そして同じ人人に恋をする2
数日後駅から会社に向かう道を歩いていると、急に子供が飛び出して来た。
向こうから車が来る、危ない!
僕は、とっさに子供を抱き止めた。
急ブレーキの音、怒鳴る運転手。
「馬鹿野郎!死にたいのか?!」
子供がわんわん泣き出した。
「すみません」
僕がそう言うと、車は行ってしまった。
「将ちやん、大丈夫?!」
「美咲先生、うえーん」
ここは幼稚園だ。
将ちゃんと言う男の子は、先生の顔を見てまた激しく泣き出した。
「お外に出たらいけないのよ。いつも言ってるでしょ。怪我は無い?」
「このおじちゃんが助けてくれたの」
「ありがとうございました。あらっ?貴方は、この前公園 で」
「えっ?」
本当にこんな偶然て有るのか?
「あの時のおじちゃん」
「あっ、手を見せて」
「ああ、大丈夫。あのなぁ、おじちゃんじゃなくて、お兄ちゃんだろ」
子供を抱き止めた時、擦りむいたらしい。
たいしたこと無いと言うのに、僕は幼稚園の中に連れて行かれ、傷薬をつけて貰った。
「ネコが居たの。だからついて行ったらお外に出ちゃったの」
「もうお外に出たらダメよ」
「はーい」
「ネコも将君も無事で良かったな」
将君は、教室に戻った。
彼女の名前は美咲ゆりさん。
美貴が言った通り保育士さんのようだ。
ゆりさんはが傷薬を 塗って絆創膏を貼ってくれた。
「はい、終わりました。将君を助けて頂いたのは有難いんですけど、あんまり無茶しないでくださいね」
「あ…はい…」
確かに僕も危なかったな…ミカエルさんが守ってくれているらしいけれど。
「あの…今日も僕のミカエルさん見えてますか?」
「ええ、見えてますよ。左の肩の上に…右の肩には、綺麗なピンクの女神様がいらっしゃいます」
彼女は、嬉しそうにそう言った。
「ラクシュミさんだね、今日はついて来たんだな」
その時、頭の中で女神ラクシュミの声が聞こえた…気がした。
〈わたくしは、いつも貴方のそばに居ますよ〉
「女神ラクシュミ。あの公園でお会いした日にもいらっしゃいました」
そうなのか…やっぱりラクシュミさんも見えていたんだ。
赤いミカエルさんとか、ピンクの綺麗な女神さんとか、色で言うんだな。
彼らは、赤やピンクの物を身につけているらしい。
そして彼女は、僕の腰のあたりを見た。
美貴が言う通り真実の剣を帯びているらしい。
その剣は、光輝いていると言っていた。
家に帰って美貴に話すと、大天使ミカエルのカードから、僕の腰の剣がどんな物なのか見せてくれた。
「こんな感じの剣」
「うん。実は、ゆりさんにも見せて貰ったんだ。こんな感じの剣だった」
「私も会ってみたいな。デートについて行こうかしら」
「えっ?デートの約束なんてしてないよ。今日は、偶然会っただけなんだ」
「偶然じゃないと思うわ。全ては神のシナリオ通りよ」
美貴は、満面の笑みでそう言った。
僕も、偶然なんて一つも無いのかも、って思ったりするけど…
それから美貴はPCでマップを見始めた。
「有ったわ、ここね…ミッション系の幼稚園よ。やっぱり彼女シスターなのかな?本当にご縁の有る魂の再会かしらね、フフフ」
「何だか美貴の言った通りになってきたけど、でもだからって…」
「今お兄ちゃんの所に、大天使チャミエルが来てる」
「チャ、チャミエルさん?」
美貴が大天使チャミエルのカードを見せてくれた。
Beloved One愛する者と書いて有る。
「あのなあ、まだそんなんじゃ」
「ゆりさんにもヒプノすればわかるんだけどなぁ。あっ、今生では三角関係にならないと良いね。今度はちゃんと学ばないと、過去世と同じ事してたら、来世でまた同じ学びを繰り返すわよ」
勝手な事言ってるけど、そう言われると、過去世の女性たちと瞳が似てるような気がしてくる。
数日後美貴が会社に電話をして来た。
今日は、早く帰って欲しいと言っていた。
びっくりする事が有るから、帰ったら話すと…いったい何だろ?
まあ、普通の人ならびっくりする事でも驚かなくなっているけれど…
妹がああだからね。
僕は、仕事が終わると真っ直ぐ家に帰った。
美貴の好きなタルトは、お店の人が届けてくれたから、今日は並ばなくて済んだんだ。
「お帰りなさい。早く早くぅ」
「コラコラ、引っ張るな…はい、これお土産」
「ありがとう。早くこっちに来て」
びっくりする事って言ってたな…
僕は美貴に引っ張られて、リビングに連れて行かれた。
「お帰りなさい、おじゃましてます」
「えっ?!」
「無理言って来てもらったの」
って、どうしてゆりさんがここに?何で美貴とゆりさんが?
「今日お友達と一緒に、私のサロンに来てくれたのよ」
「私は、付き添いで行ったんですけど、お友達に勧められて、ヒプノセラピーを受けたんです」
「名前を聞いて驚いたわ。私がやると、先入観で誘導するといけないから、他の人にしてもらって、立ち会ったのよ」
もうこうなると、ただの偶然じゃない。
二人は、今日のセラピーの内容を話しはじめた。
「やっぱり中世ヨーロッパのシスターローラは、ゆりさんだったわ」
「平安時代は巫でした。幼なじみだったんですね、私たち」
「本当に…一緒に転生しているのか…?」
「二人共皇子に生まれて、幼い頃は、いつも一緒に遊んでいたのに、貴方は臣下に下り、私は斎宮になって、会えなくなってしまって…」
「あの夜、僕が青海波を舞った夜、祭りの興奮覚めやらぬ僕は、斎宮の所に行って抱き締めた」
「神に使える身の私は、貴方を愛していながら、その気持ちに応える事は出来なかったの」
「愛していながら?貴女は、僕の腕をすり抜けて行ってしまった」
「貴方は、色々な女性とうわさが有ったわ」
「ま、まあ、あの時代の宮中だからね」
「中世ヨーロッパでも、マリアさんと」
「過去世で学んだのかしらね、今生のお兄ちゃんは、ちょっと違うから大丈夫よ」
「大丈夫って…」
「あのね美貴ちゃん。僕たちはまだね」
「今生は、二人共奥手みたいね」
聞いてないし…
ゆりさんと美貴は、同じ年だからか、すっかり仲良くなってしまったようだ。
あれからゆりさんは、美貴の所へ遊びに来るようになった。
そう、僕じゃなくて、美貴の所なんだ。
「縁が有るのは、僕じゃなくて、美貴なんじゃないか?」
「平安時代は私も居たから、会った事は有るかもね。でも、縁が深いのはお兄ちゃんだわ。ローマやギリシャでも一緒だったし」
「ローマやギリシャ?そんな過去世見てないぞ」
「この前のヒプノでは、中世ヨーロッパと平安時代で、わんわん泣くから、他は見れなかったものね。もう一度やる?」
「も、もう、とうぶん良いよ」
「フフフ、洸貴さんも泣くのね」
「そうよ。だから、ティッシュをたくさん用意しておくの」
「余計な事を…」
「私も泣きました。今の自分じゃないのに…不思議ね…」
「ローマって、どんなだった?」
「まさしくRPGの世界よね」
「武器や鎧を売っている町で、私達は道具屋をしていたの。洸貴さんが道具を作ったり、薬草を採って来てくれて、私が薬を調合していたのよ」
「ふーん…って、一緒にやってたの?」
「婚約してたんだって、お兄ちゃんたち」
「そ、そうなんだ…」
「何か…二人して赤くなってる?」
って、二人の顔を覗き込むなよ、過去世の話しなんだからな。
今生での二人の関係は…関係は?ま、まあ、妹の友達かぁ?
先に会ったのは僕だけどね。
「ギリシャって、ああいう島今も有るわよね?」
「外敵から守る為に崖の上に町を作ったのかしら?ロバでしか通れない道を上がって行った所に町が有るの。そこで洸貴さんは絵を書いていたわ」
「この時二人は夫婦だったのよね」
「…ええ」
「で、今生は?」
「えっ?」
「コラコラ、からかうな」
「他の人は嫌だけど、ゆりさんならお兄ちゃんのお嫁さんになっても良いかなぁ、って思ってるのよ」
他の人は嫌か…小さい頃言ってたっけ、お兄ちゃんを取られたくないって。
「フィンランドの過去世も聞く?」
「あれはやめて。悲しいから、今は思い出したくないの」
「まあ、そうよね…」
フィンランドの悲しい過去世…それは、あまりに悲しくて、ゆりさんが耐えられなくて、途中でセラピーをやめてしまったと、後て美貴から聞かされた。