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023

 家路に着く。


 ついさっき出たばかりで、今まで吐き気を催すほど行き来をし、思い出を重ねてきた暖かな記憶を沢山築いていた場所なのに、今はこんなにも帰りたくない場所になったのだろうか。


 あの男がどうして家に上がり込み、奇声を上げて襲いかかってきたのかは不明だが、この際どうでもいい。

 近所に人が居なかったのも、どうせ祭りだったからだと誇示付けの推理をし、精神を落ち着かせる。


 妹には遊んでこいとはした金を無理矢理押し付けて、遊びに行かせた。

 申し訳なさそうな顔をしていたが、こうする方が妹のためだと自分に言い聞かせた。


 玄関の鍵穴に鍵を入れる。


 こんな普段の、それこそ当たり前の日常の行動でさえ心臓が張り裂けそうになる。


 ーーここを開けた先で警察官が待ち構えていて、逮捕されるのだろうか。


 見えない何かに怯えて疑心暗鬼になる。


 扉を開ける。


 扉の重さが何十倍にも増しているのか、額に汗が滲み、手足が震えている。


 ようやく扉は開く。


 昨日、バイト先で買った大量の消臭剤が役立ったのだろう。臭いは想像以上になく。本当にいつも通りの我が家だった。


「はははあははっっは……」


 不意に笑い出す。俺の頭がイカれたのだろうか。あぁ、もうイカれてるのか。


 人の死体が我が家にあるというのに学校に行き、平気な素振りを装って一日を過ごし、おまけに明らさまに足がつきそうな行動をいくつもしている。


 正気じゃない。あぁもう、正気じゃないんだ。

 心の中で、自らの言葉を咀嚼する。


 これ以上悩だり悔やんだりしても仕方ないと、半ばやけくそになって風呂場を開ける。


 ーー現実は現実だった。


 安らぎの場所であった我が家は既になく、あるのは浴槽にずっぽりと浸かった首のない死体だけだった。

 血だらけの浴槽から、それを引き上げる。肉の塊であるそれは無駄に重く、額には汗が滲む。


 浴槽から上げた全裸のそれを見た俺はーーーー。


「これじゃあまるで、七面鳥じゃねーかよ」


 不意に呟いた言葉に、恐怖と感嘆が入り混じった感覚に苛まれる。


 七面鳥とは生肉コーナーに置かれている頭を切断され、毛を毟られ、血を抜けれ、人間が食べやすい状態になっている。クリスマスの一角を彩るメインディッシュの象徴の一つとも言えるだろう。


 目の前の浴槽にある死体を比喩や揶揄ではなく、俺は一瞬であるが七面鳥に見えた。


 己の精神を守るためのプロテクターが働いたのか、はたまた正真正銘のサイコパスなのだろうか。

 自分が自分で自分なのか、分からなくなる。


 今すぐ精神障害を起こした人間のフリをして、楽になりたいとさえ思えてくる。

 全部俺の罪にして、ニュースの一面を飾るのも悪くないだろう。


 もう楽になりたい。涙腺から涙が滲みでる。


 でもーーそれじゃあ駄目だと、己の弱々しい心を奮い立たせる。


 もし俺が捕まったとしても、楽になるのは俺だけだ。

 楽になった所で、妹には殺人犯の妹というレッテルが一生付いて回るのだろう。


 ーー俺がやるしかないのか。


 俺は目の前のそれを加工肉だと思い込み、解体作業の道具や準備をし始めることにした。

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