第6話 ~オコノミヤキと試験のハナシ~
佐夜は相変わらず女子力が高い
佐夜が【レニアナ】に落ちて早一ヵ月、佐夜を含めた7人は相変わらずの青春という名の学園生活を送っていた。錬成術の講師であるエロ爺【アルガド】に錬成の鍛錬中に尻を触られるわ、昼食を作ってる時に双子(ノン、ロロ)やニケがつまみ食いにきたり、マナとタックの魔法の練習につき合わされたりした。
二週間前までわだかまりがあったイングとの関係もすっかり解消されて、今ではよく学び舎での筋トレや座学、買い物なども一緒に行動している。勿論佐夜を女の子扱いしたら(佐夜がそう感じた場合も含む)、問答無用で制裁されるイング。ちなみにイングは一日に5~6回は佐夜に制裁されているが全く懲りていない。
ちなみに佐夜の亜麻色の髪はショートからセミロング(肩下)にまで伸びており、ポニーテールにしている分、どうみても女の子にしか見えない。
佐夜自身がイングに無理して態度を変えなくてもいいよ、と公言しているのでイングも佐夜に対して無理はしていないが、それでも周りから見てもイングの佐夜への態度が全て、男に接するものではないというのはイング自身は気付いていない。
ゆえに佐夜の性別を知らない者達は、イングと佐夜が付き合っていると勘違いし(王都の騎士団やお店の店員など)、知っている者達はみな、影から二人を生温かく見守るという暗黙の了解(アイナの立案)で、事の成り行きを見守っている。
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「え?模擬戦?」
みんなの昼食を作り、それぞれお願いされた料理を渡す最中、トルコライス(カレー&トンカツ&ナポリタン)を受け取った豪快姉貴キャラの猫亜人ニケが、
「サヤは模擬戦の準備は出来てるかい?」
と聞いてきた。
「ああ、そろそろ試験の時期か…………」
哀愁を漂わせながらチンジャオロース風定食(ライス&中華風スープ)を受け取るタック。急に元気無くなり過ぎだろ。
「筆記と検定は無問題………」
相変わらず無表情のマナがサンドウィッチ(タマゴ・ハムチーズ・ツナ)受け取りながらいう。筆記はって……
「「どっちも自信無いよぅ~~」」
マナの次に並んでいた双子のリス亜人、ノンとロロがミートスパ+サラダ(オーロラドレッシング)を受け取らず、両手で顔を覆っていた。いいから早く受けとってくれ。
「……そういえば前回の時、サヤはまだ怪我で寝込んでたっけ?」
双子が料理を受け取らないので、先にハンバーグ定食(大ライス・中華風スープ)を受け取ってそう言ったのがイング。受け取る際、指同士が少し触れた瞬間、イングの顔が少し赤くなっていたのを見逃さなかった。後でチョップかまそう。
双子もようやく料理を受け取って自分用の料理『オコノミヤキ』の制作を始める。この世界にはウスターソース系(マヨネーズも無かった)の調味料が無かったので自作。
小麦粉を卵、水、ダシで溶き、ロッコル(キャベツみたいな物)を千切りにしてその生地に入れて混ぜる。フライパンに油を引いてその生地を流し込み丸い形にしてその上に薄くスライスしたトトン(豚の事)を乗せて底面が少し焦げるまで焼く。少し焦げが出来たらひっくり返して同様に焼く。そして中まできちんと火が通ったら皿に乗せ、自作したウスターソースを塗り、マヨを網状に描き、魚を超乾燥させてカチカチにさせたレンガという物(鰹節みたいな物)を包丁で慎重に削って乗せ、葉を乾燥させて粉にした物を振りかければ完成だ。
「何かそれ、美味そうだね?」
エプロンを外し、みんなのいるテーブルに座ると既にトルコライスを完食していたニケが物欲しそうに見ていた。
「…………少し、食べる?」
「悪いねいつも」「「わ~い!」」
新作を作ると大抵こうなるだろうなと思い、あらかじめ大きめに作っているので少しなら食べられても問題は無い。……ニケの他に双子も混じっていたが。
「それで、試験って一体何があるんだ?」
オコノミヤキを亜人共に食われつつ、まだ食べている途中の3人に聞く。
「筆記テストに魔法技能検定、そして最後にチーム戦で行う模擬戦だ」
チンジャオロース風に入っているピーマンに苦戦しているタックが言う。残すなよ?
「テストと模擬戦は何となく分かるけど、魔法技能検定ってどうするんだ?俺は魔法じゃなく錬成術しか使えないぞ?」
「そん時はサヤの場合、錬成術での試験だな。簡単にいうと試験管の前で魔法を一つ使えばいい。魔法の精度や発動の速度、そして発現の規模が高ければ高いほど高評価に繋がるってわけだ」
「なるほど」
佐夜の疑問にイングが答える。
「それよりも問題は模擬戦…………」
「そうだな。今回こそは一勝はしたいな」
マナとタックが苦悩の表情をしている。そんなにきついのか模擬戦?
「大丈夫だ。今回はサヤもいる。これで数は同じになるしサヤは錬成師だ。きっと相手も警戒する分力押しでは来ないだろう」
イングが拳を握って力強く言う。おい、箸が折れてるぞ?
「いや、初心者の俺に期待されても………」
「いやいやいや。模擬戦は基本7人チームでやるけど俺達『アルケシス組』は6人しかいなかったんだぜ?おまけに本校の生徒数的に余りが無いから勧誘も出来ないし」
「そこにサヤが加入してきたから私達も7人。これで数押しでは負けない………」
「そうだ、な。後は対戦相手次第って事か」
なるへそ。要は数で押されて毎回負けていたって事でそこに俺が入ったから、負ける要因が減ったって事か。でも模擬戦だろ?人と戦うんだろ?俺に出来るか?
「しーしー。そういうこった。なんで、アタシ達は来る模擬戦に向けてサヤにレクチャーすればいいってわけ」
と、思っていたらニケが爪楊枝を咥えて会話に混じって佐夜の不安に答える。
「って! オコノミヤキ全部食ってんじゃねーか!」
「あっはっは。すまん、つい美味しかったから3人でみんな食っちゃった!」
「「おいしかった!」」
「「「………はぁ」」」
全く反省の色がない亜人共に溜息が出る3人。双子なんか口の周りソースだらけになってるぞ。
「まあ、こんなこともあろうかと、材料はまだ残ってる────」
「「「おかわり!!」」」
「─────んだけど、分かった。おかわりな」
「あ、ごめん。俺達もちょっと食べてみたいからもう一枚頼むわ」
「はいはい」
こうして試験や模擬戦云々の話は有耶無耶になり、佐夜はオコノミヤキを次々と作り続けたのだった。ちなみに作ってる最中にイングの両親であるリンドやアイナもやって来てオコノミヤキを振舞い、アイナに「うふふ。サヤは良いお嫁さんに成れるわね~」と言われ、何故か顔を赤くしたイングに目潰しを食らわせた。
次回は王都にある本校へ行っての試験編です