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漆黒の迷宮英雄  作者: 陽山純樹
第一話

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名前の決定

「まず、俺の自己紹介よりも先に……そちらに確認したい。なぜ、この迷宮に入り込んだ?」


 問われ、女性は考え込む。


「……迷宮?」

「ああそうだ。この迷宮の中で倒れていた。で、魔物に襲われそうになったところを俺が助けた」

「……そうなの、ありがとう」


 礼を述べる女性。う、うーん、なんかズレてるな。


「えっと、なんでこの迷宮に?」


 再度質問すると、またも考え込む。理由がわからないとか、どういうことだよ――


 そこで、嫌な予感がした。脳内に電撃が走ったような感覚。待ってくれ、これはもしかして、


「え、えっと、そうだな。それじゃあ先に、君の名前を教えてもらえないか?」


 さらなる質問。女性はそれに対しても考え込み、


「……名前?」


 うわー、やめてくれ。あれか、記憶喪失的なあれなのか!?

 これ以上厄介事は勘弁してくれと、俺はどこか祈るように彼女の言葉を待っていたのだが――


「……名前、思い出せない」


 はい、きました。思わず頭を抱えたくなった。


「と、当然この迷宮で倒れていた理由とかは……」


 首を左右に振る。うん、だろうね。

 俺はどうしようか悩み……そこで、ヒントとなりそうな物があることに気付いた。


「そうだ、君の近くにその荷物が置いてあった」


 と、彼女の傍らにあるザックを指差す。


「中身は確認していない。もしかすると君の名前とかがわかるかも」

「なら、探してみる」


 女性は答え、ザックをガサゴソ漁り始める。あとは……そう、


 祈ります。彼女について何かわかるように。






 そして――俺の願いは届かなかった。魔族だからなのか、神様は俺の祈りを完全無視らしい。


 ザックから出てきたのは替えの着替えと、少々の携帯食料。見た感じ干し肉とかチーズとか、前世にも存在していた感じの食べ物だ。それが、たぶん二日分くらい?


 あと、空の木製の水筒が一つ。とりあえず地底湖の水を汲んで彼女に飲ませてみる。コクコクと飲む様子を見た後、中身を詰めてザックの中に入れておく。


 そしてナイフが一本。大きさはサバイバルナイフくらいかな? 果物ナイフにしては大きすぎるので、護身用か? 身につけないでザックに入っているのは疑問だけど……あと、何か紋様が彫られている。けどこの世界の知識がない俺には、その意味が何もわからない。


 結果、彼女の身元がわかるような物はない……手詰まりだ。さてどうしよう。


「えーっと……」


 頭をガリガリかきながら考える。すると女性は俺のことをじっと見据え、


「あなたは……なぜこの迷宮に?」


 そこからか。これ正直に話しても問題ないのか?

 疑問はあったけど……ふと、俺は一つ気になったことがあったので――


「……俺は迷宮で突然目覚めてね。で、見てのとおり……魔族だ」


 その言葉に、女性はじっとこちらを見つめ、


「……魔族」

「魔族という単語はわかるのか?」


 コクリと頷く女性。


「ああ、そうはいっても俺は他の魔族や魔物と違い、例えば人間を襲うような真似はしない。ただ目的があって……外に出ようとしている。とりあえず君に攻撃したりはしないから安心してくれ。いいな?」


 再度頷く女性。よしよし、友好的な感じになったな。


 そして彼女の言動からわかったことがある。記憶喪失だけど、魔族といった単語を理解することができる。ザックに入っている物が何であるかも認識したみたいだし、一般常識的な記憶は失われていない。


 名前を含む固有名詞について思い出すことができないみたいだ。例えば自身のプロフィールを始め、この迷宮の詳細などは記憶にない。


 結論、彼女から情報を得ることは無理。そう考えると、なんだか脱力した。せっかくこの世界のことを知ることができたと思ったのに……結局、何もわからないままだ。


「あの……」


 女性が問う。少し困った顔で、


「あなたの、お名前は?」


 ――どうしようかなあ。俺はまた頭をかき、


「実を言うと、こうして会話できたのは君が初めてで、俺も自分の名前を決めていないんだよ」

「は、はあ……」

「とはいえ、さすがに名前なしだと俺も君も辛いよな……考えるか」


 そうは言うものの、咄嗟に思い浮かばない……ん、待てよ。


 名前名前と頭の中で連呼していると、いくつかの単語が浮かび上がってきた。それがこの魔族の名前だという認識はないんだけど……ふむ、この魔族の中にも何か記憶があるということかな?

 まあせっかく名前が浮かんだので、利用させてもらうか……というわけで、俺はいくつか浮かんだ名前をピックアップし、


「……ゼノ」

「え?」

「俺のことはゼノと呼ぶように。いいな?」


 確認の問いに女性は頷く。


「で、君なんだが……俺が名前を決めていいのか?」

「……どうぞ」

「なら、リーズだ。それでいい?」


 なおも頷く女性。というか、首を縦に振るばかりだ。


「よし、名前も決定したから……これからのことを考えないと」

「……どうするの?」


 女性――もといリーズが尋ね、俺はしばし考える。

 このフロアに魔物が来ることがないのが今のところ幸い……なのだが、かといってこのまま待ち続けてもまずい。


 しかも、これからはリーズをどうするかも考えないといけない……なんとなく視線を向けてみると、彼女は綺麗に正座しており、視線に小首を傾げた。


 ……改めて見ると、すごい美人だな。正直俺の語彙力で表現するのが無理なくらい……なんというか、その、オーラが出ていると言うべきか。


「どうしたの?」


 問い掛けてくるリーズ。俺は「何でもない」と答えた後、心にその声が染み渡る。

 ……うん、あれだ。ここまであまりにも殺伐とした世界だったもんだから、簡単な問い掛けでもジーンとくる。人間の温かみが……リーズは単に質問しただけで、俺が大げさに解釈しているだけなんだけど。


 返答がないのでどこまでも首を傾げ続けるリーズ。癒やされる……俺はここで一つ決意した。

 とりあえず、彼女を安全な場所まで連れて行こう。それはたぶん外だろうし、俺と目的も一致する。


「えっと、とりあえず一緒に外へ出よう」


 リーズはなおも「?」という感じ。省略しすぎたか。


「君も安全な場所に行きたいだろ?」

「……うん」


 やや間を置いて頷くリーズ。あ、そっか。ここが安全なのか危険なのかもわからないか。


「この迷宮の中には魔物なんかがたくさんいる。それらから逃れるにはたぶん外に出るしかない。というわけで、外に出よう」

「わかった……その」


 と、彼女は神妙な顔つきになり、


「ありがとう、そこまでしてくれて」


 ……おお、なんか胸に響くものがある。


「まあ目的が同じだから」


 とりあえずそう返答しておいて……問題は、彼女についてだ。


 迷宮に来たという事実を考慮すれば、戦う能力は持っていると考えていいのかな? というか、そうじゃないとまずいぞ。


 よって、今からやることは――


「リーズは、戦えるかどうかわかるか?」

「私?」


 頷く俺。対するリーズはじっと俺のことを見て、


「……どうだと思う?」

「何で俺に聞くんだよ……」


 大丈夫かなあ……内心不安に思いながら、とりあえず、検証してみることにした。


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