026
高校受験を終え、お兄ちゃんと同じ高校に合格した。
お兄ちゃんと違う高校なんて考えられなかったので、内心は安心していた。
ーーこれで、また一緒に居られると。
だけど、お兄ちゃん以外の男は下賤で下品で低俗で、成長した私を見ると性欲を剥き出しにした目線をどいつもこいつも向けてくる。
恋愛が世界の中心となった雌豚どもと、中学のように友人関係がいくはずもないと思っていた私に、一人の友人ができた。
篠原凛花ーー男勝りな女子で誰とでも分け隔てなく接し、気取らない性格で勝負事になると平気でルールすれすれのことをやる奴だった。
私と彼女が知り合ったのは、蛞蝓のような男子達が取り囲みーーーー。
「ねぇ、君。どこ中?」
「かわいいねぇ、一緒に帰らない?」
「彼氏いないんでしょ? 俺、立候補しちゃおうかな〜」
「待てよ。志奈ちゃんは俺と帰りたいって言ってんだよ」
「はぁ? ねぇ、志奈ちゃん。それホント?」
ーー早く消えてくれないかな。
頭がどうにかなりそうだった。
自分がイケメンだと勘違いしているのか、服を無駄に着崩し、斑らに染めた髪型が本人は気に入っているのか。前髪を仕切りに動かしている。
キモい、ウザい、死ね、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい。
ーーあの力を使おうかな。
心臓がない死体があった所で、私が疑われることはないだろう。
世間一般では、誰かに触れられると心臓が爆発するという都市伝説がある。
無論、都市伝説ではなく実際にあった事件なので、私はムカつく奴を殺すときに散々利用してきた。
警察の困り果てた素顔が、痛快で堪らなかったのを未だに覚えている。
けれど、能力を使った後はお兄ちゃんに触れ合いたくて仕方がなくなる。消滅させた面積が大きいだけ、お兄ちゃんに触れていないと真面でいられなくなる。
お兄ちゃん以外の男も普通に見えるなんて……異常以外の何者でもない。
お兄ちゃんに迷惑が掛からず、なおかつ肥溜め達から逃げ出す方法を考えていると、ふいに手を引っ張られる。
白馬の王子様であるお兄ちゃんが助けに来てくれたのだと、心の底から安堵したがーーーー。
「何してんだよ。志奈ちゃんは俺達と一緒に帰るんですけどー」
「困ってるから、やめてあげなさいよ。あんた達にこの子興味ないみたいだし」
「はぁ、何言ってんだよ?」
「いいから行くわよ」
「えっ」
よく知らない女に手を引っ張られたまま、校門に到達した。
そして、私はそこで待っているお兄ちゃんを発見する。
ーー私のために、わざわざ待っててくれたんだ。
バイトの時間が近いのに、私を待ってくれているなんてーー申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「待たせてごめんね。バイトがあるのに……」
「まだ、時間があるから大丈夫だよ。それより、なんかあったのか?
後ーーそこで、阿修羅像みたいな形相の奴がいるんだが……まさか知り合いか?」
笑顔で、私はそれを誤魔化す。
「あんたが、この可愛い女の子の彼氏?」
「いや、兄だけど」
「あんた、由紀って言うんだっけ? 名字が同じだからって、そんな嘘付いて楽しい訳?」
「そんな嘘ついて何の徳があるんだよ!! ってか、お前なんで俺の名前を知ってるんだよ」
呆れた表情をしたソイツはーーーー。
「あんた、学園中の男子から嫌われてんの気づいてなかったの? お気の毒さま」
「はぁ?! なんだよ、それ……。ってか、マジで?」
「そんな嘘ついて何の徳があるんだよって言葉をそのまま返してあげるわ」
落ち込むお兄ちゃんを見て笑顔を見せたソイツは、颯爽と帰って行く。
「俺、入学早々嫌われてんだな……。どうしよう、志奈」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私がいるから安心して」
「優しいだな、志奈。ってか、なんでそんなに笑顔なんだよ……」
「ううん。なんでもないよ、お兄ちゃん」
あの女に対する苛立ちは、困った王子様の可愛さで既に吹き飛んでいた。




