004
硬く、それも冷たいベッドの上で俺は目覚めた。
ぼやけた意識の中、白い潔白の空間に死者を感じさせる何かを感じた。
横を向き、体を起こして、まず眼に映り込んだのはーーマシュマロのようにたわわに実り、対照的な形を成している天使の果実であった。
ーーここは、天国だ。
周りの光景は死者の白であっても、目の前の果実だけは彩色に満ちている。
そして、目にすればする程に七色の喜びを与えてくれた。
「何、見てるんですか? 死にたいんですね」
肯定、否定をする暇もなく、俺の額には冷徹な殺気を放つ拳銃が額に刷り込まれるように押し当てられている。
背筋には悪寒が走り、声を発する器官は強張ってしまったためか、一言も発することができないでいた。
同時に、理想郷から追放された孤独感を味った。
「おいおい。それぐらいにしてやれよ、アリス。そいつ自体は異能者でもないんだからさ」
「大輔さんには言われたくありません。次、話したら撃ちますよ」
「まぁまぁ、落ち着けよ。そいつの能力でゼクスの発展ができるかもしれねーんだぞ」
あのときの金髪碧眼女子高生ーーアリスと呼ばれていた彼女は忠告に従い拳銃を額から離したが、何のためらいもなく引き金を引いた。
銃口の向こう側に居たやる気のない勇者ーー大輔さんと呼ばれていた男は、その場に力なく倒れた。
「撃つって言いましたよね?
同じことを二度も言わせないでください」
投げ捨てた言葉に感情はなく、人間に似せた機械音の方が余程喜怒哀楽に満ちていた。
「なっ、なんで……そんな簡単に人をうしゃるんだよ!!」
うしゃる、なんてマヌケな言い間違いをして、シリアスな空気を台無しにしたのだがたーーーー。
「そうだぞ。なんでお前は簡単に人をうしゃるんだ?」
「私は人を簡単には撃ちませんよ。あなたが人間じゃないからです」
「おいおい、お前もメスゴリーーーー」
またも、銃声音が狭い一室を支配し、目の前の人物はオブジェクトとなっていた。
無論、俺のうしゃるも華麗にスルーされた。
もう突っ込むのも徒労だと感じ、目の前にある潰れた鉛玉もなかったものとして扱うことにした。
ーーいや、この状況はどう考えてもおかしい。
鉛玉が二発。それは先ほど撃たれたものだろう。薬莢の数から素人でも理解することはできた。
だが、本来なら肉体にめり込むはずの鉛玉が重力で圧縮されたように潰れているのだ。
正確にはーー銃弾の衝撃に耐えうる強度の何かに当たったとしか考えられない程、鉛玉は飴細工のように潰れていた。
事の顛末を全く以ってまんじりとも理解できてない俺に対しーーーー。
「何、アホみたいな顔してるんですか。
あなたも同じ化物なんですよ。自覚を持ってください」
神様ーーエロ本を買った天罰が重過ぎます。
脳内処理が追いつかない状況を、神に対して抗議する俺であった。