第18話 ~地下ダンジョン攻略編・Part1~
この話でイングとエミリアの過去が明らかになります。
ダンジョン攻略初日の夕方。イング達が同行するB班も遺跡の内部から通じるルートより地下へと突入した。
対人戦(模擬戦)はある程度慣れたとはいえ、このダンジョン内に居る敵は全部怪物だ。勿論佐夜にとっては初めての人外戦なので緊張は隠せない。
ちなみに先日の作戦で地下へ潜った騎士達の話によると、地下の大きさの規模は一階分の広さが大体王都の学園の2倍くらいあるらしい(大体東京ドームの4個分)。そしてそれが地下5階まで続くらしい。つまり最終地点は地下5階って事だ。
そして肝心の怪物の種類はというと、
地下1階層のモンスター
・ゴブリン(定番)
・ボーンナイト(骨)
・ホワイトスパイダー(白いから発見しやすい)
・サソリ(ただのサソリだけど毒あり)
・ワーム(一番弱いが数がかなり多い)
・ナイトゴブリン|(上位種)
地下2階層のモンスター(地下1階層の敵も含む)
・キラーアント(小~大)
・アナコンダ(無毒)
・シャドウハウンド(暗い上に黒いから発見しにくく奇襲されやすい)
・パズルラット(合体して大きくなる)
・エレキバット(捕まえて照明代わりにする)
・鹿(しか!?)
地下3階層のモンスター(地下2階層の敵も含む)
・ウォーウルフ(叫び声が煩い)
・スライム(何でこんな所に!?)
・ロックライオン(すごく硬い)
・人食い熊(ただの熊)
先日の作戦で潜った騎士達からの情報はここまでで、地下4、5階層からは不確かな情報な上、かなり強い怪物がうろついているとの事らしい。何でも大きいトカゲやら、鉄の箱とか、変な恰好のゾンビ等々、今まで見た事の無い怪物がウヨウヨしてて、既に何十人もの騎士や冒険者達が命を落としているらしい。
「何でそんな危ない所に僕達を呼んだ意味が分からないよ……」
「まあ……サヤのその気持ちは分からなくはない」
手練れの大人達が殺される場所に連れて行かされる事実を知った佐夜は既にテンションガタ落ちだ。いや、もう既に帰りたい気分だ。
「でもさ、サヤ。こんな時でもないとアタシ達が駆り出される事がないからさ。それに相手は人間じゃないんだ。なんてことはないよ」
「それに倒せば色んな素材が手に入るし……」
「王家の人間としてはこんな危ない場所を放置する訳にはいきませんの!ふんす!」
「「ふんすっ!!」」
エミリアの気合に双子が真似する。マナは素材目当ての様だ。ニケは拳をシュシュっと素振りをしている。どうやらただ単に以外を殴りたいだけらしい。
「あがっ!?」
「あ、ごめん」
素振りの目測を誤ったニケの拳が横を歩いていたタックの側頭部にヒット(笑)。
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という事でイング達を含めたB班はスイスイと地下3階層へと辿り着く。勿論ここに来るまで結構な数の怪物と戦ったが、佐夜はあまり戦闘には参加しなかった。
まあ、そりゃちょっと考えれば当たり前の事だからだ。物質界───元の世界のゲームではないのだから怪物といえど、剣で斬れば血が溢れ、火炎魔法で焼けば嫌な焼肉の臭いがする。そして殺せば死体が残るし肉塊がそこら辺に散らばっている。知らない人が見たらちょっとした地獄絵図だ。
役に立つ色んな素材などは回収するが、怪物の血や肉は使い道が無い為放置するしかないが、騎士達に聞けばそれらの残骸はその後、他の怪物達または魔素化(肥料化)したのちダンジョンによって食われるらしい。まあ、普通はそうなるよね。
「う……うぷっ………!」
「本当に大丈夫かサヤ。相当顔色悪いぞ?」
「だ、大丈夫……じゃない」
生き物の死体(残骸)を初めて、それも大量に見た佐夜のメンタルはかなりヤバイ状態に達している。既に何度も嘔吐しつつも何とかここまで来たが、体力的・精神的にももう限界が近い事は誰の目にも明らかだ。
「お~い。今日はここでテントを張って休むぞ!」
そう言ったのはB班のリーダーを任された【ワタリ】という青年だ。皆に休憩と言った後でワタリは魔法通信機で他の班と連絡を取って「自分達はもう休む(休憩する)」と言った。
佐夜は勿論、他の生徒達も戦闘などでそれなりに疲労しているので、丁度良い時間帯で休憩出来るのは正直ありがたい。イングは早急タックと一緒にテントを張って佐夜を寝かしつけた。佐夜としては夕食を作って(気分転換して)から寝たかったが、イングが無理させないとばかりに佐夜の夕食作りを断ってテントに押し込んだのだ。その際、佐夜がテントから出ない様、見張り&一緒に休ませる為にノンとロロにも休憩を取らせた。すると3人は並んで横になるとすぐに就寝した。
ゆえに夕食はかなりの質素な食事になってしまったが、佐夜がああなってしまってはしょうがない。一番質素な夕食に不満が上がりそうなニケだったが佐夜の状態を知っている為、黙って干し肉を食べていた。それも大量に。
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「あら? もう休まなくてよろしいですのサヤさん?」
「うん。単に気分が悪くて寝てただけだから。それに僕、あまり戦闘に参加してないから体力的にはそんなに疲れてないよ。それで目が冴えちゃってテントから出たらエミリアが見張り番してたからね」
「そうですの」
そういって佐夜はエミリアの隣に座る。エミリアもそれだけ言って何も言わない。
ちなみにエミリアの見張り場所はテントの周辺で、他に左右の通路や、目の前にある地下4階へと続く階段にそれぞれ見張りが就いている。
「そういえばさエミリア。イングの過去について君にちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「イングの過去……ですの? それって………」
「うん。何でイングが皆から役立たずだとか弱虫なんて言われなきゃいけないのかなってさ」
佐夜の脳裏には試験の際に本校に行った時、イングに影から囁かれている罵声。それも本人には聞こえない位小さな声で悪口を言っている生徒達。
「アルケシスの皆に聞いても何故かはぐらかされるんだよ。それだけ言いにくい内容だって事は何となく分かるけどずっとモヤモヤしててさ。それにその話にはエミリアも絡んでいるって噂があるって聞いてね」
「……それでしたらイング本人から聞いた方がよろしいんではなくって?」
「何故自分に聞く?」と言わんばかりに眉を顰めながらエミリアが言った。
「聞いたけどさ。そしたらイング『その話はまた今度話すよ』って言ってもう3ヵ月経ってるんだよ? 絶対イング言う気ないって!」
「だったら聞かない方が良いのでは?」
「う~~。それはそうなんだけど! でもずっと陰でイングが悪く言われ続けるのはあまり良い気分じゃないよ。せめて理由が解ればいいなぁって……」
両手の人差し指同士でツンツンする仕草は何とも可愛らしい。
「はぁ……。分かりましたわ。でも少し話が長くなりますけどよろしくて?」
「おK」
「お……『おK』?」
「あ、いや。気にしないで。こっちの話」
「???」
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「誰かから聞いた事があるのかもしれませんが、実は私とイングは幼馴染なんですの」
「そうなの? いや、初耳だよ? 誰もそんなこと言わなかったし」
「……そうですか。もうそこまで箝口令が引かれてたのですね」
と言ってエミリアは一度言葉を切って、過去の話をする。
今から約8年前、イングとエミリアが9才の時である。王様とリンド(イングの父親)は昔からの親友で、その子供の2人も自然と幼馴染として遊ぶようになり、どこに行くにもエミリアはイングの後を追っていた。
「幼い頃より王女として英才教育を受けていた私にとって、イングは唯一の友達だったんですの」
基本、王族の後継ぎとして外に出られないエミリアにとって、王宮から出られる唯一の機会が父親である王様が、親友のリンドに頼み事をしにアルケシスに行く時に連れて行ってもらう時だけだ。
王様自身も戦闘の腕がそこそこあるので、王様の独断で自分の娘であるエミリアを親友のリンドとその息子のイングに紹介しようとしたのが2人の出会いで、普段王宮から出られないエミリアにとっては唯一の外出=イングと遊べるといった感じで、2人は王様が王宮に帰るまでの間、いつもイングの家の中で遊んでいた。
しかし、それはイングとエミリアが11才になる時までの話。
「ある日、お父様とイングの家に行った時、イングと2人で『とある計画』を立てていたんですの」
「『とある計画』?」
一瞬何故か禁○目録のお話を思い浮かべた佐夜だが、全然関係ない。
「それはお父様への『誕生日プレゼント』ですの。それもサプライズ的な催しで」
「まあ、誕生日にサプライズイベントは必須だよね」
「企画自体は悪くなかったんですの。ですがそのプレゼントを作るのに必要な材料が足りなくて私とイングはお父様達に黙って森に入ったんですの」
「え? 何その急展開? そもそも子供2人が黙って森に入るって時点で何らかの危険なフラグ立ててるよね!?」
ちなみにその前の誕生日プレゼントのサプライズってのもちょっと怪しいセリフだ。
「フラグって何なのか分からないのですけど、その入った森でトラブルがありましたの」
「ほら来た!」
「……何でそんなにテンションが上がっているんですの?」
「あ、ごめん。定番のシチュエーションに意味も無く興奮しちゃった……」
「まったくもう………」
そう言って続きを話すエミリア。
王様の誕生日プレゼントを作る為に黙って家を抜け出し森に入った2人は、目的地の泉にある『光る鉱石』と森に生えている『紫花』を手に入れ帰ろうとした。
「………ねえエミリア。何となくこの後の展開が読めるんだけど?」
「黙ってお聞きなさい」
「はい」
黙って聞いた。
目的の物を手に入れた2人だったが佐夜の予想通り、迷子になった。そこまではいい。そこまでだったら別にイングだけの所為ではないだろう。しかし問題はそこじゃなく、2人の前に現れた森の怪物だ。勿論11才の2人がまともに戦える筈も無く、石や棒などで牽制しつつ逃げるのが精いっぱいだ。
しかし当時11才だったエミリアは身体が弱く、慣れない森の環境やひたすら逃げ回っていた事もあって、次第に熱を帯び始めグロッキー状態になった。そのエミリアの状態に焦ったイングだったが、そこに偶然小さな洞窟を発見する。
だがそこは子供が1人しか入れないほどのスペースしかなく、勿論そこに入るのはエミリアだ。17歳になった今ならともかく11才の頃はまだイングの方が体力が上だった事もあって、エミリアを小さな洞窟に入れ、近くに会った木の板などで隠した後、イングは超特急で森を走った。メ○スの様に。
勿論その時にも森の怪物に出くわすが、何とか森の外に出たイングは自分の家ではなく王都の方へ向かった。それは勿論王都の方が森に近いのと、家にはいても3人しかいない(リンド、アイナ、王様)為、それより王都で助けを呼んだ方がまだ効率が良い。
しかしそこでイングに不運が起こる。エミリア程ではないがイングもそこそこ疲れていて、その上森の怪物と交戦中に引っかかれた傷から雑菌が入り、イングも熱を出して王都の門前で倒れたのだ。
その後、イングは門番によって施術院に運ばれ、目を覚ましたのが3日後の事だ。
「え? その間エミリアはどうなったの?」
「私は……」
佐夜の質問に顔を顰めるエミリア。何か言いにくそうだ。
イングが門前で倒れている頃、エミリアは気絶しながらもイングが助けを呼んで来る事をひたすら願っていた。
しかし、いくら待っても助けが来なく、エミリアが救助されたのが翌日の事だ。それも助けに来たのが偶然通りかかった商人で、不自然な木の板が乱雑に重ねてある事に目に付いて、退かしたらそこには熱を出して唸っているエミリア王女が居たらしい。目を覚ましたエミリアが王都に着いた時、イングの事を聞いてもイングが誰にも助けを呼ばなかった事を聞いて、エミリアは絶望して気絶した。
そしてここから悲劇は拡大する。
「え? これよりまだ酷い事があるの?」
「…………(コクン)」
エミリア自身も熱を出していた為、歩けるまで回復したのが4日後の事。エミリアはイングへの失望と怒りをぶつける為に学園へ行き、その頃丁度身体が回復して学園に登校したイングに向かってエミリアはこう言ったのだ。
『裏切者! 弱虫! 役立たず!』
っと。それも他の学生達が登校中に言ったものだからその話はすぐに学園中に伝わり、イングは全校生徒から大いに非難され、その日から酷いイジメに遭う毎日が続いた。
勿論、大人達はイングとエミリアの事情を知っているので、大人達からの非難は無いが、その時の子供達は高等部になった今でもその時の名残でイングの事を何も知らない故に陰口を言っているし、後から事情を知った者達はきちんと謝罪してくるが、まだまだ事情を知らない生徒の方が多い(分校に通っているが故に)。
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「な…何だよそれ? イングは何にも悪くないじゃないか!!」
イングはただ単に助けを呼ぶ前に倒れてしまっただけで、何の責任問題も無いはず。ただタイミングが悪かっただけなのに何でこんなに非難されなきゃいけないのだ!
「ええ。私も王宮に戻った後にイングについて詳しい話を聞いた時は凄く後悔しましたわ。……ですが時既に遅く、一度植え付けられたイングへの悪評は覆る事無く、学園でのイングのイジメは無くなりませんでした……」
「そんな………」
「そしてしばらくしてイングが不登校で引きこもり、初等部(小学校)を卒業した後、イングは自分の両親が務める分校『アルケシス』へ通う事になりましたの」
「…………」
「そして私とイングの2人はそれ以降、顔を合わせる事も無くなりました」
そこまで言ってエミリアは早くなる鼓動(呼吸)を一度整えて続きを言う。
「そして学園へ通う事が無かった私は、中等部から学園へ編入してひたすら身体を鍛え、今ではランキング1位にまで昇り詰めることが出来ました」
「そ、そっか……」
「ですがイングの方は才能に恵まれず、生来からの魔力値の低さが相まって万年低ランク……こんなのあんまりですわ!」
「え、エミリア…………?」
突然激情しだすエミリアに驚く佐夜。
「私がイングに罵声を浴びせなければ……いえ、そもそもお父様の誕生日プレゼントをサプライズで作るなんて言わなければよかったんですわ!」
そうすればイングが非難される事も引きこもる事も、才能が無い事に悪く言われる事も無く学園生活を送れたのだ。それを全部ぶち壊したのが自分だとばかりにエミリアは自分を責め続けた。
語るにつれて泣き出すエミリアの背中を黙って擦る佐夜。佐夜から言い出した事なのだがまさか泣き出すとは思わなかった佐夜は実に複雑な気分だ。
「ぐすっ……イングだってきっと私を恨んでいる筈ですし、私と出会わなければ良かったと思ってる筈ですわきっと」
「そ、そんな事は………」
『無い』と言いたかった佐夜だが、これまでのイングのエミリアへの態度を見るあたり、十分ありえると思った。
だってどう聞いてもイングの方が圧倒的被害者だ。恨まれていてもおかしくは無い。
「今までにも何度か謝ろうとしたのですが、王政や学業で忙しかったり、取り巻き達に囲まれたりしてなかなか行けずじまいで……」
「でもそれってエミリアの事情でしょ? 本気でイングに謝りたいのなら政治やら取り巻きとかそんなの放って置けばいいのに」
「ええ、それは分かってるんです。……でも、怖いのです」
「怖い?」
「私は……今でもイングが大好きなのです。でもあんな事をしでかした私をイングはきっと許してくれはしないでしょうし、それを直接本人から聞くのが怖いんですの……」
「そ、そうか……(い、今、何気に凄い事カミングアウトしなかった?)」
「サヤさん。話を聞かせたついでに少しお願いがあるのですが……(うるうる)」
「あ~~、聞かなくても何となく理解しちゃった」
「ええ。サヤさんに私とイングとの仲を取り持ってほしいんですの」
過去の話の流れで凄い事を言ったエミリアは佐夜にイングとの仲を取り持つようにお願いする。
「う~ん……ごめん。そのお願いは無理かな」
しかし佐夜はそのお願いを却下した。
「な、何故ですの!? 貴女、私が話したくない事まで話したというのに……」
「うん。そこは僕が悪かったよ。まさかそんなに重い話だとは思わなかった。それでもそれはちゃんとエミリアがイング本人に直接言うべきだよ」
そう言って佐夜は一度言葉を区切って、曲がり角に隠れている人物にこう言った。
「だよね。イング!」
「うっ!?」
「はわぁっ!?」
そこに隠れていたイングがビクッてなって、そのイングを見たエミリアもビクッてなる。
「い、いいい、イング。あ、貴方まさか私達の話……」
「……ああ、聞いたよ。全部な………」
「あ、ああああ─────」
「エミリア。落ち着いて。はい、深呼吸」
「ひっひっふー。ひっひっふー」
「妊婦か!」
「はひゃあああ!?」
せっかく人が落ち着かせようとしているのに何で突っ込むかな!?ああほら、またエミリアが取り乱すし!
「イングも少し黙ってて」
「はい」
最近のイングはやけに佐夜に従順である。他の人が見たらまず間違いなく「尻に敷かれてんな~」って言うだろう。
「じゃあ、後は当人同士で解決してね」
と言って佐夜は少し下がる。本当はこの場から居なくなればいいんだが、放って置けばまた変に話が拗れる恐れがある為、いつでもフォロー出来る様に近くに居る事にした。
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あとがき外伝↓
リオ「何なの、このラブがコメってるの………?」
ヴァン「分けるな分けるな」
リオ「というか、今回リオ達の出番ないし!」
透「当たり前です」
義信「俺達が本編に出てくるのはもうちょい後だよな?」
ヴァン「だな。リオだけは俺等より先に登場する予定らしいが」
リオ「え? それ本当?」
R「知らん」
透「作者に聞いて下さい」
リオ「そのコピペ止めて!」
義信「リオはいつも元気だなー」
イングとエミリアのわだかまりは次回解決します。