伴い階段を上る。このまま地上に出れば逃げ切れる……いや、ファグラントがどうするかわからない。地上に出ても要警戒か。
あるいは、出口を塞ぐか? けどファグラントって魔族なら平然と破壊しそうだよな――
そんなことを思いながら階段を駆け上がり……立ち止まった。
「これは……」
リーズが呟く。前方に……悪魔やミノタウロスの姿があった。
それだけじゃない。魔物達の隙間から見える光……間違いなく地上への階段。その手前には石で形作られた魔物……ゴーレムがいた。
そのゴーレムは灰色で、なおかつ身長は俺を優に超える……ここで俺は呟く。
「地上へ続く階段手前で、精鋭を集めていたってことか……」
これを全て倒さないと地上へ行くのは厳しいか? 強引に突破できそうな気もするけど、地上に出ても間違いなく追ってくるだろう。逃げ切るには倒すしかない。
「リーズ、階段方面を観察していてくれ」
「いいけど、ゼノは?」
「俺は魔物を全部倒す」
断言――とはいえその数は少なくとも五十はいそう。一斉に掛かってきてくれたらまとめて吹っ飛ばすこともできるんだけど、こちらを窺うばかりで攻めてこない。急いで倒すなら、こっちから仕掛けるしかなさそうだ。
「レト、階段側が危ないと思ったら結界を張れ」
ニャーと返事。俺はそれに頷き返し、魔物達へ一歩前に出た。
にわかに反応する悪魔やゴーレム。だが動かない……後方ではスケルトンやミノタウロスが指示を受け同士討ちをやっていることだろう。ファグラントが来る前に、一気に倒さないと!
俺は全身に力を入れる……思えば、ここまで明確に自分の意思で戦おうとするのは、初めてかもしれない。
そして駆ける! 手近にいた悪魔へ向け、右手を突き出しビーム発射!
攻撃を受けた悪魔はあっさりと消滅する……次いで後方にいた敵も巻き添えに!
この調子なら、と思ったが悪魔達が散開を始めた。囲むつもりか?
「ゼノ!」
「わかってる!」
一斉に襲い掛かる悪魔達。囲まれた状態ってあんまり想定してないけど……これだ!
俺は地面へ向け拳を放った。イメージ通りに攻撃できるのだから、これも通用するはず!
刹那、床が発光した。すると俺の周囲に光が拡散し、それが襲い掛かろうとしていた悪魔達へと伸びる。
直後、光が衝撃波となって悪魔達へ降り注いだ――俺の周囲に衝撃波をまき散らす攻撃。よし、成功だ!
悪魔達はその攻撃によりもろくも消え去る……続けざまに俺は真正面から突撃してくるゴーレムを捉える。
足は結構速い……が、それでもビームを撃つだけの時間はある! 問答無用で発射すると、ゴーレムは青い光に飲み込まれて消えた。
この調子で――ただ魔物達は俺を囲うように迫る。ならばビームを垂れ流しするのでは無く、一瞬出して撃つを繰り返せばいいか?
俺は右手からビームを撃ち目の前の悪魔を吹き飛ばし、即座に閉じる。次いで別方向から来るミノタウロス目掛けて発射! それにより魔物は潰えた。
これなら――乱射のようなビームにより、魔物の数は確実に減っていく。気付けばその総数が半分近くになり、終わりがあっという間に見えてくる。
勢いを維持し、短時間で倒す! そう決意し断続的に攻撃する――気付けば拳の攻撃などせず、完全にビームのみで対処していた。以前ならこの攻撃手段に不満を持ったかもしれないが……これでいい、と心の中で思った。
悪魔もゴーレムもミノタウロスも例外なくビームに飲み込まれ消え去っていく……リーズにはどう映ったかわからないけど、一瞬だけ目を移すと固唾をのんで見守る彼女がいた。
やがて、フロア内にいた魔物が消え去る……時間にして、五分も掛かっていないんじゃないか?
ともあれ、これだけの時間で倒せたのは朗報……リーズに告げる。
「先へ進もう!」
「わかった!」
もう阻むものはない。外に出てからは、町まで赴き要件を伝える――
リーズが近づくのを待って俺も走り始める。ドルアに託された魔物達は……申し訳ないが、下のフロアで食い止めてもらおう。とにかく俺達を追えないくらい距離を稼がないといけないから、同士討ちで時間を――
「待て!」
俺は立ち止まった。何事かとリーズも急ブレーキを掛ける。
「ゼノ? どうしたの?」
「……結界だ」
目を凝らす。よくよく見れば地上への階段……そこを覆うようにして、大変見えにくいが結界が存在する。
試しにビームを撃ってみる。すると結界に激突して、バンと弾け消え去った。
「かなり強固な結界……しかも、ドルアのような魔族の気配がする」
「ファグラントって魔族が構築した結界ってこと? 逃げられないようにするため?」
「いや、この場合は準備が整うまで外に出るなってことかもしれない」
こいつを破壊しないと地上へは進めない……となれば、答えは一つ。
俺は拳を振りかぶり、右ストレートを撃ち込む準備を始める。相当な結界なので、こっちも全力で応じる。
呼吸を整え、構える……といっても、武道なんて習ったことないから腰を落としただけだが。
そして拳を放とうとした――その時だった。
後方でズグン、と魔力が鳴動した。
「え……?」
それはリーズもわかったようで、振り返る。
それと共に生じたのは、ザアアアアア、という砂が流れるような音。何事かと思っていると、スケルトンやミノタウロス、そして悪魔がフロアまで上ってくるのが見えた。
退却している……? 魔物が危険だと判断し逃げたのか? その相手とは――
「……ずいぶんと騒がしいと思っていたら」
声がした。男性の、若い声。
「同じ魔族と人間か……こいつらは確か、ドルアが率いていた魔物達だな」
階段から上がってくる音。見つかってしまったので、例え結界を破壊しても追ってくるだろう――ここまでした以上は。
「あいつが裏切ることは想定内だったが、解せんな。魔族が滅べば強制的に指揮権が私に戻ってくる。だがドルアは違う。お前に譲渡した……それだけ信用されていた、というわけだ」
姿を現す――銀髪に赤い目を持った、ゾクリとするほど端正とれた顔を持つ魔族。
俺と同じ黒衣なのだが、顔に浮かぶ笑みのような表情が俺より遙かに不気味な印象を与える。こいつが――
「お前が、ファグラントか?」
「ああ、そうだ。地上に出たかったようだが、残念だったな」
バサリ、と黒マントを一度翻す。
「さて、わかっているだろう? お前達に退路はない。ここで死ぬ運命にある」
「わからないさ」
前に出る。とにかくリーズは守らないと。
「案外、俺達が楽勝で勝つかもしれないぞ?」
「ふん、威勢だけはいいな……ここまで暴れた罪、償ってもらうぞ」
吐き捨てるように告げた魔族――ファグラントは、俺達へ襲い掛かった。




