そして同じ人に恋をする10
【ワイン専門店】
イタリアワインの白…そうだな…今日のメニューだと…
僕は、美貴から送られたメニューを片手にワインを探した。
コン・ヴェント、これか。
僕がそのワインに手を伸ばすと、同時にワインを取ろうとした女性の白い手と触れた。
一瞬時が止まったようになった。
何だろうこの感覚は…?
「ごめんなさい」
それは懐かしい声だった。
「え?洸貴さん?私…まさか、こんな風に会うなんて…」
「帰っていたのか」
シンクロ…
そう遠く無い所に住んでいるのだから、偶然と言えばそれまでだけど、ツインソウルには、こういうシンクロが良くあると言う。
美貴にワインを頼まれなければ…今日仕事が早く終わらなければ…このワイン専門店を選ばなければ、2人はすれ違っていたんだ。
偶然なんて一つも無い、全ては必然なのだと美貴は言う。
「ごめんなさい、私」
「謝ってばかりだな」
「だって、メールで酷い事言って、それっきりだったから」
「気にしてないよ」
「少しは、気にしてほしいのに」
「そりゃ、少しはへこんださ」
「少しだけなのね」
「いや、物凄くへこんだ」
「本当かしら?貴方の心の中には、私以外の人が」
そう言いかけた彼女の言葉を遮るように、僕の口をついて出た。
「離れて居る間、君を思わない日は一日も無かった」
「本当?」
「うん」
「初めてね、そんな風に言ってくれたの」
「そう…かな?」
もう、後は2人とも黙っていた。
黙っていても一緒に居られれば、だだそれだけで良かった
ゆりさんが日本に戻る事は、美貴にはメールで知らせたらしい。
いつもならうるさく言うはずなんだけど、あいつ…何も言ってなかった。
まるでこんなシンクロが有ると、知っていたみたいに…
「だからいつも言ってるでしょ。会う必要の有る相手とは、どうやっても会うようになってるのよ」
その時必要な相手と繋がり、必要の無い人とは自然と離れて行く物なのだと美貴は言う。
全て必要な事が起こっているたけなのだと…
天のシナリオ…
僕は、自由に選ぶ道が有っても良いと思うんだけどね…
ゲームみたいに、いくつか選択肢が有って選ぶんだけど、どの道を選んでも少し景色が違うだけで、結局一本の道に繋がっているのかも知れない。
【神緒家】
「美貴」
「ボージョレ・ヌーボー解禁ね」
「話しが有るんだ」
「買って来ちゃった。重かったんだからね」
「聞けよ」
う~ん、ワイン開けるのって、苦手だわ…
お兄ちゃんが代わって開けてくれた。
「呑も呑も」
お兄ちゃんがワインを注いでくれてる「ワインは、男が振る舞う物だよ」って、いつも言うの。
「結婚式延期になったって?どうしたんだ?」
ほら来た…その話しだと思った。
「12月の予定だったろ?今日拓真に聞いてびっくりしたよ。何で言ってくれなかったんだ?」
「マリッジ・ブルーってヤツ?もう少し時間が欲しかったのよ。彼とも相談して来年の6月にしたわ。ジューン・ブライド…やっぱり女の子は、そういうのに憧れるのよね~」
「マリッジ・ブルーだって?そんな風には見えないぞ…拓真とも上手く行ってると思ってた」
「女神ジュノーのお導きよ。6月が良いの」
「だって、式場も決めて、ドレス選んで、あんなに嬉しそうにしてたのに」
「そんなに早くお嫁に行って貰いたい?」
「そうじゃない、そうじゃないけど」
「今のお兄ちゃん置いてお嫁になんか行けないじゃない!」
あ…言っちゃった…
「僕の…為か…?」
「もう少し一緒に居たいのも本当、お兄ちゃんとゆりちゃんの事が心配なのも本当だけど…マリッジ・ブルーも本当」
男の人って、みんなお兄ちゃんみたいに誠実だ、って思ってたの…拓真君は良い人よ、お兄ちゃんの親友だし…
でも、世の中の男がみんなお兄ちゃんみたいに誠実だ、なんて思ってたら痛い目に遭うわね。
「美貴には幸せになってもらいたいんだ。拓真にも」
【美咲家】
11月も半ばになると、風邪が流行り始めているわ。
私は、少し風邪気味の母が心配で、お部屋にローズヒップのお茶を運んだの。
「ゆりには、ちゃんと恋をして結婚して欲しい、って前に話したわね」
「ええ」
「お母様ね、あなたのお父様と結婚する前に、好きな人が居たの。でも…」
「でも?」
「お父様、あなたのお爺様の会社の資金繰りが上手く行かなくてね、その時融資してくれたのが、あなたのお父様の会社だったのよ。」
「お母様の恋のお話し…初めて聞くわね」
「お母様にだって、若い頃は有ったわよ」
「お父様と結婚してからは?」
「勿論、会う事も、連絡を取り合う事も許されなかったわね」
「その方、今はどうなさって居るのかしら?」
「誰とも結婚せずに…亡くなったと聞いたわ」
「聞いたって、そんな…」
「女はね、母親になると子供が一番大切になるのよ」
「……」
「ゆり。洸貴さんと結婚する気は無いの?」
「え?…私は…でも、彼が…」
「お父様が反対しているから、彼も躊躇しているのね」
「お父様にお話ししても、聞き入れて貰えないんだもの。親が居ない男はダメだとか、後ろ盾が無いからとか…」
「今ホテルの経営が大変みたいだけれど、ゆりにはお母様と同じ思いをして欲しくないのよ」
幼い頃からずっとシスターになるつもりでいたから、恋も結婚も考えていなかったわ…
あの人と会うまでは…
でも今は、恋する気持ちを知ってしまったの…もう、戻れない。
他の人と結婚するなんて嫌…彼が他の女の子となんて嫌!
12月に入ると、町のあちこちで飾り付けされて、華やいでいた。
いつもの並木道も、イルミネーションで夜は幻想的だ。
しかし、この店は、この時間になると殆ど売り切れてるな。
今日は、フルーツタルト…予約しておいて良かった。
【神緒家】
「はい、お土産」
「ありがとう。ねえ、お兄ちゃん達Xmasはどうするの?」
「どう、って…?」
「せっかくゆりちゃん帰って来たのに、Xmasの予定も考えて無いの?」
「いや、いつも通り美貴がケーキ作るの手伝うものだとばかり思ってた」
「私だって、今年は、拓真君と一緒に過ごすわよ」
「え?!」
「なんて顔してるのよ。まさか、ダメなんて言わないわよね?」
「……」
そう…だな…2人は、結婚するんだった。
結婚前の男女がXmasを一緒に過ごすなんて、この国では当たり前な事なんだ。
「本当はね、4人で一緒に、って思ったんだけど、それじゃあお兄ちゃん達、いつまでたっても進まないんだもの」
そういう事か…離れて居てわかった…今の僕が好きなのは、ゆりさんなのだと…でも、時々魂の記憶が邪魔をする…
「いつもお兄ちゃんと一緒だったから、私も少し寂しいけど…」
そうだな…留学してた時以外、いつも一緒だった。
「ゆりちゃんミサに行きたいって」
「え?」
メールしてる…やれやれ…
「今からじゃどこも予約取れないし…そうだ!別荘を使えば良いのよ。近くに教会有るし…お兄ちゃんは、シャンパーニュとプレゼントだけ用意すれば良いわ。後は私が手配するから」
「コラコラ、勝手に決めるな」
「ゆりちゃんOKだって」
「聞いてないし…」
【洸貴の会社】
「お前、ちゃんと用意して行けよ」
「ああ、プレゼントとシャンパーニュって、美貴に言われてる」
「そうじゃなくて、つまり、あれだ。出来婚なんて事になったら、向こうの親父さんに殺されそうだろ?」
「そういう事か…ああお前、美貴と?!…やめた!考えたくもない!」
ったく!本来Xmasは家族で祝う物だ。
「キリストの生誕を祝う日に、日本中のカップルが、オシャレなレストランを予約して、その後はホテルの部屋に向かうらしい」
「いやいや、日本中って」
「女の子が、この日の為に精一杯オシャレして来ても、男達には見えてないんだよな。どうやってメークラヴしようか?で頭が一杯なんだろう」
「洸貴。何か堅い考えで頭の中グルグルしてる?」
「……」
「ま、確かに着てる服は見えてないかも?どうやって脱がそうか…しか考えてないかな…いや、お、俺は違うぞ」
「うん?!」
「親友を信じろ」
【ワイン専門店】
シャンパーニュは買った…ヴーヴ・クリコにしたんだ。
後はプレゼントか…
女の子って、どんな物を喜んでくれるんだろう?
美貴にメールした…プレゼント買うの付き合ってくれ。
一人で行きなさいよ。これからは一人でやるようになるのよ…だって。
うーん…困ったぞ…




