隠し部屋の宝
結局、本を調べても情報はなく……リーズが起床。俺は宝箱から得た物をテーブルに置き、対面に座る彼女に見せる。
「隠し部屋から出てきた。レトに解説してもらいたいんだけど」
「わかった」
と、彼女は猫と会話を始める。といっても猫が何度も鳴き、それにリーズが頷くだけなのだが……改めて眺めると、ちょっとばかりシュールだな。
「……うん、なるほど。えっとね、腕輪の方は相手の攻撃に反応して自動的に結界を張る道具だって」
「結界を?」
「結界強度は使用者の魔力に依存みたいだから、すごい道具というわけではないみたいだけど……宝箱の中にあったのは、主がよく使っていたからじゃないかって」
自動防御、か。ただこれ、俺でもブカブカなんだよな。
「俺はたぶん大丈夫だから、リーズに使いたいところだけど……はまらないよな?」
彼女、俺より細腕だし。
ここでレトがまた鳴く。リーズは小さく頷くと腕輪に手にとって手首へ。はめろって言われたのかな?
直後、変化が起きた。カッ、と光り輝いたかと思うと、彼女の腕に合うように腕輪が、縮んだ。
「……おお、すげえな」
魔法によるものだろうか? ともかくこれで効果は発揮されそうだな。
「で、もう一つは携帯食料だって」
「……食料?」
まさかの食料。皮の袋を覗き一個取り出してみる。
うん、木の実みたいな見た目なんだけど……ちょっと待て、これ食えるのか?
「この部屋は時が止まっていたと思われるけど、果たしてこの食べ物は大丈夫なのだろうか……」
率直な感想を述べると、レトがまた鳴く。
「リーズ、解説」
「大丈夫大丈夫って」
ずいぶんとテキトーじゃないか?
「レトによると、これ一つで一日分の栄養を得られるとかなんとか」
なんだその都合のよいアイテムは……でも食べる気にはなれないな。
俺自身、空腹は一応感じているんだけど、我慢できるレベルだし食べなくても問題ない気がする……ただ、ここまでひたすら連戦でさすがに力もずいぶん放出しているだろう。空腹感があるなら何か食べれば体力を回復できる可能性もあるし、食べてみても……けど、怖いなあ。
「どうする?」
リーズもさすがに躊躇っている様子。とはいえ、もし先に口にするとしたら俺だろう。俺だったら腐っていても平気のような感じもするし。
「……はむ」
意を決し口に入れる。リーズが食べ物を持ったままこちらを凝視し……俺はひたすら咀嚼する。
噛んだ瞬間、口の中に甘い香りが漂った。ハチミツみたいな甘さに加え団子のような食感。食後のデザートのようにも思える食べ物は、少なくとも腐っているようには思えない。
味も香りと同じく甘い。しかも一回噛むごとに奥からじわりと口の中に甘さが広がっていく。
ついでに言うと全然くどくない。後に残らない甘さとその食感……うん、これは、
「……美味い」
一言。リーズは驚き、食べ物と俺を交互に見る。
「えっと、リーズ。とりあえず腐ってはいないけど……」
そこでレトに目を向けた。
「確認だが、この食べ物は人間が食べられる物なんだよな? もし魔族用だと、俺は平気だけどリーズは……」
鳴き声一つ。それにリーズが解説を入れる。
「主は人間だったから平気だろうって」
「……そっか。とりあえず食べてみなよ」
俺に言われ、リーズも意を決し食べ物を口に入れた。数度味を確かめるよう慎重に噛んだ後、美味しいと判断したか噛む速度を次第に上げていく。
そして飲み込んだ後……一言。
「……おいしい」
俺は黙って頷く。また体に充足感があった。
空腹が明らかになくなり、体力が回復したような気がする。あまり自覚はなかったけど、やっぱり連戦により体に負担が掛かっていたらしい。
俺は袋の中身を確認。残り十個くらい。レシピがわからない以上作れないので、ここにある分食べたら終わりだ。
「……この食べ物の作り方とか、書物にないのかな」
まあそれを見つけても材料がないから無理か……レトの言葉が本当なら、結構余裕できたんじゃないか?
食糧問題がある程度解決したのなら、この場所で待つのもあり……いや、待て。軍隊と言える魔物達に加え、それを率いる存在を俺は倒している。悠長にここにいたとして、見つかったら退路もないから非常にまずい。
ただ時間的に余裕ができたから、急がなくとも探り探りで調べるというやり方もあるな……と、ここで俺はレトに質問。
「レト、地上に出るための道を知らないか?」
「……知らないって」
リーズの返答に俺は小さくため息をこぼす。
結局そこは自力でどうにかするしかないのか……。
「それじゃあレト、この部屋近くがどうなっているか、構造とかはわかるか?」
「……全部は知らないみたいだけど」
「そうか。ちょっと待ってくれ」
席を立つ。テーブルなどを見て回って紙などは発見しているので、レトの情報を基に周辺の地図でも作ろう。
俺は紙と羽ペンにインクを持ってくる。ここでレトが鳴き、リーズが説明を始める。
そうして始まった地図作成……この部屋を中心としているので、俺としては多少わかりづらいのだが、仕方がない。
「で、ここは角になっていて……これ以降がどうなっているか知らないみたい」
リーズが逐一解説し、俺は地図を描いていく。どうやらこの部屋周辺は結構複雑になっており、使われていない小部屋がいくつもあるらしい。
ただレトでもわからない箇所も多く、なおかつ他の階へ移動するような場所も知らない……ふむ、レトがわかっている場所に階段は無いけど、調べれば出てくるかもしれないな。それが上り階段なら、魔物を避けて地上に出られるかもしれない。
やがてレトの情報による地図は完成。あとは俺達がリッチなどと戦った場所の経路を確認して――
「……逃げている間に思ったけど、このフロアは結構広いな」
感想を述べる。俺がいたフロアはこじんまりとしていたけど、このフロアはずいぶんと広い。全体像を把握することができないのでまだ広がっているのかわからないが……ともかく、調べるには時間が掛かりそうだ。
「レトが把握していない場所を歩き回って、上り階段がないか調べるべきだな」
俺の言葉にリーズが頷く。あとは魔物が徘徊している可能性もあるから、慎重に動こう。
方針も決まったので早速……といきたいところだったが、リーズはまだ眠そうな様子。ついでに言うとレトも同じ。
リーズが眠っていた時間は精々二時間くらいか? さすがにそれで体力を回復させるのは厳しいか。
「……リーズ、レト、ひとまず休んでくれ。俺は平気そうだから見張りをしておく」
「わかった」
頷くと、リーズはレトを抱きかかえ寝室へ。扉が閉まった後、ピンと張り詰めた空気が書斎を満たした。
「しかし、俺に何をさせようって話なのか」
頭をガリガリとかく。この世界に転生させたのが神様なのか魔王なのか知らないが、ずいぶんと放置しているよな。
もし魔王なら俺、完全に反逆してるんだけど……いつかしっぺ返しがきそうだな。
「対策でも考えた方がいいのか……いや、さすがに無理か?」
もし遭遇したらどうあがいてもバッドエンドしかなさそう……できればご遠慮したいけど、魔王ともなればこっちの動向くらいお見通しだろうなあ。今この場に来たっておかしくない。
なんだか不安になってきたけど……ひとまず書物漁りでもするか、と思い俺は席を立った。




