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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第一話

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宝と魔物

 悪魔ドルアが放った渾身の右ストレートは、扉を平然とぶち抜き吹っ飛ばす。そして、部屋にいた魔物に直撃した。


 ガアン――盛大な音と共に見えた魔物の姿。ドルアと比較してもいいくらい体格を持った、見た目悪魔のような魔物。ただ決定的に違うのは、山羊の頭を持ち、二本の角がとぐろを巻いていること。

 魔物が吠える。そこへすかさずドルアが接近し、容赦なく拳を叩き込んだ!


「……というか、肉弾戦なんだな」


 魔法の一つでも使うと思いきや……これにはリーズも驚いているのか、杖を握りしめじっと観察している。

 ドルアの拳は魔物の胸部へ叩き込まれる。だが敵も大して怯まず反撃に転じた。両腕を広げたかと思うと、その手のひらから光が漏れた。


 何をする気か――疑問に思った瞬間、光が膨張し、悪魔二体を包み込んだ。


「――リーズ!」


 俺は反射的に彼女の名を叫び、自分は膜のような防御結界を構成する。刹那、光が膨らみきったのか突如爆発した。耳をつんざく轟音に顔をしかめながら、ドルアが入口付近まで吹き飛ばされるのを目撃する。

 しかも余波がこちらへ――咄嗟にリーズを見た。彼女の方は小さく頷き左腕に身につけた腕輪を示した。自動防御が発動したらしい。レトも彼女の肩に乗っており、無事。


 こっちは問題ない。一方ドルアは……体勢を立て直し、部屋を注視する。爆発によって粉塵が舞い、視界はきかないが……やがて敵の姿が見えた。

 見た目は無傷。どのくらいの力を持っているのかわからないのだが……相当強いのか?


 ドルアが踏み込む。今度こそ仕留めるという気概で突撃を行い、魔物もそれに応えるべく拳を振りかざす。

 それはまるで、アニメとかにあるライバル同士が拳を重ねる光景のよう……激突した瞬間、ゴアッ、という音と共に衝撃波が生まれた。


 力勝負は――ドルアの勝ち。そして体勢を崩した魔物に対し、


「おおおおおおっ!」


 雄叫びと共に、ラッシュを叩き込んだ!


 凄まじい拳の応酬。思わずこっちが呻くほどであり、一つ一つが魔物を叩きつぶすほどの迫力がある。

 魔物は反撃する暇も無く、ただその身に受け続けるしかない……やり過ぎなのではと思った次の瞬間、魔物が動いた。


 両腕から、光。さっきと同じように爆発かと思ったら、今度は違った。突如ドルアの両腕をつかんだ。

 おい……? それによりドルアの動きが止まる。続いて発したのは――全身からの光。


 自爆する気か!?


「リーズ、退避するぞ!」


 叫ぶと同時、俺は彼女を抱え一気に後方へ。直後、部屋の中で爆音が聞こえ、さらに突風が巻き起こり大きく退いた俺達の所まで到達する。

 迷宮が軋んだ音を立てる――壊れないか不安になったが、耐えたらしく崩れるような音は聞こえない。


 そして次に見えたのは、入口まで退避し片膝立ちとなったドルアと、なおも健在の魔物。自爆したのに平気ってのは、ずいぶん反則だな。


「……このままだと、負けそうな雰囲気だな」


 悪魔とはいえ協力者だ。さすがに放っておくわけにもいかないか。


「リーズ、そっちは――」


 退避をと言おうとしたのだが、それよりも早く杖に魔力を結集させ始めた。その大きさはドルアが一瞬こっちに首を向けるほどであり、部屋の中にいる魔物も警戒したか硬直する。

 そうして彼女が放ったのは――槍。ただそこにとんでもない魔力が宿っているのを俺は肌で感じ取る。


 槍は恐ろしい速度で発射され、瞬きもしないうちに魔物へ直撃する。ゴアッ、と音が響くと魔物は白い衝撃波に飲まれ、動きが止まる。

 ――効いているかはわからないが、これは俺も攻撃するチャンス!


「ドルア! 横に逃げろ!」


 声と同時に右手をかざす。そこから全力のビームが発射される!


「な――」


 ドルアが驚くような声を上げた。そして魔物へビームが突き刺さり、これは効いたか大きく吠える。


 これまで叩き込まれたダメージが結構蓄積していたんだろう。とうとう防御を抜け、悲鳴を上げさせるくらいにダメージを与えた。

 そしてドルアは――動きが鈍い。追撃を仕掛けるには遅いか。ならば――


 俺はすかさず駆けた。魔物はまだ動いていない。今のうちに接近して全力の一撃を叩き込む!

 跳ぶように魔物へ肉薄し、魔力を右腕に込める。しかし敵も黙っていなかった。損傷した右腕をかざし、俺の拳に対抗しようとする。


 それはあたかも、先ほどドルアと行った激突と同じような構図。俺はそれに乗っかった。本来はかわすべきだったのかもしれないが、戦闘による高揚か、そのまま突き込んだ。

 結果、俺と魔物の拳が衝突し……ビキビキビキ、と魔物の腕から異音がした。


 刹那、その腕が――砕ける。


 オオオオオオオ!


 紛れもなく、痛みをごまかす叫びだった。こちらは立て続けに拳を振りかざす。ここで決める!

 そうして叩きつけた右ストレートは、胸部に直撃する。胸が崩壊し、その体が一気に崩壊へ向かっていく。


 結果――塵となる魔物。厄介な相手だったが、どうにか倒せたな。


「……大丈夫か?」


 ドルアに尋ねる。さすがに余計なおせっかいは不要かと思ったが、相手は「すまない」と律儀に礼を述べた。


「助かったぞ」

「いや、そっちの攻撃がずいぶんと効いていたんだろ」


 ……ドルアがどう考えているのかわからないが、悪魔は「そうか」と呟き会話を打ち切った。


「あれだけ派手にやったが、道具自体は破壊されていないようだな」


 悪魔の言葉と共に俺は部屋の中を確認。中はそれなりの広さを持ち、そこに場違いなほど小さな宝箱が一つ置いてあった。

 ドルアが近づくので俺とリーズも合わせて部屋の中へ。一応室内を見回して他に敵がいないことを確認し、悪魔が宝箱を開けた。


「ほら、これだ」


 突然ドルアが何かを投げる。キャッチすると、それは青色をした水晶みたいな透けている石だった。


「魔力を溜めておくことができる道具だな。先ほどの魔物はこの魔力に吸い寄せられたのだろう」

「……確かに魔力を感じるな――って、待て」


 俺は石を握りしめながらドルアに問う。


「これ持っていたら、他の魔物も引き寄せてしまうんじゃないか?」

「よく気付いたな。その通りだ。持ち歩かない方がいいだろう」


 ここに残しておき、いざとなったら使うってことか……? と、ふいにレトが近寄ってきた。何事かと思っていると、リーズが解説。


「その石を頂戴、だって」

「何をするんだ……? まあいいか」


 石を差し出す。するとそれをくわえて……って、おい!

 こちらが言及する前にゴクリと水晶を飲み込んだ。おいおい、大丈夫なのか?


「……ふむ、魔力がなくなったな」


 ドルアが言う。む、言われてみれば確かに。


「そして少しばかり獣の魔力が上がったようだ。なるほど、石を取り込んで魔力を我が物としたわけか」

「なら、石については問題ないってことか?」

「そうだな……いいだろう、結界構築手段についてこの獣に教えておこう」


 ここでニャーと無くレト。


「……名前はレトだって」

「ふむ、そうか。すまない。ならばレト。君に結界について指導しておこう」


 というわけで、唐突に悪魔と猫の会話が始まった……ものすごくシュールな光景である。

 足下の子猫に向かって丁寧に説明する巨躯の悪魔。正直笑ってしまいそうな光景なんだけど……それをぐっと堪え、俺は待つことにした。


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