016
彼女の尾行は哲学的なまでの無駄のない動きではあったのだが、それも徒労なのか無駄の一言に尽きるのか。
はたまた、もっとも望むべき展開なのかーーただ言えることは……。
ーー彼は良い人過ぎた。
道行く老人に何のためらいもなく手を差し伸べ、物欲しそうにブツを眺めている黒髪美少女に対し、食べ物をおごってあげるときた。
尾行していた俺は疾しい気持ちを打ち消したいのかーー仲良く二人でクレープを買って食べている始末である。
そして、血迷ったのかーー俺はツナマヨ味で、アリスは激辛ミックス味ときた。
ツナマヨがクレープ生地に合うわけがないと鼻にかけていたが、意外に美味しいのを俺の体は知っているようで、吸引力の変わらない胃袋があっという間に飲み干していた。
アリスはアリスで顔色一つ変えずに、激辛料理を食しているのがやはり普段の彼女だと思い、不思議と口角が緩んでいた。
ーーそっと、誰かに袖を掴まれる。
あのとき体験した恐怖が蘇る。
けれど、驚く素振りをすること自体が無駄だったようで、掴んだ人物がーーーー。
「なんでもいいので、飲み物をお願いします」
食中毒になった人物特有の表情ーーいや、食べちゃいけない毒キノコやハバネロ入りのロシアンルーレットを口にした部類に入るだろう。
長々と長考しているしてる自分に対し、冷たい突起物が……。
調教され尽くした羊のように脚は軽やかに、迅速のツバメと如き俊敏さでコンビニに駆け込みーーエ、目に付いた飲み物を幾つか選び、熟練のパシられ属性を持って彼女の元に向かう。
だがーー既に彼女はそこに居なかった。
昼間の繁華街だというのに誘拐なんてあってたまるか。
電話を何度もかけても無視され続けるのは、きっとトイレに駆け込んでいるからだと的外れな妄想で掻き消そうとする。
でも、じっとする訳にもいかず。俺はーー自分一人で探そうと人混みを掻き分け、捜索しようと思った。
だが、同時に自分一人の力でどうこう出来る自信もない。
どうすればいいかも分からず、俺はーーーー。
「アリスを見失ったので、探します」
そんな文章を最後に送信し、捜索を開始しようとした所までは記憶しているのだが……。
気付くと見知らぬ部屋で両手両足を縛られ、国民的ファーストフード店のフライドポテトを手に持つ黒髪美少女に餌付けされそうになっていた。




