第1話 ~夢の中での再開と物質界~
やっと3章に突入です。
「───や、────佐夜」
「ん、んん~~」
誰かが俺を呼んでいる。誰だ一体……?
「ほれ、起きんか、佐夜っ!」
ピシャーン!
「あばばばばばbっ!?」
寝ている佐夜に電撃が走る。
プシュー………
「い、一体何しやが……って、あれ? アルガド爺さん!?」
「ほっほ。やっと起きたか、この寝坊助め」
突然の攻撃にキレそうになった佐夜だったが、目の前にいたのが幻想界【レニアナ】で錬成術を教えてくれた『アルガド爺さん』だった。
しかもこのエロ爺の正体はこの世界を管理する『神様』だという事がレニアナを出る直前に分かった。
っていうか、
「何でここに爺さんが居んの? つかここ、どこだよ?」
何故、レニアナの管理人が佐夜の目の前にいるのか、そして周りの大草原を見て佐夜が少しパニくる。
「少し落ち着かんか。……ここはお主の夢の中じゃ。で、何故ワシがここにいるかというとな─────」
佐夜を宥めながらアルガド爺さんはゆっくり語り出した。
佐夜達が【アルフィーニ】から次元転移し、その時一瞬だけ亜空間に出た時に佐夜に念話する事に成功したそうだ。
で、ここからが肝心の話らしいが、
「はぁ!? イング達がいなくなった!?」
「うむ」
驚く佐夜に爺さんは頷くだけ。
「あれ? でも、ヴァンが『次元封鎖』を掛けたって言っていたから、あの世界には簡単に出入り出来ないんじゃなかったっけ?」
確かそう説明されたはずだ。
「ああ佐夜よ、あれはな、『世界に穴を開けて』出入りする事が出来なくなる術式でな。あ奴等が出る時に使ったのは所謂『玄関』みたいな物じゃ」
「………はい?」
爺さんが何を言っているのかさっぱり解っていない佐夜。
仕方なくアルガド爺さんは細かく説明する。
つまり『世界』とは一つの『家』みたいな物で、正規の出入り口は『玄関』と『大窓(ベランダ出入り口)』になるが、召喚されたり、佐夜みたいに落ちて来た場合、『壁』に穴を開けられて侵入された様なものだと思えばいい。
ちなみにゼリア軍の場合、世界の『壁』に穴を開けて大軍が侵入、そして地下にあった転移装置から恐竜が来たわけだが、この場合は勿論正規の手順を踏んでいない為、不法侵入扱いになる。
ヴァンが言っていた『次元封鎖』とはこの『壁』や不正な手順で『玄関』から入ってくる輩をブロックする役割を果たす────
───のだが、イング達の場合、
「あの小娘……リオとか言ったかの? あの小娘が破壊した筈の遺跡の装置が完全に破壊できておらんかったらしくてのぅ。ワシがそれに気付いた時には既に修復されてあ奴等が転移した後だった。という訳じゃ」
「はぁ」
えっと……つまり何だ?
リオの不始末とアルガド爺さんの監督不届きが原因じゃないか!
「………それで? それを俺に伝えてどうしろと?」
「そう睨むでない、佐夜よ。問題はそこではないんじゃ」
「? ??? どういう事だってばよ?」
問題はそこじゃないってどういう事だ?
「あ奴等が世界の外に出て行ったという事は、お主と鉢合わせる可能性が出て来たという事じゃ」
「? それのどこが問題?」
爺さんが何を言っているのか分からない。
「お主が犯した『蘇生術』での天罰で、お主との記憶を失ったあ奴等が万が一、お主と再会し、そして更に万が一記憶が戻った場合、今度はお主自身に天罰が下るであろう」
「それってどんな?」
「それは分からん。が、その可能性がある故、こうしてわざわざワシがお主に伝える為に来たのじゃ。万が一あ奴等と鉢合わせた時はくれぐれも記憶に刺激を与えない様、気を付けよ」
「いや、そもそも亜空間は馬鹿みたいに広くて世界の数も膨大って聞いたぞ? 普通鉢合わせる事ないって」
アルガド爺さんの忠告に腕を組み、首を捻って否定する佐夜。
「だから『万が一』なのじゃ。外の世界に飛び出た以上、鉢合わせて記憶が戻る可能性は1%も無いじゃろうが、お主等佐夜とイングの絆は何故か完全には切れてはおらんのじゃ。それを加味した場合、その確率が低くても可能性自体は十分考えられるのじゃ。何度も言うが気を付けよ」
「わ、分かったよ。分かったからそんなに近付くなって。何か暑くて汗が止まらない」
捲し立てながら迫る爺さんに謎の汗をかきながら佐夜が引く。
「暑いって……ここはお主の夢の中じゃぞ? 暑いも寒いも無い筈じゃが?」
夢の中では味覚とか痛覚が無い様に、暑さや寒さなど感じないと爺さんは言う。
「でもほらこんなに汗が………ん? これ……汗?」
「……汗の割には顔中ベトベトじゃな」
だが、佐夜の顔が汗でベトベトに。
「顔中……ベトベト………ってまさか!?」
シュッ──────
顔中が汗でベトベト状態になるという事がある出来事と一致した事で佐夜が夢の中から消えた。どうやら現実に戻った様だ。
「はてさて、可能性が低いとはいえ、絆が切れていないのでは再び交わる事もあるからのぅ。後は本人達に任せるしかないの」
そう言ってアルガド爺さんも夢の中から消え、夢自体が消滅した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[物質界A-348-00196W]
佐夜達はどこかの森にある洞窟の入り口にいた。
「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ──────」
「………。……やっぱりか」
佐夜が目を覚ますとそこにはひたすら佐夜の顔をペロペロと舐めまくっている陽菜々の姿が。
正直、鬱陶しい。
「おっ、ようやく気付いた様じゃの」
「佐夜さん。おはようですっ」
すると陽菜々の反対側に真桜が居て、2人が佐夜に声を掛けた。
「うん……おはよう。……とりあえず陽菜々、もう舐めるのはいいからそこ退いてくれー」
「はーい」
ペロペロ舐めてくる陽菜々を退かしつつ、佐夜が身体を起こした。
「ってあれ? 確か俺、ビーム胸に撃たれてなかったっけ?」
すると身体に違和感を感じた佐夜が自分の胸辺りを擦る。
幻想界【アルフィーニ】にいた時、確かに『冷酷』の最後の攻撃を胸に受け、吐血した筈なのだが、そこにはビーム穴の服と傷跡すら見当たらないほど完全に治っている胸板。どういうこっちゃ?
「佐夜さんが真桜さんの魔力を変換した時に、枯渇していた他のみんなの魔力が回復してね、その回復した魔力を全部使って愛沙さんが治療してくれたんだよ」
陽菜々がそう言って指差した先には横になってぐったりしている愛沙の姿が。
「お姉ちゃん、佐夜の傷を完全に治すまで頑張った結果、治った途端倒れたのじゃ」
「そこまでしなくてもいいのに………」
真桜が自分の姉、愛沙の頬をツンツンすると愛沙が呻く。やめろって、イジメか。
「そういやあのウサ耳お姉さんはどこだ? どっか行ったの?」
転移前に5人いたがここにいるのは4人。1人足りない。
「リアさんなら着いてすぐに周りを探索すると言ってどこかに行ったよ」
「流石ウサギ。探求心が半端なかったぞ」
陽菜々と真桜が口を揃えて言う。ってかウサギってそういうものか?
「じゃあ、愛沙が回復し起きるのを待って、リアさんも戻って来たらみんなで森を出よっか」
「はーい」
「うむ」
「分かりました」
佐夜の言葉に3人が答える─────んん?
「───って、うおおっ!?」
「い、何時の間に………」
「び、びっくりしたぁ」
気が付けばいつの間にか、すぐ横にリアが居た。
「む……むうぅ、うるさいなぁ~」
「あ、愛沙さんも起きた」
佐夜の驚きの声によって愛沙も起きてきた。これで全員が揃った。
閑話休題(のびのびしつつ色々と説明中)───────
「全面石やガラスで出来た建物に、陽菜々と同じ小板(?)を持った人々………」
「火じゃない青と赤と黄色の明りに、カラフルな大きな箱………」
「たくさんの鉄で出来た馬車(?)に、見慣れない服装をした人達………」
「何でも売ってる冷気の効いた万事屋に、箱の中の小人……じゃと?」
「「「「それって……!!」」」」
リアの調査を受けて他の4人の目の色が変わる。
「後はこれ、陽菜々さんから受け取った金塊で換金した、この世界のお金」
「……佐夜」
「……うん、これで確信したな」
リアから受け取った紙幣に描かれていた人物『諭吉さん』を見て遂に4人は確信する。
ここは佐夜や愛沙達(陽菜々は除く)が過ごした世界……に近い世界だと。
つまりこの世界はマロン達協会から説明を受けた【物質界】なのだと。
ちなみに、
全面石やガラスで出来た建物→コンクリートの建物。ビルなど
陽菜々が持ってるのと同じ小板→スマホの事
青と赤と黄の明かり→信号機
カラフルの大箱→自販機
鉄の馬車→自動車
見慣れない服装→現代ファッション(?)
何でも売ってる冷気の効いた万事屋→コンビニ
箱の中の小人→多分、テレビの事
金塊で換金した紙幣『諭吉さん』→1万円札
さすがにこれだけの情報があれば、いくらアホでも気付くだろう。
「っていうか陽菜々、何で金塊なんて持ってたんだ?」
先ほどはスルーしたが、よくよく考えたら変な話ではあるが、
「協会のメンバーは全員、ある程度の資金用に持たされてるの、『金塊』。世界ごとに紙幣や貨幣が違うからね(ドヤ顔)」
「「「「あ~なるほど」」」」
陽菜々のドヤ顔での説明に若干リアがイラっとして眉を顰めるが、何も咎めない。
リアが換金したお金を使い、コンビニで買ってきたというパンや飲み物をみんなで食べつつこの世界での情報をまとめた。
ちなみに、天然のウサ耳美女のリアがコンビニに入った時、店員や他の客達が皆リア(のウサ耳)を見ていたらしい。見てはいたが、誰も突っ込まなかったらしい事からおそらくコスプレか何かだと思われたのだろう。
………いや、こんなウッサウッサ揺れている付け耳なんて売って無いだろ。
「さってと、じゃあ街に降りてみますか!」
パンや飲み物を食べ終わり、ちゃんとゴミを回収する。ポイ捨て禁止。
「ひな、物質界は久しぶりだから楽しみだよ」
「うむ、まさかこの姿で街を練り歩くことになろうとはな」
ちみっこ2人が楽しそうに森道を下り、
「うう……何だかコスプレしている気分になってきたわね」
「あはは……街に着いたら何か服を買いに行こうか?」
見た目女子高校生2人が恥ずかしそうにちみっこの後を歩き、
「獣耳2名に、この世界の住人達とは明らかに違う格好の者が3名。どう見ても奇異の目で見られる事間違いないですね………」
先に一回街に降りているリアが「またジロジロ見られるわぁ……」と呟きながら4人の後を歩く。
そして
「「「「わぁ~」」」」
街から少し離れた崖の上から街を見下ろす5人。
「何か……涙が出てきちゃうね………」
「あはは……元の世界じゃないかもしれないのに泣くのかよ」
「そういう佐夜も泣いておるではないかぁ」
「真桜さんもね」
「わぁ~」と言っていた4人中(リア除く)陽菜々以外の3人が感極まって涙する。
元の世界ではないかもしれないが、自分たちの知っている文明・文化が目の前に広がっているのを見て思わず帰って来たのだと錯覚したのかもしれない。
「ぐすっ……。じゃ、じゃあみんな、行くぞ!」
「……うん」
「うむ」
「はーい」
「ええ」
そう言って5人は崖を迂回して下り、街へ向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
亜空間に漂う艦『ベルガイア』
「───隊長、陽菜々さん達の位置が確認できました」
「おっ、やっと結果が出たか。遅かったな、で、どこら辺に転移したんだ?」
「ここです」
透がパネルを操作してモニターを映す。それを見たヴァンは、
「おいおい、マジか。ここ『機関』の管轄世界じゃねーか」
「はい、事故とはいえ、相手側に無断で侵入した事がバレるとかなり面倒かと」
「めんどくせぇ」と言わんばかりに片手で頭を押さえるヴァンに、溜息を付く透。
「また変な事に巻き込まれなきゃいいけどな」
ヴァンはそう言って同じ艦に乗っている世界破壊者、剛のいる部屋を見た。
万が一、リアという女性に何かあったら剛が何するか分からないからだ。
なので早めに回収する必要がある。
「透、『サイエンGO』に通信後、こちらからも陽菜々達のいる世界へ向かうぞ。それと、その近くの世界にいるメンバーに支援要請を掛けてくれ」
「了解。近くにいる協会メンバーに要請をかけます」
「ああ、出来るだけ急いでくれ」
透に指示を出してヴァンが司令席から立ち、ブリッジを出た。
次回は似て非なる物質界を探索します。佐夜達が。