そして同じ人に恋をする3
フィンランドの過去世では、トナカイの放牧をして暮らしていたんだ。
僕は、ゆりさん(過去世の)との間に男の子が生まれたばかりで、幸せ一杯だった。
ある時村のトナカイが盗まれる事件が続き、夜に交代で見張る事になった。
犯人は僕が見張りの時に現れた。
そして、僕は刺されて死んだ。
この頃幼稚園の前を通って出勤するのが何だか恥ずかしい。
ゆりさんは、時々子供たちを外で遊ばせているんだ。
一度回り道をした事が有るんだけど、何やってるんだろう?ってバカらしくなってやめた。
僕はいったい、彼女の事をどう思っているんだろう?
自分の気持ちがわからない。
そりぁ素敵な人だけど…
そう、素敵な人だから、彼氏の1人や2人居るかも知れない。
その辺は、まだ聞いて無かったな。
こんな事を考えるなんて、やっぱり僕はゆりさんの事が気になっているのかな?なんて思いながら会社に向かっていると、幼稚園の前だ。
将君が僕に気づいた。
「おじちゃんだ、おじちゃん!」
今日は、外に出ていたのか。
将君がゆりさんに知らせたてしまった。
彼女は微笑んで会釈した。
やっぱり道を変えようかな…
【神緒家】
今日は、早く帰れたので、家で美貴と一緒に夕食だ。
結構料理上手いんだよな。
話題は、過去世…自然とゆりさんの話しになる。
「え?彼氏?居ないわよ。だってゆりちゃんシスターになるつもりで修行してたんだもの 」
「なるつもり?」
「やめたんですって、ご両親に反対されて。普通に結婚してほしいみたいなのよ。でも、ゆりちゃんは恋をするのが怖いの。過去世のお兄ちゃんのせいよ」
「僕の?」
「過去世のだから、お兄ちゃんだけど、今のお兄ちゃんじゃないけどね」
「ややこしいなぁ」
過去世の僕は、浮気者だったり、ローマ時代は婚約中に町に攻め込まれて死んだり、ギリシャでも、流行り病で若くして死んでしまったらしい。
フィンランドの時は、あんな悲しい事件だったしな…
「お兄ちゃんはお兄ちゃんで「人を好きになっちゃいけない」っていうブロックが有るのよね。過去世で聖職者にばかり恋をしていたせいかしらね」
そうかも知れない。
過去世の僕は、叶うはずの無い恋ばかり選んでいたな。
相手はゆりさんばかりじゃないけれど。
「でもね、過去も未来も無いのよ。今生では幸せになって良いんだからね、お兄ちゃんもゆりちゃんも。まあ、今生は別々っていうのも有りだけど」
過去世から縁が有る魂だからって、今生で巡り合っても深い関係にならない事も有る。
神のシナリオと言うけれど、どの道を歩いても自由なんだろうと僕は思う。
自分で選んだつもりでも、結局神に歩かされているのかも知れないけれど…
【公園】
今日もいつものようにランチを食べていた。
「こんにちは」
ゆりさんだ。
「あっ、あれ?今日は子供たちは?」
「今日は、幼稚園お休みなの」
「そうなんだ…どうしてここに?」
「どうしてかしら…?何と無く足が向いたの」
そして、二人でランチを食べた。
「男の人と2人でお食事するの初めてなの」
「フランスの修道院に居たって美貴から聞いたけど…」
「今でもシスターになりたいと思ってるのよ、でも…」
「でも?」
「…」
桜の花びらが舞って、僕たちのテーブルの上に落ちて来た。
「あっ…」
ゆりさんは、嬉しそうに手を開いて舞い散る花びらを受け止めた。
「すぐに散ってしまうのよね…この季節が一番好きだわ」
そう言うと、大きな桜の木の下に行って見上げている。
「僕もそうだな」
子供の頃は夏が好きだったけれど、大人になると、暑くも寒くもないこの季節が一番良い。
舞い散る桜の花の中に居るゆりさんが一枚の絵のようでとても美しかった。
僕は、ドキドキした。
何だろう?今まで感じた事のない気持ちだ。
美貴の言葉を思い出した。
「お兄ちゃんは鈍感なのよね、本当はドキドキしたんじゃない?」
「お兄ちゃんの場合一目惚れしても凄い衝撃とかじゃないかもね。本当のんびりしてるから、後で気づいたりするのよね」
何言ってるんだか、あいつは…
僕は、しばらくゆりさんに見惚れていた。
「どうかした?」
「いや…」
「ボート…楽しそうね」
「乗る?」
「だって、会社に戻るんでしょう?」
「大丈夫。自分の会社だから、わりと自由なんだ」
ボートに乗ると、水鳥達が近づいて来た。
「気をつけて。鳥たちにぶつかったりしないでね」
鳥にボートが突っ込んだり、オールで叩いたりしないか心配しているようだ。
まっ、その前に鳥の方が逃げると思うけどね。
天然だぁ…美貴もそうだけど…だから気が合うのかぁ?
ボートを止めると、嬉しそうに鳥達を見ていた。
今日は打ち合わせで、拓真と一緒に都内の某ホテルに来ている。
帰りにスカイラウンジで一杯飲む事にしたんだ。
【カウンター】
「俺、ブルー・ラグーン」
「僕は、バーボンのロック」
「かしこまりました」
「美貴ちゃん彼氏出来たか?」
「今は忙しくて、いらないそうだ」
「お前さ、喜んでない?美貴ちゃんだって、いつかは結婚させてやらないと、いつまでも兄貴の世話させてちゃさ」
「わかってるよ」
わかってはいるけど、美貴が嫁ぐ事なんて、今は考えたくない。
花嫁の父って言うけど、兄だって同じ気持ちだよなぁ。
そんな事を話していると、向こうの方から聞き覚えの有る声が聞こえて来る。
「ここから見る夜景は綺麗でしょう?修道院に居たと聞いていたので、こういう所は来た事が無いと思ってね」
「ええ…」
「今度は、何処に行きたいですか?何処へでも連れて行きますよ。ゆりさんが望む事なら、何だってします」
えっ?!
声のする方を見ると、確かにゆりさんだ。
男と一緒に来ている。
「あの、私、今日はお断りしようと思って来たんです」
「断る?どうしてです?ゆりさんのお父様から、結婚を前提のお付き合いを許されるているんですよ」
男と食事をしたのは、初めてだと言っていたよな…結婚を前提に付き合っている男が居たなんて…
「おい、どうした?洸貴…もしかして彼女が?」
「ああ」
「おい、良いのかよ」
「そろそろ帰らないと、美貴が心配するから…」
そう言って立ち上がると、拓真が腕を引っ張った。
「お前本当に帰る気か?!ここをどこだと思ってるんだよ。あの男部屋取ってたらどうすんだ」
そうだ、ここはホテルだった。
気がつくと僕は、拳を握り締めていた。
「洸貴さん」
背中から呼ぶ声がする。
そしてゆりさんは、そっと僕のジャケットの袖を掴んだ。
「ゆりさん?知り合いですか?」
男の声だ。
振り返ると、二人ともそばに来ていた。
「洸貴さん、違うのよ。この人は父の会社の人なの」
何が違うんだ?別に言い訳しなくたって…僕に言い訳する理由なんて無いのに。
「彼はゆりさんの友人ですか?紹介して下さいよ」
「高見沢さん、ごめんなさい。今日はお帰り下さい」
「それは、あんまりだ。部屋を取って有るんですよ。シャンパンでも飲んてゆっくり話しましょう」
拓真の言う通りだ、もう我慢できない。
「僕の家に行こう。美貴が待ってる」
もうちょっと気の利いたセリフ言えないのか、僕は。
とにかくそう言って、ゆりさんの手を引っ張ってラウンジを出た。
後は、拓真がフォローしてくれたようだ。
【歩道橋】
「痛いわ」
「ごめん」
気がつくと、彼女の腕を強く握って歩いていたんだ。
僕は、そっと手を放した。
「…」
「…」
こんな時何て言えば良いんだ…
「…」
「本当に洸貴さんの家に行っても良いの?」
「うん」
そう言うと、彼女は僕のジャケットにそっとつかまった。
何故だろう?
こうして二人で歩いていると、黙っていても不思議と平気だな。
「不思議ね…洸貴さんと一緒だと安心するの」
二人で同じ事を考えていたようだった。
「ずっと前から知り合いだったような気がしてたの…やっぱり過去世のせいかしら?」
「僕もそう思ってた」
「何も聞かないのね…高見沢さんの事…」
「……」
「父の会社の部下なの。お見合いさせられて…」
シスターになるのを諦めて、結婚させようと、彼女のお父さんが部下とお見合いさせたらしい。
お母さんは、ちゃんと恋をして結婚して欲しいと言っているそうだ。
シスターになるつもりでいたので、まだ恋をした事が無いと…
トキメキを知らなかったと彼女は言った。
【神緒家】
家に帰ると、美貴は少し驚いていたけれど、察してくれたようで、余計な事は聞かずに食事を用意してくれた。
そうだ、何も食べていなかったんだ…
でも、こんな時って味なんかわからないよ。
美貴には悪いけれど…
それからしばらく三人で話していて、遅くなったので、彼女を泊める事にした。
僕は美貴の部屋を追い出されて、その後2人で遅くまで話していたようだった。
彼女は一人っ子で、ご両親は、婿を取ってボルドーのホテルを継がせようとしているらしい。
【美貴の部屋】
「ソウルメイトなのかしら?洸貴さんと私」
「ソウルメイトにしては、過去世を見ても縁が深すぎるのよね。もっと縁の深い魂じゃないかな」
「ソウルメイトより縁の深い魂なんて有るの?私、そういうの良く知らなくて…」
「ソウルメイトやツインメイトって、以外とたくさん居るのよ。2人はツインソウルじゃないかと思うんだけどな」
「ツインソウル?」
「ツインソウルは、1人に12人存在して、一割が同性だと言われているのね。巡り合う事がとても難しいんだけど、会えば強烈に惹かれ合う魂なのよ」
「強烈に…惹かれ合う」
「でも、これが大変な学びで、すんなり結ばれないのよね。どちらかが結婚してたり、色々と障害が多いのよ」
「強烈に…かどうかわからないけれど、確かに初めて会った時から惹かれていたのは本当よ。でも、その気持ちが何なのかわからなかったの」
「2人共恋愛にブロックが有るから、時間がかかりそうだわ」
この時美貴が、僕の携帯番号とメアドを教えていたなんて、僕は全く知らなかった。