そして同じ人に恋をする4
今日は美貴にサロンに来るようにと言われているんだ。
何か嫌な予感がするけど…ま、まあ気のせいか…
僕は、いつもの店でシュークリームを買って、サロンに向かった。
「今日のお土産は、何?」
なんて言いながら、ちょっと怖いぞ。
逃げないようにしっかり捕まえられて、セッションルームに入れられた。
「やるのか?」
「やるのよ」
美貴は、 ティシュの箱を用意している。
嫌な予感的中だ。
「ゆりちゃんが今まで見た過去世の相手が、本当にお兄ちゃんなのか確かめて、自分で納得したほうが良いのよ」
別に2人の話しを信じてなかったわけじゃないけど、こうやって自分で見てみると、本当にいつも…何千年も前から一緒に転生してたんだな…
「今日も泣いた…過去世の僕を今の僕が見ている感じなんだけど、感情移入するから泣けて来るのかな?」
「客観的に見ていたり、自分が過去世の自分になった気になったりしない?」
「する」
「イタリア時代は、浮気じゃなかったんだね」
「そんなにいつも、浮気ばっかりするか」
「だって、平安時代も、中世ヨーロッパも、江戸時代だって浮気したじゃない。お兄ちゃんのせいで私まで男性不信になりそうだわ」
「僕のせいで、って、過去世の僕だろ」
ま、まあ、江戸時代は酷いよな…
町方同心だった僕は、ゆりさんと夫婦だったんだけど、町娘との不義密通の罪で流刑になったんだ。
それでも妻は、許されて帰るのを待っていてくれたんだけど、僕が配流先で死んだので仏門に入ったんだよな。
イタリア時代の僕は、チェリストで、ゆりさんは、師匠の娘でピアニストだったんだ。
2人は夫婦で、僕達はデュオもしていたけれど、僕は他のピアニストと共演する事も多かった。
ある時、僕が共演者と浮気していると噂になったんだ。
そして妻は、本当に浮気したと思い込んでいしまった。
それから2人はずっと気持ちがすれ違ったままだった。
「ゆりちゃんに言っておかないとね」
「別に今生では何でも無いんだから、過去世の言い訳しなくたって」
「過去世のお兄ちゃんのせいで恋をするのが怖いのよ。だからちゃんと言ってあげないと」
「ブロックか」
「そう、ブロック…でも本当に何でも無いの?」
「気にはなるけど、今は妹が2人になった感じかな」
「んん、もう、本当じれったいんだから!まあ、お兄ちゃんのブロックも取っといたから、少しは変わるでしょう」
そう、ヒプノって、ただ過去世を見るだけの物じゃないんだ。
ブロックを取るのも大事な仕事って、美貴はいつも言っている。
「ゆりさんの声は好きだよ。最初に声を聞いた時、懐かしいような感じがしたな…誰か知ってる人の声に似てるのかな?って思ったりもしたんだけど、誰だかわからないし」
「きっと魂が覚えていたのね。でも、前の彼女の声はそうでもなかったでしょ?」
「うん…特には…」
「今日、前の彼女の過去世見た事は、ゆりちゃんには内緒にしといてあげるから」
「別に…」
「言っても良いの?」
「…」
「やめといたほうが良いと思うけど…お兄ちゃんは、正直過ぎるから困るわ」
そして、彼女と魂の再開をしてから、三度目のヒプノセラピーを受けさせられた。
もう、泣くから嫌だなんて言っても逃げられない。
今日は、ハイアーセルフと繋がった。
「本当によく泣くなと思ってたけど、やっぱりツインソウルだったのね。ヒプノすると泣く人は多いけど、お兄ちゃん普段は全然泣かないものね」
「当たり前だ」
僕も何故こんなに泣くのだろうと思っていた。
ヒプノをすると、他の人との過去世も見るけれど、大泣きするのはゆりさんの所ばかりだ。
「ツインソウルの涙って、どんなに我慢しても勝手に溢れてしまうのよね。オーラの中の潜在意識で覚えていて、どうして今まで会えなかったのか、って魂が泣くの」
初めて会ったのに懐かしい感じがしたのはツインソウルだからか…だとしたら、この先ヒプノしてなくても泣く事になりそうだ。
ブロックが取れて2人の距離がもっと近くなったら…
わけもわからず涙が溢れる。
それがツインソウル
やっと巡り合えた…僕の魂の声がそう言っていた。
「お兄ちゃん達が過去世でちゃんと学べていたら、それほど障害は無いかも知れないけど…まあ、ツインソウルと言っても、人それぞれだから」
ツインソウルだからと言って、必ず結ばれるとは限らない。
お互い深く相手を思いながら、離れて居るツインソウルも居る。
僕たちは、今生ではどうなって行くのか…
ハイアーセルフは、2人は、ツインソウル。
どの道を選ぶのかは自由と言っていた。
今はまだ妹のような感じだけれど…
恋愛感情の無いツインソウルは居無いらしい。
美貴と僕はツインメイト。
「お兄ちゃん、早く起きて」
「うん?何で?今日休みだろ?」
「そう、お休みよ。だからデートなの」
デート?いつの間に恋人出来たんだ?って、ええっ?!
僕は、一気に目が覚めてガバッと起き上がった。
「デートって?誰と?どんな奴だ?」
「これだから私、恋人出来ないのよね」
「???」
「お兄ちゃんと、ゆりちゃんのデートよ」
「そんな約束してないぞ」
「私がしたの」
「勝手に」
「つべこべ言わないで、早く顔洗って」
で…ここは、ローズガーデン。
【ローズガーデン】
「綺麗ね…あんまり開いてないほうが好きだわ…良い香り」
「嬉しそうね。ここに来たいって言ったのゆりちゃんだからね」
って、デートなのに美貴もついて来てるし…
まっ、僕もゆりさんも3人で行こう、って、言ったんだけどね。
そして、薔薇の見えるテラスでランチにした。
ゆりさんと美貴の手作り弁当だ。
「これ、美味い」
「さーて、これは誰が作ったのでしょう?」
美貴のヤツ…
食べ慣れた味じゃないから、わかるよ。
「ゆりさん、料理上手いんだね」
「そういう時は、良いお嫁さんになるよ、って言うのよね」
「フランスに居たのに、イタリア料理?」
「洸貴さん、パスタが好きだ、って言ってたから」
「ゆりちゃんがフランスに居たのっていつ?」
「高校卒業してから3年間」
「えっ、待って、お兄ちゃんがパリに留学してた頃じゃない」
あっ、そう言われればそうだった…
南仏に居たのなら、すれ違う事も無かったかも知れないけれど…
「パリにも何度か行ったわ」
「ツインソウルって、同じような過去があって、お互いそうそう、同じ同じ、ってなるの。性格も似てる所が有ったり、食べ物とかの好みが同じだったり…2人とものんびりしてるし、恋愛にブロックが有るのも同じよね」
「それに、手がそっくりなのよね、爪の形とか…本当似てる」
と言って2人の手を見比べている。
「守護天使も同じだしね…あ、マリア様も来てる。お兄ちゃんの右肩女神ラクシュミと一緒に居る」
「まあ、素敵」
「お兄ちゃん、マリア様好きなのよ。だから時々呼んじゃうのよね。女神同士は仲良しだから、自然と集まって来るし、とっても賑やかで華やかになるの」
「私、中世ヨーロッパで、マリア様を信仰してたのよね」
「そうそう、シスターローラだった時ね。ジャックだったお兄ちゃんは、最初はローラさんが好きだったのに、マリアさんとも仲良くなって、2人の間を行ったり来たりしてたのよね」
「でも、言えなかったんだ、好きだって。神に仕える身では、どうにもならないとわかっていたから」
「私も、好きだと言えなくて…ある時、騎士団長のジャックは、私達の修道院が敵に襲撃されたと知って、練兵場から馬で駆け付けてくれたの、そして….」
「そして、シスターマリアを庇って背中から刺されて死んだのよね。マリアさんは、その後敵に襲われて自害したわ」
「せっかく守ったのにな…」
「2人してウルウルしてる」
そんな時代を経験した魂だから、今生の僕は、争いが嫌いなのだろうか?
まあ、争いが好きな人は、あまり居ないだろうけれど、紛争のニュースなどを聞くと、胸が痛むんだ。
そして、もう少し薔薇を見てから帰ろうという事になって、花を見ながら歩いていると…
「ロぜリアさん?」
ロザリアよ、ロザリアと頭の中で声が聞こえた。
「ロザリアさんか」
「来てるわよ。薔薇の妖精の長ロザリアさん」
「まあ、本当!可愛い」
「前からお兄ちゃんについてたんだけど、全然気づいてくれなかった、って言ってる」
「ごめんごめん、だって僕には見えないから…」
僕には見えないけれど、妖精達が集まって来たらしい。
2人は嬉しそうに見ている。