第5話 ~佐夜とイングの自覚のないラブコメ~
何か、もやもやする回です。
佐夜とイングの追いかけっこから、酔っ払いに絡まれ乱闘し、騎士団に保護された後、佐夜達は騎士団の拠点となる兵舎へと連行され事情を聴かれた。
イングが佐夜に詰め寄られて逃げ出し、佐夜がそれを追いかけ、王都まで追いかけっこし、体力の尽きた佐夜が盗賊まがいの酔っ払いに犯されそうになった所をギリギリでイングが駆け付けて倒そうとしたが、逆に返り討ちに遭いボコボコにされたところまでだ。その話を聞いた騎士団の下級の男性騎士団員達は皆、
「「「「リア充、バクハツしろ!」」」」
と口を揃えて行ったそうな。まあ傍から見て、どう考えても恋人達のいざこざにしか見えないからだ。実際は恋人でも何でもなくただの追いかけっこなんだが。おまけに佐夜は男だし。
事情聴取を終えた後はイングの手当てを佐夜が行っている。本当なら全ての原因はイングにあるので「自分でやれ!」と佐夜は言いたかったのだが、救急箱を持って来た恋人持ちの女性騎士が「彼氏の手当ては恋人の役目でしょ?」とホクホク顔で救急箱を佐夜に渡してサムズアップして去って行ったからだ。佐夜は頬をヒクヒクさせ、イングからは乾いた笑いしか出てこなかった。
「痛たたたた………」
「あ、こら動くな!」
その後、事情を説明するのを諦めた(男だと言う事)佐夜は仕方なくイングの手当てをする事になったのだが、消毒液が染みたのかイングが痛みを訴え、佐夜が動かない様にとイングの頭を押さえる光景はどう見ても、恋人同士がイチャイチャしているようにしか見えない。再度何度も言うが、見た目は美少女でも佐夜は男だ。
「あの野郎……」「後でシバく!」「爆発しろ爆発しろ………」
「あんた達……」「………(ゴミ虫を見る目つき)」
遠巻きに見ていた男性騎士達が羨むように睨んでいたが、すぐに女性騎士達の視線でそそくさと去って行った。
「全く……お前が逃げなきゃ俺もこんな目に合わなくても済んだじゃないか」
「それについてはごめんとしか言えない」
「……本当に反省してるの、お前?」
「ゴメンナサイ」
ジト目で怒る佐夜に素直に謝ったイング。するとどこからともなく「さっそく尻にしかれてるね~」という女性騎士達の声が聞こえた為、佐夜の目から光が消える。
「さ、さてと。じゃあとっとと帰るぞイング。今俺、とっても居たたまれない」
「あ、ああ。分かった───ってあれ?サヤ、その袋から出てるのは何だ?」
「え?あ、これは─────ってイング、それ開けたらだm────」
佐夜がイングを静止させる前に、佐夜の持っていた肩掛け袋(ショルダーバックに近い物)の紐が解け掛け一部が露出した物をイングが取り出すと、それは佐夜がイングの為に握った『おにぎりだった物』だ。酔っ払いに揉みくちゃにされた時原型が留めておらずグチャグチャになっていた。
「返せ。……ったくお前はデリカシーの無い奴だな」
イングから潰れたおにぎりを奪い取る佐夜。ってか佐夜は何を言っているのだろう?
「サヤ、これって………」
「ああ、そうだよ。お前が逃げて食べそこなったやつだ。あ、ちょっと待ってろ?」
そういって佐夜は錬成陣が描かれた一枚の紙を取り出してその上に潰れたおにぎりを包みごと置き、南無南無~と両手を合わせてイメージし、錬成陣の端に触れる。
すると緑色の光と共に潰れて中身が出てしまっているおにぎりが元に戻った。おまけに握りたての様に温かい。それと佐夜は自分で作った魔法瓶(錬成術で作成)から蓋を取り、その蓋に中身の温かい緑茶を注ぐ。
「ほらよ」
「……何て言うか………妙に手慣れた感じがするんだが……」
妙に慣れた感じで世話を焼く佐夜に、イングが頬をヒクヒクさせた。その周りでも騎士団員の男女全員がイングのセリフに頷いた。要するに、『主婦か!』と。
「まあ過去に色々あったな……って、早く食べないとまたおにぎりが冷めるぞ」
「あ、ああ。イタダキマス」
元いた世界でもこの美少女っぷりだ。きっと色々と面倒事に巻き込まれたんだろう、とイングは考えつつ佐夜が作ったおにぎりを渡されて食す。味付けは『ツナ風』、『ふりかけ』、『牛しぐれっぽい何か』、そして『焼きおにぎり(醤油風)』の4つ。簡単に作ったにしてはやけに手が込んでる気がするのは何故だろうか?
(((((やっぱりお前等付き合ってるだろ!)))))
(((((ひゃあ~~~)))))
最早誤解以外の何物でもない空間に男性騎士達が心の中でツッコミ、女性騎士達が「あれ、いいなー」と羨むような感じで見ていた。
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「それで、何でいつも俺を避けてたんだ?」
「うっ………やっぱり聞いてきたか……」
「ふっふっふ。もう逃がさんぞ!さあ、吐け!」
事情聴取とイングの昼食を終え、兵舎から帰宅する途中の街道で、イングは佐夜に何故いつも避けていたのかを改めて問われていた。イングももう「これ以上は誤魔化せないな」と呟いて佐夜を避けていた理由を話す。
「サヤが嫌がると思ったからだよ」
「俺が? 何を?」
「女の子扱いを、だ」
「あ、当たり前だ!」
「ま、つまり、な」
イングが言いたいのはつまりこう言う事。
最初、鎮守の森で落ちて来た佐夜を助けた後、佐夜が(性別)カミングアウトをするまでイングは佐夜を『女の子』だと思っていた。が、急に男だと分かってもイングとしては佐夜とどう接していいのか分からなくなってしまっていたのだ。同じ男であるタックと同じ様な接し方も考えたが、何か凄い違和感があり却下。だからと言って女の子扱いすると凄く怒られるのは既に立証済み(タックがやらかした為)。
その後タックは上手い事佐夜との接し方に成功したが、イングとしては眠っている期間中から佐夜を見ていた為、どうしても普通の男友達の様に接することが出来なかったのだ。その歯痒い状態のイングを陰から見ていた母親のアイナは「うふふ」と何やらニヤニヤしていた事はその夫のリンド以外知らない。
つまりイングは佐夜の性別の扱いに困っていただけなのだ。男扱いは違和感バリバリで無理で女の子扱いは怒られる。おまけにイングは佐夜には嫌われたくない様なので、この時点で既に佐夜を女の子扱いしている様なものなのだが、本人は全く気付いていない。
「な、なーんだ。てっきり嫌われてるのかと思ってだ」
「サヤを嫌うわけないじゃないか!……ただ、どういう風に接していいのか分からなかっただけでさ」
「……ヘタレ(ジト目)」
「へ、ヘタレって何だよ!?意味は分からないけど絶対褒めてないよな?」
ヘタレと言われて涙ぐむイング。「撃たれ弱いなー」と佐夜は言いながらイングの顔を両手で掴み自分の顔に近付ける。キスされるのかと思ったイングは一瞬ドキッとした。
が、その幻想はあっさりとぶち壊される。………しつこい様だが二人とも男だ。
「おりゃ!」
「あだっ!?」
キスされるのかと思ったイングは頭突きを食らいその場で蹲る。
「全く……気にし過ぎなんだよイングは。そんなもんお前の好きにすれば良いんだよ」
「で、でもサヤは女の子扱いは嫌だろう?」
「ああ、だからそん時は遠慮なく殴る!」
「何でそんな楽しそうなんだよ!? 俺はサヤが嫌な思いをしない為にどうしたらいいか考えて───────」
「おりゃ!(目潰し)」
ズブシ!
「目、目ええぇぇぇぇ!!?」
まだウダウダ言うイングに佐夜は目潰しをお見舞いした。
「そりゃ確かに女扱いされたら多少は嫌な思いはするよ?でもな───」
そうって佐夜は膝立ちで目を押さえて唸っているイングの頭を後ろから抱え、
「理由も何も言わずに避けられる方が嫌だった」
そのままぎゅっとイングの頭を抱きしめた。
「………ごめん」
「ホントに嫌われたかと思ったんだからな!」
「マジでごめん………」
イングが佐夜に謝りたかった事はこの『何も言わずに佐夜を避けていた』事で、ずっとイングは謝りたかったのだが、結局どう接していいかも分かってなかったので謝る事も出来なかったのだ。
最終的に佐夜が歩み寄る事でようやく謝ることが出来たイングだが、この佐夜がイングの頭を抱きしめている光景はどう見ても………
「あらあら二人共。とっても仲良しね~」
「「!!」」
後ろからやってきた馬車の中から買い物帰りのアイナが二人の様子を見ていて、何か含みのある微笑みをしていた。今更になって自分達の置かれているシチュエーションに気が付きパッと離れるが、既に後の祭り。既に何人かの商人や旅人達が佐夜達を温かい目で見ていた。
「い、イング。早く帰るぞ!」
「て、あっ。ちょっ、サヤ。目が! 目がまだ回復してないって!」
居たたまれなくなった佐夜がまだ視力の回復してないイングの手を引いて、自分達の学び舎へ走って行った。
「うふふ。青春ねぇ~~」
後に残された馬車に乗るアイナは、佐夜とイングがようやく仲直り(?)したのを温かい眼差しで見届けて自身も自宅へと戻った。
次回からようやく話が進みます。