強行突破
まず、地上への道。このフロアの二つ上に存在しているとのこと。距離的にもそう遠くない。この時点でかなり希望が出てきたな。
そして地上への道が繋がっている階は、フロアが一つしかない……つまり、こことあと一つ上のフロアをどうにかすれば、地上への道が開ける。
そこからさらに悪魔へ尋ね、ここと上のフロアの構造について聞き取る。分岐がいくつもあり網の目のように通路が広がっているみたいだが、そう広大でもない。それに、地上へと続く道に到達するためにはそれほど歩く必要もない。ここから強引に突破することもできそうだ。
また、ファグラントについてだが……どうやら上のフロアでウロウロしているらしい。ただしこれは古い情報なので、別所に移動している可能性もある。
「一番の問題は、ファグラントが一番上のフロアにいた場合だな」
それはつまり、地上への道が彼によって阻まれていることを意味する。こうなると戦闘は避けられない。
できることなら戦わず対処したいところだが……それと魔物達については、リッチやラマッザが管理する魔族も、現在ここや上のフロアで待機しているらしい。ドルアは一ヶ所に魔物達をまとめているが、他の魔族達は違うみたいだ。
もっとも、ファグラントが直接管理している魔物もかなりいるらしい。聞き取りでどの程度の数いるのかはわからず。
「もし地上へ向かう間にファグラントの魔物と遭遇したら……いやでも、俺やリーズのことがバレなければ問題ないのか?」
「魔物達を使って、私達のことがバレないよう移動すればいいんじゃない?」
これはリーズの提案。ふむ、それならオッケー……なのか?
俺達の気配が他とは別物だったりしたら、姿を隠していても厳しい気がするけど……ドルアを含め、会話ができる魔物は俺が魔族であることやリーズが人間であることを一発で見抜いていた。距離があっても判別できると考えていいだろう。
魔物も……ミノタウロスなんかは俺と対峙したら即攻撃してたしなあ……。
「気配も、悪魔で覆えば多少はごまかせると思うよ」
さらにリーズの提言。ふむ、それなら……。
「悪魔達を利用して、私達が見えないようすればいいよ……私達を囲って移動するのが一番いいかな」
その光景を想像するとなんだかシュールなんだけど……何もしないよりはずっといいだろうから、採用だな。
「それじゃあリーズに従おう。それで、一番の問題はファグラントがどこにいるかだな。もし地上への道にいたとしたら、戦闘は避けられない」
こればっかりは確認しようもないから運しかないな。
「あとはこの魔物達をどう扱うか、だけど……」
「一緒に移動して、敵が攻撃してきたら対抗するようにしたらいいんじゃないかな」
うーん、それしかなさそうかな。
「交戦した場合、魔物を上手く散らして敵の攻撃を食い止める。それに乗じて私達は地上へ出るべく移動する……ってところかな?」
「……なんか、生き生きしているな、リーズ」
指摘されて、彼女は口元に手を当てる。
「言われてみれば、なんだか色々と策が浮かぶ……」
「戦いについて知識があるってことかな」
だとしたら心強い。俺はビーム撃てるけど、戦略なんてからっきしだし。
ひとまずリーズの作戦通りにするってことにして……試しに悪魔で俺とリーズの周囲を固めてみた。
ふむ、上背で俺達より上だし、翼を多少広げれば死角ができそうだな。しかも確かになんだか悪魔の魔力によって、俺達の存在が心なしかごまかせている気もする……うん、これしかないな。
「よし、それじゃあこれでいこう……リーズ、いいか?」
「うん」
頷いた彼女。よって、俺達は――移動を開始した。
俺は悪魔に囲まれた状態で気配探知を少しばかり試みる。ファグラントと遭遇してしまえばまずいが、ミノタウロスとかスケルトン相手なら、察知されるようなことはないはずだ。
えっと、確かに通路から気配は感じるけど……襲ってくる様子はないな。この調子でいけば戦うことなく地上へ行ける……のか?
疑問に思うばかりだが、ひとまずなんの問題もなさそうなのでひたすら先へ……結局戦うこともなく、上り階段に到達した。
「順調だな」
「そうだね」
俺の呟きにリーズは律儀に応じる……なんだか上手くいきすぎて不安になるレベルだ。
なんというか、ここまで考えが上手くいった試しがないからな……もう一波乱あってもおかしくない。うん、心構えだけはしていよう。
そう考えながら、階段を上る。先行する魔物達にも問題はない。そのまま上り切った。
すると壁面に多少の変化が。なんだか白色が混じり全体的に迷宮が明るくなった……いよいよ地上に近づいている、ってことか。
できればこのまま何事もなく……そんなことを考えていた時、前方を歩く魔物が止まった。
「ん?」
「……別の魔物と遭遇したみたい」
リーズが小声で呟く。悪魔の隙間から窺うと、先頭を歩くミノタウロスの前に、悪魔が一体。ただそいつは翼は小さく、それでいて俺達の周囲にいる悪魔よりも体が大きい。
もしかしてファグラントの精鋭……だろうか?
ここでレトが小声で鳴いた。すると、
「なぜここを通るのかって、悪魔が尋ねている」
会話を通訳してもらえるらしい。
「こっちの魔物は指示を受けたと語っているけど、悪魔はそれで納得していないみたい」
「……ヤバそうだな」
このまま戦闘、なんて可能性が濃厚な雰囲気。
「……レト、地上への道を知る悪魔に一度確認。ここから上のフロアへ行く階段までの距離はどのくらいだ?」
問い掛けると、レトは俺の左側にいる悪魔に体を向け、一声。それにボソボソと答える悪魔。
「……ここから歩いて数分くらい、だって」
なら走ればほとんど掛からなさそうだな……強行突破してもよさそうか?
「リーズ、どう思う?」
「ここからなら無茶してもよさそうだけど……上の階段までに魔物はいるだろうから、こっちも魔物で食い止めないとたぶんすぐには着かない」
「なら、やるしかないな……」
悪魔は見た目かなり強そう。こっちも悪魔はいるが、さすがに精鋭っぽい相手に対抗するのは厳しいだろう。
とはいえ、こちらは数がいる……これを利用し、突破するしかないな。
「……ゼノ、交渉が難しそう」
前で話す悪魔についてか。
「戻れと指示している。こっちが何か主張しても戻れの一点張り」
「ファグラントが通さないように指示しているんだろうな……強行突破以外に、道はない」
リーズもコクリと頷く。なら――
「準備はいいな?」
「大丈夫」
「レトも、平気か?」
ニャーと小声。見れば尻尾を元気よく振っている。よし、問題はないな。
「よし……行くぞ!」
俺は魔物達に命令を出す。それに応える魔物達は――前方にいる悪魔へ一斉に襲い掛かった!
ミノタウロスの斧が、スケルトンの剣が悪魔に突き刺さる。一撃で倒れるようなヤワな体ではなかったと思うが、ひたすら攻撃を受け……悪魔は倒れた。
「一気に突破だ!」
号令に従い魔物が動き出す。俺達も悪魔を伴い走る。スケルトンも命令を受けているためか中々の速度で走っている。これなら――
「ゼノ! 脇道から魔物が来る!」
リーズが叫んだ。それと同時気配探知を行い――迫り来る魔物に対し、こっちも魔物で対抗する!
それはまさしく、戦争……俺は気配探知を利用しながら、地上への階段へ走り続けた。




