そして同じ人に恋をする9
「ねえ、お兄ちゃん。どっちが良いと思う?」
「拓真の奴、何で来ないんだ?」
「当日まで見たくないんだって。楽しみは取っておくって…ねえ、ちゃんと見て」
「どっちも似合うよ」
「もう!いい加減なんだから」
今日は、私のウエディングドレスを選びに来ているんだけど、お兄ちゃんたら、ちゃんと見てくれないのよ。
結婚を許すと言ってくれたけど、やっぱり寂しいみたいね。
ゆりちゃんは、お父様とフランスへ行ったきり帰ってこないし…こんなお兄ちゃん置いて、本当にお嫁に行けるのかしら?私…
「お兄ちゃん、私フランスに行って来る。私なら、ゆりちゃんと会わせて貰えるかも知れないから」
「行ってどうなる?」
「このままで良いの?」
「もう今は、貴方の事は好きではありませんて、メールで言われたよ」
「え?何でそれを早く言わないのよ。」
「彼女も、時々あの中世の過去世を思い出すらしい」
そう、ヒプノをしてから、二人ともふとした時に、断片的に過去世を思い出すようになっていたの。
ツインソウルのパニック…
「ツインレイ、ツインソウルの女の子は、2人の学びの最中、激しい感情が出てパニックになる時が有るの。そうなると、今迄の自分には考えられないような暴言を吐いたりするらしいのよ」
それは、そのカップルによって色々で、相手が自分を映し出す鏡になっていて、相手の中に自分の嫌な所を見せられたり…
「やっぱり私行く。止めても無駄な事、わかってるでしょ?」
【ボルドー】
ボルドーのワイン、お兄ちゃん好きなのよね~お土産に買って帰ろうかしら?
なんて言ってる場合じゃなかった。
ホテルに着くと、ゆりちゃんの居場所を教えて貰えたので、向かう所なのよ。
【チャペル】
ステンドグラスから射し込む柔らかい光の中、マリア像の前に膝間付いて祈る女の人が見える…
悲しそうな表情で祈る姿に私の足は止まり近づく事が出来ないわ。
でも…行かなくちゃ。
「ゆりちゃん!」
「美貴ちゃん…来てくれたのね」
彼女は、しばらくためらっていたけど、お兄ちゃんを好きではないとメールで言った経緯を話してくれたの。
「怖いの…失う事が」
「そうね…それは誰だって怖いけど」
私だって拓真君を失う事は怖いわよ。
でも、そんな事今考えても仕方無い事で、未来の心配するより、今を楽しんだ方が良いと思うんだけど…
でも、このツインソウルは、過去世の影響を強く受けていて厄介ね。
2人が一緒の時は、いつもどちらかが早く亡くなっているし、三角関係やらなにやらで、悲恋も多いし…
「今生は大丈夫よ…たぶん…たぶんね、アハ、アハハ」
汗汗、もう笑うしかないでしょ。
「お兄ちゃん健康だけが取り柄みたいな男だし、恋愛には奥手だから浮気しそうにないしね」
奥手過ぎて困るんですけど…
「過去に恋人が居た事も、過去世の人も皆んな嫌」
女の子は、彼の過去より未来に焼くって言うけど、ツインソウルとなるとまた違うみたいね。
「麗華さんとは、もう何でもないし、過去の他の人達も、もうとっくに終わってるから、大丈夫よ」
「マリアさんを庇って死んだの…私の目の前で」
私のって、過去世のね。
ローラさんは、その場面を見ていたのか…
「その後の事は思い出せないけど、時々兵士達の姿が、フッ…て浮かんだりするの…とても…怖いわ」
それにしてもこの2人、まだkissもしてないのよね。
お兄ちゃんが奥手なのは、性的行為に罪悪感が有るから…これは、昔からそうで、過去世の影響だ、ってわかったの。
ジャックは、マリアさんを庇って死んだ…その後、大男がマリアさんに暴行しようとしたの。
シスターだったマリアさんは、身も心も清らかでありたいと、自害したのよ。
その様子をジャック、お兄ちゃんの魂は、天上界で見ていたのかしらね…
それで今生のお兄ちゃんは、性的行為に罪悪感が有るみたい。
過去世の経験を、オーラが記憶しているから、潜在意識に有るのね。
【神緒家】
「お土産は、シャトー・ラ・トゥールの白よ」
「白か、赤の方が好きなのに」
「わかってたけど、私も一緒に呑みたいの」
こんな話しをしたいんじゃないの…本当にじれったい。
お互いに好きなのは確かなのに、どうしてこうすんなりと行かないのかしら、ツインソウルって。
2人とも時が止まってるみたい…中世ヨーロッパで…
今は、今しか無いのに。
「ゆりちゃんね、しばらく向こうでホテルの経営の勉強するみたいで、いつ帰れるかわからない、って」
「そうか」
「そうか、って…それだけ?寂しく無いの」
「美貴が居てくれるからね」
「あのね!いい加減に妹離れしてよね、結婚決まってるのに、心配でお嫁に行けないわよ」
「そう…だった…」
「お兄ちゃん…」
ワインを持って黙り込むお兄ちゃん…
そんな寂しそうな顔しないでよ…本当に、お兄ちゃんを置いて嫁ぐなんて出来なくなっちゃう。
ゆりちゃんは、最近お兄ちゃんのエネルギーを感じられなくなったと、寂しがっていたけど、ツインソウルって、時々相手のエネルギーを感じるぐらいなのかしら?
お兄ちゃんは、ゆりちゃんのエネルギーを感じた事は無いみたい。
ゆりちゃんは、天使や精霊が見えるし、敏感なのよね…
全てのツインソウルがエネルギーを感じるとは限らないって事かしら?
でも、前世のお兄ちゃんは、相手のエネルギーを感じていたって…
時々感じると言うより、ずっと居る感じらしいのよね…それがツインレイなのかしら?
とは言っても、今生はツインレイと一緒に転生してないんだし、過去世と切り離して考えれば良いのに。
「魂と感情が喧嘩してる感じ…かな?僕は今の僕で、ジャックではないと思うんだ。マリアさんはこの時代には居ない。他の人を愛しても良いんだ、って思うんだけど…魂が切なくなる…魂と僕は違うと言うか…僕が2人居る感じか…」
時々、マリアさんを庇って後ろから刺された時の事をスクリーンに映し出されたみたいに思い出すらしいんだけど、その時、背中の左脇の下に痛みを感じるんだって。
ジャックが刺された場所ね…
とっても不思議な話しで、普通の人は信じないかも知れないけど、私は何が有っても驚かないから、信じてあげられるわ。
私が信じなくてどうするのよ!
ツインレイ、ツインソウルには、普通では理解出来ないような不思議な事が沢山有るんだから。
そんなある日…
「美貴、レント」
「え?そんな気分なの?」
癒されたいと言うより浸りたいのね。
ショパンの、レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ。
お兄ちゃんの好きな曲だけど、最近ずっと弾いてなかったわ。
そして、この時ボルドーのシャトーでも、ピアノの音が響いていたの。
【ボルドー】
シューマンのピアノソナタ第1番…
幼稚園でも、子供たちのリクエストで色々弾いたけれど…これは、あの人の好きな曲…
「ゆりさん。ベートーヴェンでも弾いて下さいよ。その曲は、わけがわからない」
「ベートーヴェンならわかるのかね?」
「いやあ、あまり知りませんが」
「ゆりと一緒に、オペラでも観に行ったらどうだ?ワーグナーをやっているはずだが」
「お父様、いや、会長のお許しが出たので、お嬢様をお誘いします」
【カーヴ】
洸貴さんの好きなワインが沢山有るわ…モンラッシェ…シャンベルタン…
シャトー・ディケム。
これは美貴ちゃんの影響かしら?
甘い物は美貴ちゃんに付き合わされる、って言っていたわね…どんなマリアージュかしら?
日本に…帰りたい。
「こちらでしたか」
「高見沢さん」
「会長が、2人でパリに行ったらどうかと仰るのでね」
[そう言いながら近づく高見沢]
「来ないで」
こんな所で、2人っ切りは嫌。
[足早にカーヴを出ようとすると、腕を掴まれる]
「放して」
「震えているのですね、可愛い人だ」
[高見沢が身体を寄せて来る]
「やめて下さい!」
[その時…]
何?過去世なの?大きな男の人が見えた…
「嫌!!」
[振り払ってカーヴを出るゆり]
【チャペル】
また過去世が見えた…高見沢さんと重なって…あれは、中世の兵士。
ミカエル様助けて…
【神緒家】
「お兄ちゃん、タロットやってあげる」
「占いは好きじゃないよ」
「私のタロットは、天使に引かされるから、占いとはちょっと違うのよ」
「わかってるけど…」
そう言えば、タロットは大昔天使が人に伝えたい事を絵にしたと聞いた事が有る。
美貴のは良く当たるから嫌なんだ…ちょっと怖いぞ。
ゆりさんと出会う前、僕は、もう恋愛なんて、って思ってたんだ。
なのに、美貴に毎日のように色々なカードでリーディングされて…
出るカードが、ソウルメイトだとかロマンスだとか、そんなカードばかりだった…
そして…巡り会ってしまったんだ。
ゆりさんと…
ツインソウル…今生も僕は大変な学びを設定して生まれて来たんだな…
「早く座って」
「いつものカードと違うな」
「新しいカードよ。だいぶ仲良くなったから…一枚引いて」
ちょっと…嫌だな…
「ソードの8…お兄ちゃんは、自分で作った壁で身動き出来なくなってるみたいね」
「……」
「壁の向こうには、道が有るんだから、勇気を出して越えれば良いのよ」
【洸貴の会社】
「何ボーっとしてんだよ」
「……」
「お兄さん」
「お兄さんはやめろ、って言っただろ」
「深刻な顔してたからさ、親友にも話せない事か?」
「今朝美貴にタロットを引かされて…」
「美貴ちゃんのは当たるからなって、あ、美貴ちゃん。俺に会いに来てくれたのか?」
「お兄ちゃん、忘れ物」
「なんだ、違うのか」
「携帯忘れてたから…はい」
「洸貴が忘れ物なんて、珍しいな」
「そうなのよ。私サロンに行くからまたね」
「またね~」
「あ、そうだお兄ちゃん。帰りにイタリアワインの白買って来て。後で夕食のメニューメールするから」
「美貴ちゃんが自分で行った方が早いだろ?」
「重いから」
「結婚したら、拓真もこき使われるぞ」
「聞き捨てならないわね。重いから良いよ、っていつも言うのはお兄ちゃんよ」