そして同じ人に恋をする16
[そして…]
[ロンシャン競馬場ですれ違ってから、3年が過ぎていた]
【プロヴァンスの屋敷】
日本へ行くのは嫌…
「お父様が倒れたのよ、一旦日本に帰りましょう」
「お母様一人で帰って」
「そんな事言わないで、こんな時ぐらい顔を見せてあげなさい」
父がまた心筋梗塞で倒れたの。
でも、私は日本に帰るのが怖かった。
もし、彼と会ってしまったら、何て言えば良いの?
会いたいけど…会えない…
声が出るようになってから、時々ボルドーに行っているの。
どうしても出席しなければいけないパーティーの時とか、会議の時やなにかは、行かなくてはいけなくて…
夫婦同伴でなければいけない時も有るの。
夫と会うのは嫌、触れられるのはもっと嫌。
必ず母と一緒に行って、出来るだけ早く帰るようにしているけれど…
ボルドーで過ごす時間は、地獄だわ。
「ゆり、早く支度をしなさい」
「どうしても、行かないといいけない?」
「お父様も、もう、そう若くはないのよ。そんな事言ってたら、後悔するわよ」
そうだった…
父は、もう60を過ぎていたんだわ。
でも…
「昭信さんも同行するなら、行きません」
「昭信さんは、ボルドーを離れられないようよ」
私は、母と一緒に日本へ行く事にしたわ。
あれから一度も帰っていなかった…
9年…もうそんなに長い間日本を離れていたのね…
9年も…あの人と会っていないの…
【洸貴の会社】
拓真の携帯が鳴った…
「はい…えー?俺は無理だよ。今日は遅くなる」
美貴からのようだ。
「迎えに行けないよ」
「美優のお迎えか?僕が行っても良いよ」
「ちょと、待った。洸貴が行ってくれるって。俺は遅くなるからな」
そして、僕は、いつもより10分早く会社を出て駅に向かった。
あの幼稚園の前を通って駅に向かう。
もう、ここにゆりさんは居ない。
知ってる子供も居なくなった。
暫くの間ここを通るが嫌だったけれど、今は平気になったな。
平気…なのかな?
まっ、今はそんな事は言ってられない。
この道が一番近いんだ。
僕は、駅から電車に乗り、美優の待つ幼稚園へと急いだ。
[その頃あの幼稚園の前を、ゆりを乗せた車が通りかかる]
変わってないわね…良くここまで送ってもらっていたわ。
やっぱり…涙が…溢れそうになる…
この街は、彼との思い出が多過ぎるわ…
父の病院へ行ってみると、幸い大した事がなくて、思ったより元気にしていたの。
[そして3日後…]
父は心配無いようなので、母と私は、今日プロヴァンスに帰る事にしたのよ。
【洸貴の会社の近く】
今日は、美貴達の買い物に付き合わされているんだ。
美優の服を買うらしい。
6才になった美優は、オシャレにうるさくなってきた。
女の子の買い物は、時間がかかるんだよな。
僕はどうせ荷物持ちだし、外で待つ事にした。
ここは、大人の女性の服と子供服が有る。
こういう店は、どうも苦手だな。
【通りの向こう】
[少し離れた所から、黒塗りの車が来る]
【車の中】
あれは…あそこで車に寄りかかっているのは…
洸貴さんだわ。
横顔でも間違うはずないもの。
「止めて」
洸貴さんの背中…こっちを向いたらどうしよう。
私に気づいたら…
ドキドキする…
ツインソウルのシンクロ…
どうしてもこうやって会ってしまうものなのね…
あっ、彼がこっちを向いた…
えっ?赤ちゃん?
[洸貴は、1才になるかならないかの赤ちゃんを抱いていた]
涙が…溢れてくる…
結婚…したのね。
[通りの向こう、車のわきで赤ん坊を抱いている洸貴が見える]
「出してください」
「宜しいのですか?」
「お願い…早く」
[車が動き出す]
【通りの向こう】
[洸貴は、何と無く動く車に目をやる]
「ああ、お兄ちゃんお待たせー」
「美優、気に入ったの有ったか?」
「うん。ママ、おじちゃまのお洋服は?」
「ここは、男の人のは無いのよ」
[ゆりを乗せた車は、空港へと向かっている]
【車の中】
洸貴さんが結婚してた…
お相手の方は…どんな女性なの?
綺麗な人?
それとも、美貴ちゃんみたいな可愛らしい人?
もう、私の事は、忘れてしまったの?
幸せですか?
その人と…
その人は…
ダメ…涙が…溢れて…止まらない…
「ゆり」
「お母様…」
「あの人が、洸貴さんね」
私は、頷くのが精一杯だったの。
【洸貴の車】
「お兄ちゃん、メガネ忘れないで、危ないから」
「ハイハイ」
僕は、普段はメガネをかけないけれど、運転する時だけはかけるので、車の中に置いて有るんだ。
「オギャー、オギャー」
「よちよち、良い子にしてるんだぞ」
「おじちゃまモーツァルトかけて」
「了解」
モーツァルトのシンフォニー40番をかけた。
ワルターさんの指揮だ。
モーツァルトをかけたら、泣き止んだ。
寝ちゃったみたいだね。
【美貴達のマンション】
拓真が帰っていた。
「ああ、ちょっと休ませてー」
「ママ疲れちゃったの?」
「黒豚の良いのが有ったから、俺、とんかつ作るよ」
「お願ーい」
拓真も変わったもんだ。
買い物から料理、洗濯物の片付けまでやるようになった。
「あー、その前にシャワー浴びて来て」
「えー何で?」
「汗臭ーい。側に来ないで」
あんな事言われてる…
変わったのは美貴も同じだな。
うちに居た頃は、僕が少し手伝うって言っても「お兄ちゃんは邪魔になるだけだら」って、家事は全てやってくれていた。
子供が出来ると、変わるものだな。




