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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第一話

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悪魔の言葉

 近づく悪魔に対し、結局戦闘か……と胸中で呟いた。


 ゆっくりとした足取りで近づく悪魔。全速力で逃げるという手もあるが、あの見た目だと普通に追いつかれそうだよな。気配を察知した段階で逃げるのは難しかったか。

 となれば、やることは一つ……こっちには気付いていない様子なので、ビームを避けられない距離まで来たら飛び出して放つ――これが妥当だな。


「リーズ、俺が言うまで動くなよ」


 小声で指示すると彼女は神妙に頷いた。

 よし、あとは準備……静かに、気取られないようにビームの準備開始。悪魔はなおも淡々とした足取りでこちらへ近づいてくる。


 足音は重く、さすがに迷宮を響かせるほどではないがそれでも重厚さはバッチリ……間合いには注意しないといけない。あまりに近すぎても反撃を食らうだろうし、かといって遠すぎても見切られてしまう。

 呼吸を整える。悪魔がなおも近づく。リーズが固唾をのむ中で、俺は相手の距離を気配で察知し――ここだ!


 角から飛び出す。次の瞬間、鬼のような顔立ちをした悪魔の赤い眼がこちらを射抜き、何も言わせぬまま右手を突き出してビームを――


「待て」


 ――発射しようとした寸前、悪魔は俺を手で制し、


「争うつもりはない。話し合おう」


 ……は?


 俺はあっけにとられビームを撃つ寸前で立ち止まる。


「こちらに敵意はない……どうやら同胞のようだが、まずは話を聞いてくれないか?」


 ……確かに、殺気のようなものはないな。以前遭遇した騎士やリッチは出会った状況的に敵意に満ちていたけど、悪魔はそういう雰囲気がカケラもない。

 一瞬油断させて、と思ったのだが、悪魔は自然体となり自身に攻撃する意思がないことを証明してみせる。


「私は少し調べ物をしているんだ。もしよければ情報提供してもらえないだろうか? 無論、何かしら礼はする」


 ……なんというジェントルマン。礼とまできたか。


「角の奥に別の気配もあるな。君の仲間か?」

「……ああ、そんなところだ」


 警戒は緩めないまま返事をすると、悪魔はさらに問う。


「どうやら同胞ではないようだな……人間と、魔物か?」


 こいつは明確に気配を察知できるらしい。俺が黙って頷くと、


「そうか。どういう経緯で共にいるのかも訊くつもりもない」


 と、悪魔は次に俺ではなくリーズ達へ、


「私は戦う意思を持っていない。もしよければ、姿を見せてくれ」


 ――リーズにまだ出るなと言おうとしたが、それより先にレトが飛び出た。おいおい。


「このフロアにいた魔物か?」


 俺に尋ねてくる悪魔。さて、どう答えよう。

 考える間に、レトが一声鳴いた。え、もしかしてこれは――


「ふむ、魔物を封じていた存在か」


 うおお、会話をしている。レトに目を向けると、またも一声。


「……敵意はないから大丈夫だろうと彼は言っているな」


 悪魔が通訳する。お前が解説するのかよ。


「もう一度言うが、危害を加えるつもりはない。右手にある魔力を閉じてもらえないだろうか?」


 ……俺はひとまず戦闘態勢を解いた。レトの証言もあるが、悪魔からどこまでも敵意がないことも理由の一つだ。


「……リーズ」


 そして名を呼んだ。彼女だけ隠れて……そういう案も浮かんだが、この悪魔自体戦う意思はなくとも、別所から魔物がやってくる可能性は否定できない。よってリーズは手の届く範囲に置くべき――そういう結論に至った。

 背後から歩み寄ってくるリーズ。そこで悪魔が、彼女が立つ方向を見やって、


 俺は致命的な事実に気付いた。


「……その、杖は?」


 途端、体に力が入る……うおお、まずい、まずいぞ。

 そう問い掛けてくるってことは、リッチがこの杖を持っていたのをこの悪魔は知っているわけだ。ここまで友好的だったけど、まずい展開だ。


 結局戦闘に入るのか……そう思いながら、俺は抵抗を試みる。


「……拾ったんだよ。この迷宮内に落ちていた」


 ――すると、奇妙なことが起こった。


 唐突に悪魔は目を細めた。ごまかしたため怒っているのかと一瞬考えたが、どうやら違うらしい。


「そうか……やはりか」


 やはり? 俺達が倒したという事実を確信したなら、こういう反応は少し変だ。

 もしや、悪魔はリッチが滅んでしまったと確信させられる情報を持っているということか? 俺としてはそう解釈してくれた方が助かるけど。


「君達は運が良かったようだな」


 そんなことまで言い出す。魔物が跋扈する空間だけど、これ以上に何かあるのか?

 こちらが黙っていると、どうやら悪魔は事態を認識していないとわかったようで、


「いいだろう、その辺りの情報も渡す」


 や、優しいぞ。こうまで親切だと逆に疑いたくなるな。


 とはいえ、悪魔は俺達に対して必要以上に近寄ろうとしない上、こちらの警戒を解こうとしているのが気配でわかる……レトも言っていることだし、ある程度は信用してもいいか。もしおかしな動きをしたら、その時は問答無用でビームの刑だ。


「話すのはいいけど、こっちも他に魔物がいないか気配探知くらいはするぞ?」

「ああ、構わんよ……まずは名前からだな。私の名はドルア。ファグラント様に仕える悪魔だ」


 リッチと同じ主か……というか、魔物達の主はファグラントって魔族なのか?


「魔物の群れが多数いるけど、それは全てその魔族の支配下なのか?」

「いかにも」


 首肯する悪魔――ドルア。


「理由については、申し訳ないが語れない」

「詳しい事情は、話せないと」

「ああ」


 頷いた後に悪魔は一瞬だけ視線を変える。その先にいるのはリーズ。やはり人間絡みか?


「そちらの名前は?」

「……俺はゼノ。後ろにいるのはリーズ。で、猫はレトだ」

「君達はどういう理由でここにいる?」

「俺はこの迷宮内で何かをきっかけにして目覚めた。リーズは記憶が飛んでいて理由までは不明。そしてレトは、あんたがさっき会話した通り。で、俺達は――」


 大丈夫だろうか、と不安になりながら告げる。


「地上を目指している」


 その言葉により、悪魔はまたも目を細めた。


「地上か……」

「ちなみに魔物達は地上に向かっているんだろう?」

「ああ、そうだ。君達の目的とかち合うな」

「穏便に、とはいかないよな?」

「ファグラント様が許さないだろう。しばしこの迷宮内で待ってもらうことになるな」


 ――逆に言えば、待っていれば地上に出られるわけか。


「しばしって、それはどのくらいの時間なんだ?」

「およそ、そうだな……三日もあれば解消される」

「三日か」


 チート的な食料も手に入れたことだし、決して難しくはないな。この情報はかなり大きい。

 ただ、ドルアの話には続きがあった。


「もっとも、単に待っているのも危ない」

「……どうしてだ?」

「レトが封じていた魔物……それが迷宮内を徘徊しているようだ」


 ――うおお、ここにきて新たな魔物か。


「そこの女性が持っている杖の所持者……まあその杖も探索して拾った物だが、そいつもどうやら魔物に滅ぼされたようだ」


 実際は俺が倒したんだけどね……そう思ってもらった方がいいので、こっちは何も言わないけど。


「他にも同胞が消えている報告がある。この迷宮内では騒動が広がっていると考えるべきだな」


 ……それも俺のせいのような気がするぞ。

 ただまあ、俺のあずかり知らぬところで魔物が暴れている可能性も否定できないから、なんとも言えないか。


「よって、ただ待つだけでは魔物に襲われる可能性があるわけだ」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」


 問い掛けると、ドルアは少し間を置いた後、話し始めた。


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