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異世界無双禁止規定(ステージ オブ グラウンド)『緩』 ~歌姫神と称された少年のあれこれ~  作者: 浅葱
第一章 ~次元迷子の少年(佐夜プロローグ)~
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第9話 ~佐夜とイングと残念王女~

イングが敬遠していたエミリア王女の登場。色々残念です


 試験、検定、模擬戦が終わって2日後、イング達の通う『セルニア魔法・騎士学園分校』通称【アルケシス】に試験の結果が来た。一応本校の巨大掲示板にも全生徒の成績が載っているが、個人個人にもそれぞれ成績表が来る為、わざわざ本校まで行く必要は無い。リンドの手によってそれぞれに成績の入った封筒が手渡される。


「ふうん。総合71位ね」

 まずは猫亜人のニケ。前回は88位らしいので17UP。


「187位って……変わってないじゃん………」

 続いて小魔法連発野郎タックは何と前回と同位。同位って珍しいな。


「私は……94位」

 高火力ウィザード・マナの場合、試験、魔力技能検定は結構上位に食い込んだのだが、模擬戦の5戦全てで戦闘不能に陥ったので、その分がマイナスになっている。


「202位!やった30も上がった!」

「202位!ってノンも!?」

 流石双子。まさかの同率202位。


「良いのか悪いのか良く分からないけど、俺は152位だって」

 超美少女的存在・佐夜が首を捻って言う。その仕草も可愛い。

「……………」

 一方、エルフ(忘れがち)のイングは何も言わず、成績の入った封筒をしまう。


「……で、イングは何位だったんだ?」

「…………106位だ」

 イングの事情を知っているタックが一息置いて聞く。

「おお!結構良いんじゃね?」

 イングの事情を知らない佐夜は「おっ!」っとなる。

「ま、まあ、普通だったら喜ぶべきなんだろうけど、さ」

「イング的には不満……だと思う」

 ニケとマナがちょっと言いにくそうに口をムニムニしながら言う。


「?? 何で? 俺よりいいじゃん?」

「……(サヤ、サヤ。エミリア王女関係だよ)」

「……(だから今のイングはちょっとナイーブなの)」

「ああ………そゆこと」

 イングとエミリア王女との関係は知らないが、イングの機嫌が悪いくらい、問題の根こが深いのだろう。


「ということで、イング。サヤとデートしてきな」

「は?」「ほへ?」

 ニケのいきなりの命令で、イングと佐夜。両方の頭部から『?(はてなマーク)』が出る。それくらい会話の前後が繋がってない。


「……ニケ、違う。買い物、買い物だから」

「いや、どっちでもいいじゃん買い物でもデートでも」

「アホかタック。買い物ならともかく、イングとのデートは絶対ありえん」

 というかまず前提がおかしい。会話の前後が繋がってない上に、いきなりデートしろとか、そもそも佐夜もイングも男で、男同士でデートとか一体誰得だよ!


「「ねぇねぇサヤ。サヤ。」」

「ん? どうしたノン、ロロ?」

「「あれ」」

 タックとニケに吠える佐夜の裾を引っ張る双子。あれと言われて双子が指差した方を見ると、

「………………」

 イングが真っ白になっていた。どうやら佐夜に『イングとのデートはありえない』というセリフに何気にショックを受けたのだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その一時間後、佐夜とイングは王都の街を『買い物』という名目でデートをしていた。男同士とはいえ佐夜は見た目的に『超美少女』だ。おまけに今は制服ではなく、私服に着替えているため、より一層男同士のデートには見えないだろう。


 街を歩く二人に周りの人達の視線が多く集まる。今までにもこの二人での買い物(食料系が多い)はよく行っており、お店に行く度に店員には『カップル』に間違われて値引きをされたり、街の知り合い達に出会えば冷やかされる程、この二人の関係が大いに誤解されている。

 まあ『カップル』という単語を言われた時、イングの顔が赤くなり、その度に佐夜にチョップを食らうというイチャイチャ行為も原因の一つだろう。


「はぁ~」

「ど、どうしたサヤ?」

 明らかにキョドって不審なイングに佐夜が溜息をつく。


「どうした?じゃない。何、周りをキョロキョロしてんだ?」

「いや、だって今までの買い物も周りから『デート』に見られていたと思うと……な」

「こらっ」

「あたっ!?」

 ポコッ!っと女の子扱いするイングにチョップをかます。


「……はぁ。もう今更周りに、俺が男だって言っても誰も信じられないだろうけど、お前までそんな態度を取るな。いつも通りに接しろって言ってるだろ」

「それはそうしたいんだけどよ。周りの視線が、ちょっと、な」

「気にするな。………って言いたいけど確かにちょっと視線がウザいな………よし。イング。こっちこっち」

「こっちって……喫茶店?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「わぁ~~。見て見てあのカップル」

「あの男の子、凄い緊張しちゃって可愛いね!」

「おおう。女の方もすっげぇ可愛いじゃないか!」

「女の子の方がリードしてるのね。妄想が捗るわ!」

「けっ!イチャイチャしやがって……」

 住人達や店の人達から逃れる為に喫茶店に入った二人。しかし結局喫茶店の中に居た客達の視線に晒される。さらに、


「い、いらっしゃいませ。お二人様ですね。お席に案内します(リア充爆発しろ!)」

 喫茶店の店員の心の声ですら聞こえてきそうな怨嗟が二人の顔を引きつらせる。だが入って今更出る訳にはいかず、昼食も食べていないので怨嗟の念を送ってくる店員に案内されて席に座る。


 ビタンッ!


「あだっ!?」

「だ~か~ら。顔を真っ赤にするのはやめろって」

「だ、だって仕方ないじゃないかぁ!」

 相変わらず周りに翻弄されるイングに佐夜がデコビン(強)を食らわせ、額を擦りさならイングが涙目で言う。そんな二人のイチャつきぶりに、周りがさらに盛り上がったのは言うまでもない。


 ざわっ……ざわざわっ……………


「ん、何だ?この感じた事のある『ざわざわ』は?」

「サヤが何言ってるのか分からんが、どうやら店に誰か入ってき───!?」

 店に入って来た人物を見たイングのセリフが止まる。というか石になった。

「あら?そこにいるのはイングではなくて?」

「……………」

 エミリア王女を見たイングが石になったまま何も喋らなくなってしまった。


「えっと……貴女は『エミリア王女』…ですよね?」

 そこに立っていたのは金髪碧眼の第一席【エミリア・T・セルニア】だった。普段は神聖騎士として白と黄色の鎧を着ているらしいが今日は休日なので私服姿だ。


「ええ、そうですが。……貴女は確か転入生で【アルケシス】に入った方ですわよね?」

「え?ああ、はい【サヤ・ミサト】って言います」

「………妙ですわね。確か学生会で受けた報告で、転校生は『男性』って聞いたのですが……」

「あはは……。見た目はこんなですけど、性別はちゃんと男ですよ」


「………え?」

「俺は、男。です!」


「「「「はああああぁぁぁぁぁ!!?」」」」


「っ!?」

 最早慣れた佐夜の『俺は男』発言にエミリア王女は勿論、近くに居た別の客達まで驚愕していた。その大きな音量にてイングがビクッとなり、気を取り戻す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、何故かエミリア王女が相席となり、佐夜はイングの隣に移った。

「それにしても。まさかこんなところでイングと遭うとは思いもしませんでしたわ」

「こんな所でって……それはこちらのセリフなんだが………?」

 ここは街中の普通の喫茶店。イング達が来るのは何の問題もないが、エミリア王女がこんな所に来るのは正直違和感しかない。もっとお洒落なカフェがあるはずだ。


「……わたくし、ここには週に2~3日は来る常連ですの。あ、店長!いつものあれを下さいな」

「え? は、はい!かしこまりました殿下!」

「………いつもながら、そこまで畏まらずともよろしいのに……」

 直立不動で答えて厨房へ向かう店主に苦笑いで呟くエミリア王女。


「ねえ、エミリア王女。いつものって何ですか?」

「ふふっ。来れば分かりますわよ」

 エミリア王女がそう言って出て来たのが、超特大のパフェ。大きな器の中に業務用の大きなバニラアイスを土台にし、そこにコーンやウェハースにポッ○ー。季節の果物にシャーベット。その他色々な物が所狭しとそのバニラアイスの上に鎮座していた。


「「う…うわぁ~………」」

 その異様な物体にイングも佐夜もかなり引いた。これはもうモンスターレベルと言っていいだろう。こんなの食べきれる訳がない。


「では、『主よ今宵も我々に恵みを与えてくださり感謝します』」

 と、祈るようなポーズで言ったエミリア王女が超巨大パフェに食いついた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・


 その結果────────────────


「がふぅ!!」

 超巨大パフェの3分の1すら食べきれずに撃沈したエミリア王女。


「食べきれないのかよ!何で全部食べられないのにこれ頼んだ!?」

「だ、だって……いつ見ても美味しそうで……今日こそは…と……頑張ったのですが……がふっ」

 遂にはスプーンを握ったまま気絶した王女。何でだろう?とっても親近感が沸くキャラクターだ。


「……しょうがない。サヤ。残ったこいつを処理してくれるか?」

「これって……残ったパフェ?」

「ああ、俺も手伝いたいが生憎、甘い物は苦手なんだよ」

「………分かった。店長さん。スプーンをもう一つお願いします」

「ええ。ただいま。………やっぱり殿下は完食無理でしたか」

「はい。見ての通りです」

 テーブルに倒れているエミリア王女を指差して言う佐夜。イングは何故かエミリア王女が来てからほとんど無表情だ。無表情でパエリアを食している。


「…………っは!?」

 数分後、ビクッとして目を覚ましたエミリア王女。よだれが垂れている姿は王様にはとても見せられない。


「あ、あれ?パフェが減っている?」

「ふぉ!ふぉへるふぉふぉっふぁいふぁいふぁらふぉふぉっふぁふぉふぉふぉふぃふぁふぁいふぇふふぇ(よっ!溶けると勿体ないから残ったものを頂いてるぜ)」

 エミリア王女がパフェのアイスの行方を追っていると、そこにはスプーンを口に含んだまま、両手にはアイス付きコーン(ダブル)を持った佐夜がとっても美味しそうに巨大なパフェを2分の1ほどを平らげていた。残りは6分の1程度。


「あ、貴女……これだけの量を食べて平気なんですの?頭痛くなったりしませんの?」

「ん? 別に? つかこれ美味しいな!」

 ズキズキする頭(アイス一気食いの所為)を押さえつつ迫るエミリア王女に、甘い物に夢中になっている佐夜が笑顔で言う。とても男の笑顔には見えないが。


「あ……貴女。サヤさんとおっしゃいましたよね」

「んを? うん」

 何か真剣な表情で佐夜を見つめるエミリア王女。つか貴女って女じゃねーし。


「ら、ライバルですわ!」

「…………は?」

「私に出来ない事を、平然とやってのける……。そこに痺れますわ!」

「は、はぁ………」

「覚えてなさい!いつか必ずわたくしもその(超巨大)パフェを一人で食べきって見せますわ!」

「そ、そっすか………」

 この王女様は一体何を張り合っているんだろうと思いつつ、佐夜は適当に相槌をうった。そしてその王女は泣きべそをかきながら帰って行った。つかお会計はどうした?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そういえばイング。エミリア王女が来てからあまり喋ってないけどどうしたんだ?」

「……何もねーよ」

 喫茶店を去り(エミリアが頼んだパフェはツケでOKらしい)街中をさらにぶらつく二人。今はあのエミリア王女の話題を話している為、佐夜は周りの視線は気にならないらしい。イングはまだ居心地が悪いっぽい。


「あー、そういやあの王女様と昔、何かあったんだよな?詳しくは聞いてないけどみんな何故かはぐらかして話してくれないだよな~(チラッ)」

「あまり人に話したくはない事なんだが……」

「まあ、嫌なら言わないでいいけど、そんなに辛い内容?」

「まあな。俺とエミリアが幼い時に色々あってな───────」


「あら?こんな所でまた逢いましたわね?(もぐもぐ)」

「「………………」」


 っと、本来ならここで過去の話になる所だったのだが、イングが過去の話をしようとした時、偶然(?)通りかかったクレープ屋台のカーテン(暖簾っぽいやつ)から出て来たエミリア王女によって遮られる。その手に持っているクレープが何故スウィーツ系ではなく惣菜系なのかは知らない。多分甘い物に飽きたのだろう。


「まずは、先ほどの喫茶店での事で取り乱してしまい失礼。ちなみにその後、ちゃんと代金は支払いましたのでその辺りはご安心を」

「まあ頼んだのは王女殿下(?)ですけど、あの(超巨大)パフェの殆どは俺が食べたのですがその分は──────」

「いりませんわ!むしろ私の尻拭いをさせてしまった事で謝らなければいけないのですからむしろ感謝してますわ」

「そ、そうですか」

 先ほど泣きべそをかいていたのが嘘みたいに威厳を放っているエミリア王女。口元にマヨが付いているが………


「そういえばあなた方は『選抜』の準備はお済みかしら?」

「せん、ばつ………野球?」

「? 野球って何ですの?」

 『選抜』と聞いて野球を連想し首を傾げる佐夜。当たり前だがこの世界に野球は無い為、聞かれたエミリア王女も首を傾げる。


「こほん!いいですか?選抜というのは────────」

 なんか、頼んでもいないのに勝手に話し出したエミリア王女。

 『選抜』というのは模擬戦の結果が上位に居るチーム16位以内(シードは除く)のトーナメント戦だ。要するに選抜は今年の最強チームを決める戦いらしい(エミリア談)。選抜の通過結果は各チームリーダーに成績と共に通知される。


「あれ?でも俺、選抜云々の話、聞いてないぞ?」

「あら?ですがもう通知はされている筈ですわよ?」

 そういって佐夜とエミリア王女はイングの方を見ると目を逸らされた。どうやら隠していたか、言い忘れていたらしい。

「し、しょうがないだろう!教室でその事話す前に、あのニケがデートに行けって言うから───────」

「で、デート!?あなた方『男同士』ではなかったのではなくって!?」

「男同士だけどデートっていうか何て言うか………(汗)」

「いや、普通に買い物って言えばいいだろ!?何でデートって公認した!?」

「やっぱりそうでしたの!?実は最初喫茶店に入られる時、偶然見た時からそう思ってましたの!」

「やっぱりって何だ!?違うから!俺とイングはそういう関係じゃない──────ってイングもいちいち落ち込むな!面倒くさいから!」

「び……BL! 808、やおやですわ!!」←(間違い)

「それを言うなら801(やおい)だ! ってだから違うってば!」

 エミリア王女が二人の関係を疑い、佐夜がそれを否定し、それを聞いたイングが落ち込むといった光景を周りにいた通行人達が「あれエミリア王女じゃね?」「え?二股?」「二人とも超可愛い」「青春や~」「けっ。リア充が!」と言いながら三人の横を通って行くが、その三人は今それどころではない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「こほん、ごめんなさい。取り乱しましたわ」

「本当にな。一体何回取り乱すんだよ………」

 もしかするとエミリア王女は妄想暴走少女なのかもしれない。


「と、とにかく! 選抜では私と当たるまで絶対負けてはなりませんよ。イング!」

「お? お、おう。分かった………」

 エミリア王女が急に話を振ってきたので、ビクッとなって応えるイング。

「ではまた学園……選抜でお会いしましょう」

 と言ってエミリア王女は今度こそ、佐夜達の前から去って行った。


「何か……色々な意味で凄い人だったな………」

「ああ……昔から変わってないよ。あいつは………」

 ようやくいつもの調子が出てきたイングが溜息交じりに苦笑する。イングとエミリア王女との関係がかなり悪いと思っていた佐夜だが、苦笑するイングのその表情を見るに、どうやらイングは別にエミリア王女の事を嫌ってはいないらしい。エミリア王女の方も別にイングを邪険に扱っている風には見えなかったっぽいし。


 結局、イングとエミリア王女との関係は聞けずに二人は帰宅に着いた。


 ちなみにその後、

「うふふ。サヤさん、あのイングとのデートはどうでした?」

「だからデートじゃないですってば……」

 ………帰宅したらしたでイングの母親アイナに、こってり話をせがまれた佐夜だった。



イングとエミリア王女との話はまた今度。

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