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036

 ーー夕焼けが差し込む部屋は血で彩られている。


 世界が俺に当てつけるように、自身の行為はどれほど罪深いものだと見せつけるかのようにーー惨劇の舞台と化した孤児院の一室で、瞳孔が開いた少女は肉片の血を啜っている。


 浴びるように、浸かるように、貪っていた。

 地獄絵図となったその現実は、俺に語りかける。


 ーーお前達が信じた正義の結果がこれだ。

 ーー中途半端な情けが何人も殺したんだ、と。


 真横で同じ惨劇を目撃するアリスはどうすることもなく、ガタガタと体を震わせ、その場に蹲る。


「私は……私がしたことがいけなかったんですか。なんで、こうなるんですか……。

 嫌だ、嫌だ、死にたくなよ……。パパ、ママ、助けて、助けてよ……」


 本性なのだろうか、はたまた現実が許容できずに退行したのか。俺にはわからない。

 副作用で少しばかり心が死んでいるのが唯一の救いなのか、皮肉なのか。


 ーー俺は、この惨状を素直に受け入れてしまっている。


「おい、立てるか。俺達には無理だ。後は他の奴に任せて逃げるぞ!!」

「パパとママが一緒じゃなきゃ、嫌です」

「パパとママなんかいねーよ。おい、さっさと行くぞ」

「何言ってるの、パパとママはあそこにいるもん!」


 とうとうダメになったと判断して、無理矢理にでも連れ帰ることにした。

 わなわなと震える手を強引に掴んで引きずろうとするも、空いた手でアリスは必死に抵抗する。


 大事な場面だというのに能力の副作用か倦怠感に体が支配され、俺は片方の手を離す。


「パパ、ママ今行くからね……」


 アリスは怪物と化した少女に近づく、俺はそれをただ眺めていた。


「どうしようもねーな」


 本心を呟きながら、地べたを這いずる少女を見守っていた。

 だが、少女より早く駆け寄った別の人物によって事態は沈静化され、怪物は正気を取り戻す。


 白い息を吐く少女は俺に尋ねる。


「間に合ったみたいですね。お怪我はないですか?」


 それはーー優奈と名乗っていた一人の少女だった。




 後日談というか、事後報告をしたいと思う。


 父親が病気で死んだ後に多額の保険金が入ったそうだ。

 しかし、母親はその金で別の男を作り、少女を残して海外に高飛びをしたという。


 少女は衰弱した状態で助けられることとなる。

 父親の形見である写真を大事そうに抱えながら。


 そして、子供達を見捨てて一目散に逃げた老婆からの供述で分かったことはーー俺が通っている孤児院に預けられたが些細な喧嘩(大人からみたら)から虐めに発展して、異能が暴走したという。


 能力解明のために、少女は人体実験されることが決定事項となった。


 今頃気づいた所で、どうしようもない。

 もう取り返しはつかないのだから。


 精神退行したアリスは精神矯正を受けてから、どんな惨劇を見ても動じなくなっていた。


 BKPが成せる技なのだろう。

 初めからこうするつもりのように思えてならなかったが、もう手遅れ。


 けれど、BKPはそれらの被害を帳消しにできるほどの逸材を得ることになる。


 ーー桜井優奈。異能力を消去、消去した能力の転移が彼女の能力だった。


 そして、俺は彼女に伝えることとなる。


「お前さんの能力があれば、この世界から異能の被害を消し去ることができる」


 俺はヒーローになりたがっていた少女に対して、死刑宣告をすることとなった。

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