009
ーーそれから先は地獄だった。
あるのはーー薄氷アリスと、やる気のない勇者こと、後藤大輔との能力者からの能力削除、いわゆる能力者狩りをさせられる日常だけだった。
物を燃やしてしまう能力者や触れたものを凍らす能力者、一番酷かったのは薄氷アリスだが、普通に考えればどれも強敵なのだろう。
発見はされたが捕獲が困難だったのか、はたまた今まで認識されていなかったかどうかは謎だが、一筋縄ではいかない相手ばかりだった。
俺が異能を無効化する能力がなければ何度死んでいたかと考えるだけでも、憂鬱になってしまう。
まぁ、そんな力が無ければ戦場に駆り出される新兵の苦労を味わなくてもよかったのだけれど、現実を悔やんでも仕方がない。
今解決しなければならない問題が一つーーーー。
「さぁ、山刀伐さん。今日から一緒に帰りますよ。
それとも、日本語を理解できないアホなのですか?」
「あの……。一人で帰るというご提案をする権利だけでも頂けませんか?」
薄氷アリスと帰るという罰ゲームを毎日受けているのである。
この中途半端な時期に現れた謎の転校生は容姿端麗、頭脳明晰、おまけに運動神経が抜群ときた。
端からみたら、それこそ天使なのだろう。
俺の聖遺物ーー人生の愛読書になったであろうエロ本の金髪碧眼美少女にソックリな転校生である。
男子であれば誰もが憧れるに違いないだろう。
しかしだ。
特定の人物を常に殺そうとしたり、異能力者であれば容赦なく指の骨を折ったりしたが一番凄かったのはーーーー。
「トラックなら大丈夫ですね」
彼女は近場にあったトラックを運転し、超能力者の横にいた大輔さんを跳ねたのちに、
「あなたもこうなりたいですか? 今なら無料ですよ、よかったですね」
そう言ったときは恐怖しか感じなかった。
ーー無論、大輔さんを跳ねた理由は彼女しか知らない。
以上の点を以って、異能力者である俺が一緒に居たくはないと感じることを察してほしい。
しかしアリス曰くーー俺はゼクスとやらの能力が唯一効かず、おまけに異能の無効化は大変珍しいらしく、常に敵に狙われるリスクがあるらしい。
なので、これから毎日一緒に行動することになります。
これは決定事項ですので、否定も肯定もしなくてもいいと言われたときは余命を告げられた患者の気分だった。胃が痛い。
そして、俺の細やかで儚い砂漠の花のような願いもーーーー。
「権利は一度だけ認めてあげます。
ですが、それが受理されると思ったのですか?」
いいから立て。と無言の圧力を掛けられた俺は帰りの支度を渋々始めることとなる。