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「やぁ、起きたかね。イレギュラー君」
「えっ? 俺のことですか?」
「そうだよ。君は僕の興味を脇立てる最高のスパイスさ。
絶世の幼女ほどじゃないけどね」
見たこともない研究室のような所で、イケメンで変態な男にそう尋ねられる。
この脈略のない展開に、エロ本マイスターは状況を全く掴めていないでいる。
気絶させて、いやらしいあんなことやそんなことをされたのか。
自分の貞操を奪われたのかと考えるが千早ちゃんじゃあるまいし、そんなことはないだろうと切に願いたい。
「今日は何曜日ですか」
「日曜日だけど、それがどうしたのかい?
まさか、君も魔法幼女もののファンなのかい?
そうなんだね。僕と同じ匂いがすると思っていたんだよ。
なら僕と一緒に見ようじゃないか」
男はタブレットを徐に取り出すと、一つのアプリを開き自分のコレクションをひけらかしてきた。
魔法幼女、幼女学園、幼女戦隊、日常幼女モノときた。
ーーどこまで幼女なんなんだ、こいつ。
俺は彼の変態性に恐怖した。
俺だってエロ本は好きだ。
エロ本に出てくるお姉さんや同い年の女の子に何回でも恋をした。
でも、幼女は可愛いと思うが見てると切なくなる。
それが何故だがわからないが、決まって公園の風景を思い出してしまう。
それは唯一残ってる記憶であり、とても重要な気がする。
「ヒーローって、カッコいいよね。私は好きだよ」
ここで記憶が途切れてしまう。
泣きじゃくっていたのか、手を跳ね除けて悪態を吐いたかはわからない。
ただ言えることは、タブレットではランドセルを背負った幼女達が下校しているシーンであるということだ。
そして、幼女達の前に真っ黒な毛並みに朱色の目を光らせる兎が一匹現れた。
「このサイコロを転がして、一番最初にゴールに立ち止まった人の願いを何でも叶えてあげる、うさ。
双六やる、うさ?」
幼女の一人は元気よく答える。
「やる、やる!! ねぇ、みんなやろうよ」
「茜ちゃんがこう言いだしたらやめないよね、沙耶ちゃんはどうする?」
「わたしはママもパパも家に居ないから、いいよ」
沙耶ちゃんのシーンになると、横のイケメンはやたらと興奮している。狂熱という表現が一番正しいのだろう。
俺が周りからこう思われてたかと思うと、この世全ての人々に申し訳なく思う。
罪悪感に苛まれる俺とは裏腹にアニメの方ではみんなが渋々了承して、ゲームは開始される。
元気ハツラツな幼女は黒兎から受け取ったサイコロを勢いよく転がす。出目は六だった。
幼女は全力で嬉しさを表現する。まるで、天照だな。
ふと、笑ってしまう。他のみんなは呆れているが、悪い雰囲気ではない。
幼女はマスを踏むたびに、一、二、三と数字を数える。
ちょうど六マス目を踏むと、カラフルで丸い部分から黒い文字が現れーーーー。
「十トンハンマーの刑」
奇怪な声が宣告した。
幼女は現実を理解することもなく、圧死で死んだ。
目の前から現れたそれに幼女は呆気なく潰され、汚れた血と吹き飛んだ目玉だけが、残りの幼女達を見ていた。
一人の幼女が悲鳴をあげる。
金切り声叫ぶものや諦めて笑うもの、現実を理解できないもの、逃げ出すものまで多種多様だったが、黒兎だけは剥き出しの牙にヨダレをつけて大袈裟にゲラゲラと笑っている。
「どうだい、面白いだろう?
ちなみにタイトルは『黒うさ☆すごろく』って、言うんだ!」
イケメンは爛々と目を輝かせて、俺に尋ねてくる。
「はっ、はぁ……。確かに面白いですね」
愛想笑いを通り越した呆れ笑いで返事をする。
「僕はね。幼女に踏まれたり、踏んづけられたり、お馬さんになったりすることに至極の喜びを感じるんだ。
これはそれと同じくらい僕を高揚させてくれる。君とは仲良くなれそうだよ」
ーー俺は、あなたとは一生涯仲良くなれそうにないです。
確かに続きを見たいと思ってしまったが、俺が好きなのはメインヒロインとの純愛だ。
ここでは、ハーレムもので全員とのハッピーエンドのために夜更かしをしたことはなかったことにしたい。
後ろで何かが落ちる音がして、俺は振り向いた。
そこにはーーーー。
「山刀伐さんって、そういう趣味を持ってたんですね。今後一切、話しかけないでください」
クッキーはグシャグシャとなって、千早ちゃんからの好感度もぶっ壊れることとなった。




