025
ーー私はお兄ちゃんが大好きだ。
ーー私はお兄ちゃんしか愛せない。
ーーだから、私の全てはお兄ちゃんでお兄ちゃんが全てだ。
それが私。
かつての橋本志奈であり、現在はお兄ちゃんと同じ苗字の椎名志奈である。
小さい頃の思い出はドス黒い重油のような日々だった。
発芽した苺のように汚らしい男にサンドバックのように八つ当たりをされ、泣くことも許されず。
時には欲望の捌け口にされるだけの存在だった。
私を産んだ母をいくら憎んでも憎み足りなかった。
なんで、私を助けてくれないのかと呪い殺せるものなら何回でも殺したいと幼心に思った程だ。
もう死んだから、どうでもいいけど。
そんな絶望しかない日々だったけど母が再婚をして、やっとお兄ちゃんと出会えた。
お兄ちゃんを一目見た時に、私の全ては変わっていた。
ーーこの人が大好きだ。
私は、初めて見た同い年の男の子に恋をした。
この人のためならなんだってできる。
それこそ、何人死のうが何人殺そうが全く苦にならない程に。
世間的に母と呼ばれている女が「今日から、あなたのお兄ちゃんよ」と汚水のような息を吐きながら私に話しかけてきた。
普段なら頭の中で何百回殺しても殺し足りないが、目の前にいる世界で一番カッコいいお兄ちゃんが照れながら「よろしくな」と手を握ってくれたのだ。
思わず泣きそうになる。
「こら、泣かすんじゃない! ごめんね、志奈ちゃん」
「いってーな、親父。何もしてねーよ」
笑い声が周りを包み込む。けれど、私だけはーーーー。
ーー何してんだよ、この汚物が。
お兄ちゃんに暴力を振るった汚物に対し、私はどうしようもなく憎悪した。
それからの私は人が変わったという、当たり前だ。てめぇらみたいな凡人以下に言われなくても分かる。
お兄ちゃんに好かれるために、誰もが憧れる美少女になろうとした。
勉強ができて、スポーツができて、美少女で、誰にでも好かれる万能な人物になろうと血が滲むような努力をした。
お兄ちゃんのためじゃなければ、そこまではできなかった。
腐敗しきった生ゴミ達と話を合わすのも、昔の私だったら苦痛に耐え切れず、本性を剥き出しにしていたのだろう。
だからこそ、他の雌豚どもがお兄ちゃんのことを好きだと私に告げてくることがある。
けれど、お兄ちゃんは私にしか興味がないのか告白を断り続けていた。
私の全てを理解してくれるお兄ちゃんを余計に好きになっていった。
ーーお兄ちゃんと結婚したい!!
そして、一つの願望が膨れ上がっていく。




