そして同じ人に恋をする12
【美咲家】
「ゆりを外に出すんじゃないぞ」
「貴方、そんな事仰っても、いつ迄も家に閉じ込めておくわけにもいきませんでしょう」
「外出する時は、誰か付けてやれば良い」
【ゆりの部屋】
洸貴さんどうしてるかしら…?
今は、仕事中ね…メールは出来ないわ。
幼稚園にも行かせてもらえないんだもの、どうやって会えば良いの?
「ゆり、ちょっと良いかしら?」
「お母様、私、いつになったら自由になるの?」
「お父様が会社に行くようになったら、お母様がちゃんとしてあげるから」
「……」
「そんなに暗い顔をしないで…窓の外を見てご覧なさい。薔薇の蕾が膨らんで来たわね…大丈夫、あの花が開く頃にはきっと」
優しく肩に手をかけて、そう言うと母は部屋を出て行った。
あの花が開くまで…?
桜の季節からずっと会ってないのよ。
早く会いたい。
数日後、あの薔薇の花が開いたわ。
母の言った通り、父が会社に行き始めると、監視の目も緩んで来たの。
また幼稚園に行けるようになったけれど、病み上がりの父が早く帰ってくるので、私も真っ直ぐ家に帰らないといけなくて…
【公園】
「あ、おじちゃん来たよ。美咲先生、早く早くぅ」
将君が私の手を引っ張って、彼の所へ連れて行ってくれるの。
この時間しか会えないんだから、って、皆んな理解してくれていて…
「もう行かないと、子供達待ってるだろ?」
「明日は、お散歩の時間無いから、明後日ね」
そして、6月吉日…
【船上】
「バージンロード歩くの嫌だな」
「パパの代わりなんだから、仕方ないでしょ、泣いたりしないでよ」
「誰が泣くか」
「もっとこっち来て、良く見てよ」
「良いよ」
「ほら、洸ちゃん。ちゃんと見てあげなさいよ」
「ね、叔母ちゃま、酷いでしょ?あの、長い間お世話になりました、っていうのやられるの嫌だ、って、昨日から逃げ回ってるのよ」
叔母に引っ張られて、美貴のそばに連れて行かれた。
「ああ…綺麗だよ、とっても」
「ありがとう…もう、なによ。泣いたらメークが落ちちゃう」
そして…僕は美貴をエスコートしてバージンロードを歩いた。
【船のデッキ】
ブーケトスだ…女の子達が一斉に手を伸ばす。
「次は、お兄ちゃん達の番よ」
え?僕の所に飛んで来た。
受け取ってしまった…どうしよう…
「あ、男の人が取るのルール違反よ。ゆりちゃんに投げたのに、お兄ちゃんたら」
【帰りの車】
「素敵な結婚式だったわね」
「うん」
「私、プロヴァンスの教会で、式を挙げたいの」
「……」
「あ…」
プロヴァンス…オレンジ色の屋根が見えた…ここは、丘の上…ツイン…レイ…?
ここで彼女と暮らしていたのか…
僕はまた過去世を思い出していた。
「寂しくなるわね」
「え?うん…近くに住むんだ。僕が心配だから、って美貴が聞かなくて…拓真も、会社に近くなるから、って言ってくれたからね」
「良かったわね」
彼女のお父さんが倒れてから、中々会えなくて、美貴はまた結婚式を延期する、なんて言い出すし、大変だった。
お父さんの体調がもどり、普通に出社するようになって、また、以前のように会えるようになって来たんだ。
そして美貴は、予定通り式を挙げた。
本当に、嫁いでしまったんだな…
【神緒家】
今日は仕事が終わって真っ直ぐ帰った。
玄関の鍵を開けて家の中に入る。
「ただいま、お腹すいた…そう…だった」
美貴は拓真と新婚旅行で、ヴェネツィアに行っていたんだった…
もう、ゴンドラに乗ったかな…?
日が沈む時、ゴンドラに乗ってkissをした2人は、永遠に結ばれる…と言う伝説の橋…
その橋の下を通りかかる時、ゴンドリエーレが「今だ」と言ってくれるんだ。
そんな話しをしたら、美貴のヤツ、新婚旅行は絶対ヴェネツィアね、って…
冷蔵庫を開けると、色々な食材が入っている。
買っておいてくれたんだな…
ビールが無い…
飲み物は重いから僕が買うのがうちのルール…って、僕が決めたんだった。
ハイネケンが呑みたいな…買いに行くか。
【近くのスーパー】
あれ?…あれは…
買い物を終えて両手に袋を持っている。
「持つよ」
「びっくりした」
「何でここで買い物?」
ゆりさんの家は、この駅から3つ目の僕の会社が有る駅だ。
「貴方が一人だから、お夕食作ろうと思って」
冷蔵庫に食材が一杯有る事は、黙っておこう。
【神緒家のキッチン】
「美味しそ」
「すぐ出来るから、ビール呑むなら、サラダ」
「おっ」
さっき買って来たハイネケンを呑みながらサラダを食べていると、料理を運んでくれた。
オムライスに、唐揚げに、マカロニのチーズクリームサラダ、キノコのスープ。
「オムライスが好きって、前に美貴ちゃんから聞いてたから」
「うん。美味しい」
美味しい料理が有ると、ビールが美味しい。
【リビング】
ブラームスの第1シンフォニーをかけた。
ソファで聞いていると、後片付けを終えて来た彼女が隣に座った。
「ブラームスね」
「彼がクララ・シューマンに恋したのは有名な話しだけど、クララが彼の気持ちに応えたかどうかは、確かな物が残って無いんだ」
「そうなのね」
「深い信頼関係は、クララが亡くなるまで続いたけれど、アガーテと言う恋人が居たりして、一途にクララを思い続けた訳じゃなかったんだね」
「……」
「僕は、一途が良いな」
「本当かしら?」
「信じてないな」
「信じたい…」
よしよし、と彼女の頭を僕の肩に乗せた。
今はこうして居るだけで良い。
一緒に居られれば、それだけで良いんだ。
【洸貴の会社】
その日僕は拓真と一緒に会社を出た。
今日は、僕の家で3人で食事らしい。
らしい、と言うのは、拓真に美貴からメールで「2人でお兄ちゃんの家に帰って来て」だそうだ。
【神緒家】
2人が結婚してから、どちらかの家で食事をする事が多くなったけど、新婚の邪魔をするのもいい加減にしないと…
なんて思いながも、3人で楽しく食事をした。
【玄関】
「料理…作ってみるかな」
「え?出来る?」
「やってみるよ」
「じゃ、レシピ作っておくね」
「じゃあな、洸貴」
「おう」
「明日サロンに来て」
「何で?」
「つべこべ言わなーい」
2人が帰ると、途端に寂しくなる…
僕にばかり構ってないで、早く子供作れよ。
僕は子供好きだけど、妹の子供は特別可愛いだろうな。




