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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第一話

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敵の要求

 先行するレトを追って俺達は広い空間に出る。そこはリッチと遭遇した場所のようながらんどうの空間で、戦闘になった際立ち回るには十分すぎる場所だ。

 そんな中で足下の子猫――もといレトは足を止め首をキョロキョロと動かしている。殺伐とした迷宮における癒やしの一つだ。


 そして真っ直ぐ通路が続いている……果たしてどこに行くのか。俺が歩き出すと、前にいたレトもトタトタと走り出す。

 もし魔物が来たら危ないんだけど……リーズもそれを察したか少し早足でレトに追いつき、抱き上げようとした。


 けれどレトはそれを拒否しズンズン進んでいく……。


「リーズ、先頭を進むのは理由があるのか?」

「うーん、ないみたいだけど……」


 不安だな……目の前で魔物に食われたりしたら後味が悪すぎるよなあ。

 ともあれ、俺達は通路へ入る。少し進むとまたも左右に分かれる道。レトも止まったので俺が判断しよう。


「……右へ進もう」


 なんとなくそう指示して歩んでいく……リッチがさっきこの道を辿ってきた以上、どこかに繋がっているはずだけど――

 そう思っていると、足音が聞こえ始めた。しかも複数。


「……嫌な予感がするなあ」


 なんとなくオチが見えたんだけど……角に到達し、そこから首を出して先を覗き見る。

 最初に見えたのは、スケルトン。そいつらが列を成して下り階段から姿を現しどこかへ向かっている光景……うん、このフロアで最初に見たスケルトンの列の後続だな。


 しかし、本当に多いな。これがさっき見た隊列と繋がっているとしたら……凄まじい数だぞ。軍という呼称がまさしく正しい。


「どうするの?」


 リーズが問う。いつのまにか彼女はレトを抱えていた。魔物に向かっていくのを防ぐためだろうな。


「下り階段だし、俺達の目指す道じゃないな」


 しかし、下り階段からやってきているということは、間違いなく上へ向かっているよな。これはリーズが言っていた推測が当てはまっている、のか?

 例えそうだとしても、正面から喧嘩を売るなんて真似は……。


「ひとまず、もう一方の道を調べよう」


 俺の提案にリーズは頷き従う。元来た道を引き返し、今度は左の通路へ。

 奥へずんずん進んでいくと、やがて辿り着いたのはいくつもの分岐。四方向に分かれている。


「……さすがに全て調べるのは骨だな」


 とはいえ、外に出られる可能性がある以上はやらなければ。ひとまず順番に調べよう――そう思った時、ニャーと突如レトが鳴いた。


「どうした?」

「……背後から気配がするって」


 気配? 振り返るが視界で何か視認できるわけではない。そもそもレトが感知できるのかという疑問もあるし……。

 そんなことを考えていると、コツコツと靴音が。あ、これはまずいか?


「移動しよう」


 俺はリーズに告げ、右の道へ。少し小走りに進んだ結果、辿り着いたのは真四角の広間。

 ただ、問題が一つ――道がない。行き止まりかよ!


 これはかなりまずいぞ……などと思っていたら背後から足音が。

 どうする――って、選択肢は一つしかないか。


「リーズ、俺の背後に」


 振り返りながら指示を出すと、彼女はレトを抱きながら後方へ。そして通路の奥から現れたのが――先ほど遭遇したリッチだ。


「何の用だよ?」


 問い掛けるが、反応がない。骸骨でまったく表情がわからないのだが……こちらを観察しているみたいだな。

 警戒しながら動向を窺っていると、リッチは俺の背後に目線を向けたようだ。


 さっきと様子が明らかに違うのはわかる。リッチは明らかにこちらを警戒しており、油断なく俺を見ているのがわかる。

 さあて、俺はどうすればいいのか……できることなら穏便にいきたいけど、この様子だと無理なのかな?


「……まあいい。どうやら貴様のことを含め、この迷宮では我々にとって想定外のことが起こっているようだな」


 独り言を発し、リッチは杖で地面をコン、と叩く。


「貴様は戦う意思がないと言ったな?」

「ああ。それがどうした?」

「この場で見逃すことはできるが、一つだけ条件がある」


 見逃す、ねえ……リッチからしたら相当な譲歩って感じなのかな。


「その小さな獣を私に渡せ。そうすれば、お前と人間は見逃そう」


 ……もしや、さっきの警戒するような視線の原因は、レトの存在からなのか?

 俺はなんとなくレトに目を向ける。会話内容は把握したらしく、ニャーと一声。


「別にどっちでもいいって」


 おい、ずいぶん投げやりだな。


「お前、たぶん殺されるぞ」

「……別に生に頓着はないって」


 達観してるなー、この猫。


「私はそう気が長くない」


 ここでリッチが口を開いた。


「回答はさっさとしろ。無理矢理奪ってもいいんだぞ?」

「……ちなみにだが、こいつをどうするつもりだ?」

「知る必要はあるまい」


 リッチはここで再度地面を杖で打つ――俺達に催促するかのように、力を強めて。

 さて、レトを渡せばいいわけだが……なんか抵抗あるなあ。レト自身が例えば悪者だという可能性もゼロじゃないけど……あれだ、目の前のリッチに渡すと、何か嫌な予感もする。


 それが単なる勘なのかこの体に眠っている感覚なのか……魔族なんだからリッチの意見に賛同しそうなものだけどな、この体も。

 そしてレトを抱えるリーズは眉をしかめている。渡したくないという雰囲気もそうだし、こちらに何か訴えかけているようだった。


「……何か意見はあるか?」

「たぶん、渡しても意味がないと思う」


 彼女としては「こっちが要求に従おうが攻撃してくる」って言いたいのかな?


「……なあ、一つ訊きたい」


 そこで俺は、リッチに尋ねてみた。


「例えば引き渡す代わりにこっちの要求を……とは、ならないよな?」

「私に指図するか?」


 声のトーンが落ちた。ご立腹の様子。


 うん、仮にここでレトを渡して切り抜けたとしても、いずれ激突しそうな気もする……出会ったばかりの猫に対しそう感情があるわけでもないが、少なくとも目の前の敵に渡して俺達に利するようになるとも思えない。


 そういう結論に至った瞬間、気が死ぬほど楽になった。あれか、こいつの指示に従う必要はないと確信したからか。体は魔族だが、思考は完全に前世のそれだな。


 問題は、勝てるのかということだよなあ……目の前のリッチは話せる以上、以前遭遇した騎士と同格かそれ以上と考えるべきだろう。全力のビームを撃てば、一気に決着がつく可能性もあるか……?


「返答がなければ」


 リッチが俺に最後通牒を突きつける。


「無理矢理奪わせてもらうぞ」


 その言葉と同時、こちらを威嚇する意味合いか、空気が変わった。


 ゲームで言うなら魔力とか瘴気とかそういうものだろう。リッチの背から黒いオーラが漂うようなイメージであり、実際俺の目にはそんな感じに映っている。


「残念だが、時間切れだ」


 冷酷な言葉が俺達に告げられる。


「ふむ、少しは自分の立場が理解できるものだと思っていたが……身の程知らずだったようだな」

「どうも」


 俺は右手に意識を集中させる――見た目から俊敏な動作などできそうにないが、ビームを撃って反射的にかわされる可能性はある。攻撃し避けられ反撃となると、俺は平気でも背後のリーズ達が危ない。


 相手が攻撃するタイミングで素早くビームを発射……もしリッチが攻撃したとしてもそれで防げるし、避ける余裕もない――はず。正直ザル理論だと思うが、とにかくそれでやるしかない。


 決断し、俺はリッチをにらむ。相手はどこか蔑むような視線を投げた直後――杖を俺にかざした。


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