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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第一話

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行動方針

 まずは、俺のやり方で魔法とかが使えるのかを検証してみる。


「それじゃあ、炎を出ろとか念じてみてくれ」


 リーズに対して色々と要求しながら実験開始……しかし、


「無理、みたいだね」

「うーん、そっか……」


 検証はあっという間に終わった。言葉を発しようが、身振り手振りをやろうが、結局小さな炎一つ出せなかった。

 俺が魔族だから、ビーム的なものを自由に扱えるということだろうか? そうだとすると、人間は魔法をそもそも使えないとか、そういう可能性もあるのか?


 リーズはあきらめずに手をブンブンと振り、何か出そうと躍起になる……うん、俺が指示したんだけど、そこまで必死にならなくてもいいんじゃないかな。


「あー、リーズ。いいよ」

「え、でも……」

「記憶がなくなっているせいだと思うことにしよう」


 しかし、困ったな。こうなると俺は彼女を守りながら進まなければならない。これは結構しんどいと思う。


 さすがにここまで関わって「じゃああとは一人で頑張って」とは言えないし、個人的な心情としても嫌だ。魔族のくせに人間のことを気に掛けるとか魔王とかに目をつけられたら怒られそうな案件だが、とにかく放っておくのは嫌だ。


 なので、必然的に俺一人でどうにかしなければならない……問題は、ビームで攻撃するにしても、彼女に当たらないよう配慮しなければならないということ。

 どう考えても彼女を気に掛けていたら隙ができそうだよな……なおかつビームを乱射するというのもなんだか怖い。かといって拳に風なんかまとわせたら……考えたくもないな。


 せめて俺みたいに防御の結界が使えたら……と考えていたら、リーズがふいに全身に力を入れた。


「……ん?」


 よくよく見ると、彼女の体周辺に何か……えもいわれぬ力が宿ったのを感じる。お、結界かな?


「リーズ、何か感じるか?」

「……今、体の表面に何かある」


 表現が微妙だけど……よし、


「炎よ」


 ボウッ、と手のひらから炎を生み出す。もちろん俺も彼女と同じように結界を構築し、熱が平気なようにする。で、これを彼女に近づけて……。


「熱は感じるか?」


 首を振るリーズ。うん、どうやら効果が出ているみたいだな。

 さすがに殴って強度を試すわけにもいかないので、このくらいに留めよう。とりあえず防御ができるという事実は大きい。


「俺が戦闘している間、その力で身を守ること」

「わかった」


 素直に頷くリーズ。その状態で俺が守れば、スケルトンとかミノタウロス相手だったら大丈夫かな。


 問題は、さっきの騎士みたいな敵が出たらどうするか、だ。というかいつ何時この場に訪れてもおかしくない。もし通路で出会ったら……避けられたらリーズが狙われる可能性も十分ある。基本一撃で仕留めたいが、果たして上手くいくかどうか。


「……さて、どうしようか」


 なんとなくリーズを見る。結界を解除した彼女は、目が合うときょとんとした瞳を投げかけてくる。

 じーっと見てるとその美麗さに吸い込まれそうになったので、慌てて目をそらした……この体になって多少変化しているのかもしれないが、基本女性に耐性がない俺としては、あんまり直視できない。


 たぶん住む世界が違う人物だろう……と予想しつつ、俺はその場に座り込んだ。


「リーズ、疲労とかは?」

「疲労……別に体は重くないけど」

「そっか」


 さっきまで眠っていたからかな? あと、結界を構築するといっても、魔族と人間では力のキャパシティ的な問題で、あまりもたないかもしれないな。前世のゲームや漫画では、基本魔族と呼ばれる存在の方が魔力的な力の容量は大きかった。その説がこの世界に当てはまるのだとしたら、長時間結界を使用し続けることはできないかも。


 まだまだ検証したいところだけど、それで疲れ切ってしまうのもまずいし……ここはなるようにしかならないか?


「……もし」


 ふいに、リーズが発言した。


「魔物が来ないのなら、ここにしばらくいるのも一つの方法だと思うけど……」


 ――それはそうなんだけど、最大の問題はどのくらい待てばほとぼりが冷めるのか、である。


 俺はどれだけ待っても平気な体だが、リーズはそうもいかないだろう。ザックに入っていた食料は二日分程度。俺がやらかしたことは出会った魔物を片っ端から倒し続けたことだが……二日で敵があきらめてくれるとは思えない。


 まあ準備している物事を優先してくれれば、俺が捨て置かれるという可能性もゼロじゃないわけだが……この辺りの判断は微妙だな。


「……どちらにせよ、いつかは動かなければならないんだ」


 俺は言う――そもそも現在地が地上からどれだけ離れているのかもわからない。もしかしたらずいぶん深いところかもしれないし、後は迷路のように迷宮が相当入り組んでいて、全然外に辿り着かないかもしれない。


 こちらの状況が余裕のあるうちに動いた方がいいのは明白……さて、ここが分かれ目だな。


「どうしようか……」


 地底湖を見回す。俺が最初に訪れた時からほとんど変わっていない景色……いや、ビームとかで壁を破壊しているか。ともかく、この場所は俺が最初に目覚めたときとあまり変わっていない。だからといって安全なわけではないけど。


「私はゼノに従うけど」


 リーズの発言……どうやら信用してくれているみたいだ。なんだかプレッシャーも感じつつ、


「……外に出るということで、いいんだよな?」

「うん」

「なら、そうだな……」


 彼女を置いて様子を見に行く……そういう選択を一度考えたが、何が起こるかわからない。そもそもこのフロアには最初の虎以外魔物と遭遇することはなかったが、何かをきっかけにして突然出現しないとも限らない。


 同行してもらうか……そういう結論に達し、俺は言った。


「まずはこのフロアから進んで様子を窺う。何事もなかったら地上を目指す。それでいいか?」

「わかった」


 リーズに俺は頷き返し、


「それじゃあ――」


 行こうと告げようとした瞬間、リーズが突如俺の後方を指差した。


「あ……」

「え?」


 振り向く。通路へ繋がる地底湖の入口。そこに、

 魔物がいた……タイミングが悪い。


 見た目は、黒……いや、濃い青色かな? 二本の足で立つ、全身が青い魔物。人間のような腕を持っているが、大きな違いはその腕の至るところに刃のような鋭利な物が伸びていること。


 頭部もまた青に包まれているが……その顔立ちは、鬼を連想させた。理性があるのかないのかよくわからないが、とりあえず俺達に赤い目が視線を送っているのが、狙いがなんなのかは明確にわかった。


 ビームで対処できるかな……と思いながら俺は魔物と向かい合う。とはいえ距離はまだある。こっちの様子を窺っている感じなので、とりあえずこの距離からまず攻撃を――


 そう思った矢先だった。突如魔物は口を開け、


 ――オオオオオオオオォォォォォ!


 凄まじい雄叫びだった。地底湖全体を揺るがすほどのもので、後方ではリーズが咄嗟に耳を塞いだ。

 それと同時に魔力的な何かを噴出する……俺にも感じられた。なんというか、表現したくないんだけど……うん。


 今まで出会った魔物の中で、一番ヤバい。


「おいおい、こんなところでボス登場か――」


 最後まで言えなかった。魔物は――俺へ向け、跳躍するように駆け、突撃を開始した!


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