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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第一話

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杖の持ち主

 杖を見ながら俺は考える……一応、リッチの残した杖は戦利品という扱いになるんだろうか……なんだか呪いのアイテムのように思えるけど……近づいて床に落ちる杖を観察してみるが、異常は見受けられない。


 なんとなく軽く触ってみる。反応無し。ここで放置しておくのもまずいし、とりあえず拾ってみるが……変化はないな。


「とりあえず、力を込めなければ大丈夫そうかな?」


 試しに杖を振ってみる。うん、変化はない。ここでリーズが近寄ってきて問い掛けてくる。


「何もないの?」

「ああ、こっちから何かしないと効果を発揮しないみたいだ」


 とはいえ、この杖を持っていたら当然「リッチを倒したのは俺達です」と宣伝して回るようなものなので、できれば見つからないよう隠したいところだ。

 けど、果たして隠せるような場所があるのかどうか……厄介な物を手に入れてしまったな。


「ねえ、私が触ってもいい?」


 リーズが問う。それはさすがに危ないのでは……と思っていたら、


「レトが言うには、その杖見覚えがあるんだって」

「見覚え?」


 当のレトは床で姿勢正しく座っている。こっちが目を向けるとニャーと一声。


「さっきの敵が、どこかで手に入れた杖なんじゃないかって」

「……アイツの所有物ではないってことか。レト、他に情報はないのか?」


 またも鳴く。するとリーズが渋い顔をした。


「見たことはあるけど、それがどういう杖なのかとか、誰が持っていたかとかは思い出せないって」


 むー、肝心の部分が……。


「でも、触って爆発するようなものでもないみたいだし」

「……わかったよ」


 彼女に渡してみる。やっぱり変化はなく、リーズは杖を握りしめまじまじと見つめる。


 リッチがどこかでこれを拾ったのだとしたら、魔族に持っていることが見つかっても大丈夫なのか? そもそもリッチは拾い物のこれをよく使う気になったな。それだけ強力な杖だった、ということなのだろうか?


 もしそうだとするならば、リッチ自体はそれほど強くなくて、杖の力が大きかった、と解釈することも可能だろうか……仮にそうだとしても確かめる術はないか。


 結局情報は手に入らないまま……せめてさっきの敵がどのくらいの地位にいるかわかればよかったんだけど。その辺りの情報をつかむことができれば、俺の実力も多少は推測できるだろうし、立ち回り方だって変えられる。


 かといって、魔物と戦い続け検証するなんて真似はできないし……と思ったところで、疑問が一つ。


 リッチは単身ここに来た。でも最初に遭遇した時、あいつはスケルトンを率いていた。

 そいつらはいったいどこにいる?


 頭の中で呟いた時、通路から足音が聞こえた。しかも複数であり、ガチャガチャという金属的な音まで聞こえてくる。


「うお、まずい」


 絶対リッチが率いていた魔物だ……隠れようかと思った矢先、魔物が視界に入る。鎧を着たスケルトン……うむ、リッチが率いていた魔物達だ。

 ただもう仕えていたリッチはいない……俺達を見てどう反応するのか。下手に刺激しないよう立ち止まっていると、スケルトンは突如カタカタと震えた。


「……どういう仕草だ?」


 呟くと同時、スケルトンは腰にある剣を抜く。なおかつ視界から見えない所で同じような音が。

 ……うん、戦闘するしかなさそうですね。


「ひとまずかかってくる分だけ吹き飛ばして、いったん逃げるしか――」


 そう言った直後、リーズが突如杖の先端をスケルトンに向けた。


「……リーズ?」


 視線を向けると、彼女は何か決意を秘めたような顔つきで杖を構えていた。

 何をする気なのか――問おうとした寸前、その杖から光が漏れる。


「お、おいっ――!?」


 言い終える前に、杖の先端から溢れた光が、撃ち出された――それはまるで巨大な弾丸のようで、目にも留まらぬ速さでスケルトンに向かい、

 迷宮内を振動させる轟音が、閃光と共に発生した。


「うお……!?」


 瞠目してしまうくらいの光景。通路には粉塵が発生し、スケルトンを完全に覆い尽くす。

 さっきの攻撃をまともに食らったスケルトンは当然消滅したことだろう。なおかつ近くにいたヤツも無事では済まないはず。


 ただ、俺にとって一番の危惧は……下手したら通路崩れるんじゃないだろうか?

 少しの間この場で立ち止まったまま様子を窺い……やがて煙が晴れてきたのでゆっくりと歩き始める。

 まず通路は無事。リーズの放った攻撃に耐えられる強度があると考えていいだろう。そしてスケルトンはいない。


 四方向に枝分かれした場所まで到達すると、スケルトンの姿は影も形もなくなっていた。数がどれほどいたのかわからないが、ひとまず近くにいた敵は全滅させたと考えてよさそうだ。


「……リーズ、通路が崩れる可能性もあったから、あんまり派手な攻撃は控えてくれ」


 注意すると、杖を握りしめ申し訳なさそうにする。


「ごめん、さっきの敵が使っていた魔法を軽くイメージしたんだけど……それだけで魔法が使えちゃった」


 軽く、か。彼女が持つ杖には魔法の増幅効果みたいなものがあるんだろうか? しかも詠唱など複雑な手順も必要なし。


 これは彼女自身戦力アップになりそうだな。自衛するにはもってこいか。


「あ、でも杖を持っているのがバレた時点でまずいんだよな……」


 どうするべきか? と、考えている間にカチャカチャと足音が。

 うー、キリがない。どこまでも戦闘ばっかりで、少しは休ませてほしい。


「ゼノ、どうするの?」


 リーズが尋ねる。しかも杖を握りしめて。


 やれと言われたら真っ先にさっきみたいに攻撃しそうだよな……俺は分かれている通路に目を移す。一本は来た道だから、残る三本のどこかに逃げることはできる。


「できれば魔物をやり過ごしたいところだけど……果たして安全な場所があるのかどうか」


 と、ここで突如レトがニャーと鳴いた。


「ん? どうしたんだ?」

「ゼノ、もしよければ休める場所を案内できるって」

「……レトが?」

「うん、道に見覚えがあるみたい」


 首を縦に振る猫。先に言ってくれとなんとなく思いつつ、


「レト、頼む」


 その言葉でレトは短い足を必死に動かし分岐の一つへ駆ける……って、予想以上に速いぞ!

 すぐさま俺とリーズは追随する。後方からの足音も途絶えることなく、俺達の走る音に反応してついてきているのがわかる。


 さらに分岐の道に遭遇すると、レトは迷わずその一本へ。今までそう複雑でもなかったが、ここにきて相当分岐の多いエリアに迷い込んだみたいだ。


 俺とリーズはレトの後に続き走り続ける……ただ俺の身体能力は普通の人くらい。魔法的な何かで強化すればいいんだろうと思ったんだが、戦闘時のように上手くいかない。よって、息を切らしながら必死に走る。


 一方、杖を持ち併走するリーズはずいぶんと余裕そうだった。彼女、見た目に反し体力あるぞ。いや、この場合俺の方が……うん、深く考えるのやめよう。

 そして気になる後方だが……足音が聞こえてはくるけど、それが徐々に遠くなっている。俺達を追っているようだけど、こっちの方が速いってことか。


 ともあれ、この様子なら撒くのにそう時間は掛からない……しかし今度はレトの案内に終わりがない。どこまで行くんだ?


 そうしてしばらく突き進み……いい加減走るのも限界に近くなってきた……その時、レトは立ち止まる。俺達の正面には、一枚の扉。

 既に背後からの音は聞こえない……俺は呼吸を整え、扉へゆっくりと近づいた。


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