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 俺は癒しの波動砲ーー千早ちゃんからの好感度を回復するために、全力疾走で追いかける。

 映画のエンディングでヒロインを抱きしめる主人公のように。


「待ってよ、千早ちゃん。これは誤解なんだ」

「誤解って何がですが?! あの変態と、あんなに如何わしいことしてたじゃないですか!!」

「誤解なんだ! あれは事故なんだよ」


 泣きじゃくってる彼女と言い訳をする俺ーーまるで、浮気現場に彼女が居合わせて、それを必死に弁解するダメンズじゃないか。


 ーー確かにあれは事故だ。


 見知らぬ部屋で起きて、知らない人と如何わしいこと(正確には萌え系でタイトル詐欺のアニメを視聴)をしたのは認めるが、状況が理解できなかったので仕方がなかったのだと弁解したい。


 無論、続きが気になったことは触れないというか触れたくない。


「これ、俺のために作ってくれたんだよね?」

「私の人生最大の不覚でありますが、何か?」


 俺は割れたクッキーが入っている袋を開けて、彼女の目の前で食べる。


「なっ、何泣いてるんですか。恥ずかしいじゃないですかっ!」

「えっ、あぁ……本当だ。なんでだろう」


 ーー自分でも不思議だった。


 額に浸るそれは、クッキーのしょっぱさやパサパサ感があまりにも食べられないものという訳ではなく、理由も定かではなく。

 ただ、昔の記憶ーー名の知らない少女の笑顔が浮かんでくる。


 ーー僕のことを思い出して。


 誰かが俺に訴えかけてくる。


 僕ってなんだ。

 僕って誰だ。

 俺は俺だ。僕ではない。


 頭が痛い。

 割れるように。

 裂けるように。


 悲痛な叫びとなって、立つこともできない激痛となって、俺は痛みに支配される。


「大丈夫ですかっ?! 山刀伐さん!!」


 僕は意識を失った。まだ、元に戻ることはないのだろう。




「おいっ、アリス。お前、また人を殺したのか?!」

「異能力者を匿うような人を私は人とは認識してないので、問題ないです。

 それにゼクスを使ったって、異能を消せないイレギュラーがいるじゃないですか。

 もし、イレギュラーが何人も虐殺して、世界に異能力者がいるとバレて、そいつらが人権を求めだしたらどうするんですか?

 あなたが何千回死んでも、責任は取れないと思いますが」

「その問題が今回の件と関係あるのか? お前、命をなんだと思ってんだよ」

「そのやる気を普段の仕事でも出してくれませんかね?」


 なんなんだ、この人ーーーー。


 BKPの廊下で誰に掴まれたかと思えば、この始末である。

 普段の仕事に精を出さないくせに、年上面をして説教ときた。


 相性が悪い相手でなければ、私とはこの異能力者を殺していただろう。


「私に対して優位な異能を有してるからって、説教ですか?」

「お前……俺を舐めてるんだろう?」

「えぇ、そうですが。何か問題でも?」

「いや、熱くなるも疲れたなって。お前と話しても何も解決できねーしな」


 そうアリスに言い残して大輔は去っていく。敗れたヒーローの後ろ姿のように。


「言い忘れてた。お前、会長から呼び出しくらってるぞ」

「あのエロジジイにですか。わかりました」


 そんな置き土産を残しながら。

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