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 去年の今頃、一人の少女に真実を告げた。


 ーーあなたが犠牲になれば、世界を救えると。


 少女はこちらを向くとーーーー。


「それじゃあ、私ーー救世主になれるんですね」


 屈託のない笑顔で言った。それがどうしようもなくーー俺には辛かった。


 ーー何故、そうも簡単に受け入れるのだろうか。

 それさえも、聞く勇気を持てないでいた。


 正義の概念が分からなくなっって、唯一自身の心の拠り所であった孤児院の子供達に、お菓子や遊び道具などを買い与えることが罪人の償いとなっていた。


 その際に、知り合った一人の少女がいる。


 ヒーローになりたいと言っていた少女ーー名前は、優奈と言っていた。

 何回か言葉を交わす内ーー交際に発展することはなく、仲良く世間話をする程度の仲になった。


 帰り際ーー公園のベンチに二人で腰を下ろし、俺はジュースを適当に二つ買って彼女の元に戻る。

 この頃から異能の副作用で、何もかもがどうでもよくなっていた。


「どっちか奢ってるやるよ。別に何かしろってことはねーからよ」

「じゃあ、こっちでいいですか? ところで……お兄さんって、何してる人なんですか?」

「国のニートみたいな仕事をしてる」

「どっちなんですか? 面白い人ですね、お兄さん」

「あぁ、そうか」


 俺はそっと笑う。


 彼女には幼い頃に、ヒーローになろうとしていた少年がどうしてもほっとけないという。

 絶対に勝てない相手でさえ、間違ってることをしたら、突っかかって行く奴だそうだ。


 昔の俺のように思いーーーー。


「そりゃ、ほっとけねーな」

「ですよね。本当、無鉄砲っていうか。

 だからーー私が付いていないとって、いつも思うんです」

「良い嫁さんになれるんじゃねーか?」


 ふと、呟く。


 少女はクスリと笑ってーーーー。


「それって、私に告白してるんですか?

 でも、ごめんなさい。先約がいるんです」

「そうか。そいつは残念だな」


 本心を言い、不思議と安心する。


 異能力者という理由だけで、捕まえ、殺し、研究者にモルモットを捧げることで自分達は優雅に暮らしを得ている。

 それこそ、孤児の子供を何人も養えるほどに。


 だが、自分にそれを興じるだけの資格があるのかと考えてしまう。


 両親が異能力に殺され、復讐者と化した一人の少女がいる。

 最初は人間らしい感情を見せていたが、今では殺戮を行うBKPのマリオネットとなっている。


 彼女も被害者の一人なのだろう。

 俺は助言をするべきなのだろうに、それをする気力すら起きていない。


 俺は重い腰を上げ、少女に告げる。


「おじさんと関わるとロクなことないから、そろそろ帰りな」

「はい。じゃあ、お言葉に甘えて帰らせてもらいますね」


 お辞儀をしていた少女の後ろ姿を見ながら、俺は振り返る。


「おいおい、いつまで尾行してるんだよ。

 ストーカーか、お前は」

「あなたにでもバレるとは、私の尾行スキルも鈍りましたか」

「殺気を出しすぎなんだよ。どうせ、仕事なんだろ。あぁーあ、社畜にはなりたくねーな」

「大人が何ほざいてるんですか。

 あなたのプライベートなんか、どうでもいいんです。早く行きますよ」


 急かされたせいか、足取りが重い。


「はいはい、行くから拳銃を構えるな」


 くたびれたスーツのまま、対象者の元へ向かう。

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