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018

「大丈夫、気を失っているだけだから。

 それに替え玉ですよ、あの人は」


 この世界観において存在を危ぶまれた優しさのこもった声が、俺の耳元で囁かれた。


 ーー不思議と安心した。


 薄氷アリスだと思っていた人物は見知らぬ赤毛の少女で、彼女が人に触れるだけで気絶させることが能力者だというのに、敵意がまるでない優しい目をしていると思えている。


「遥!! なんで、そんな奴に優しくすんだよ。

 そいつらのせいで、あたしらの仲間達は……」

「トイレちゃん、落ち着いて。この人はただ騙されているだけだから。

 話せばきっと、分かってくれるよ」

「んな、わけねーよ。ってか、トイレじゃなくて華子だっーー!!」


 なるほど、トイレの華子さんと遥さんなのか。

 敵であろう二人にさん付けしている辺り、俺はどこかおかしいのかもしれない。


 もう非日常の世界に囚われていて、今更普通を求めた所で、エロ本を求めて本屋やコンビニをはしごする日々は戻って来ないのだ。

 残されたのは、異能者を捕まえるBKPの番犬としての日々だ。


 突如、ドアが気圧で弾けたかのように開かれた。

 そして、扉を開けた人物はわなわなと体を震わせて怯えていた。


「おい、田中。どうしたんだよ」

「龍崎さん!! 執行者が一人、乗り込んできました。

 銃弾も爆薬も効かず、味方の殆どがやられちまいました……。オレ、もう怖くて怖くて……」


 俺は自らの携帯に「助けに行く」という、これまた単調な文章が送られていた。


 捜索をすると送ったメールがことの発端であり、BKPにとっては王手であるが彼女達にとっては詰みなのだろう。


 もっとも最良な選択をしたのに、どうしてだろう。搔きむしるような胸の騒めきが止まないのは。


 俺は、俺はーーーー。


「ちっ、お前ら逃げろ」

「逃げろってどこにですか?」

「腑抜けてんじゃねーよ。赤毛の奴を連れて逃げろって言ってんだよ!!」

「いいんですか?」

「言いわけねーだろ!! でも、状況的に考えて仕方ねーだろうが!!」


 まぁ、なんとも男勝りな言い方な女子おなごでいらっしゃる。

 俺はおどけた小人のように赤毛の女の子を背負って部屋を後にする。


「待ってるから」


 黒髪少女の一言が、妙に耳に残りながらも。

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