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異能使いの執行者  作者: 間口刃
プロローグ
1/40

001

 ーー世界は不平等に満ちている。


 それは生を受けた瞬間から始まり、死ぬ際にまで一貫して続く。


 いかなる時であれ、全ての事柄には優劣が存在し、運命という理の前では一切の努力は通用しない。


 その運命には慈悲もなく、慈愛もなく、ただ現実を受け入れるしかないのである。


 だから、俺は――ここで、ある決断をしなければならない。




 ――エロ本を買った帰り際なら。碧眼金髪女子高生が不良やチンピラに絡まれていても、無視して構わないという、苦渋の決断を。




 俺の学生鞄の中には、夢と希望、努力や友情といった類の全てが詰まっている週刊少年漫画雑誌と一緒に、エロ本が一冊入っている。


 エロ本と一言語で表現はできるが、そこには様々な趣味や嗜好。

 袋閉じといった閉じているものを己の指でこじ開けるという、意志の強さを試す闘技場(コロッセオ)のようなものでもある。


 それに、エロ本は英雄達の真名や魔術師のように己の弱点であり、他人に隠し通しておかなければ記憶を消さざるを得ない程の極秘事項である。


 また、不良にどんな趣味かを知られてインターネットなどのソーシャルメディアに画像付きで晒されたら、それこそ生きていける自信が持てない。


 以上のことを以ってーー碧眼金髪女子高生が不良に絡まれていても、エロ本を所持している男子高校生にはどうにもできない。

 だか、それは世界が不平等に満ちているのだから仕方がないというのが、俺の結論である。




 学校帰りに衝動に駆られ、肌寒い外の空気に耐え市街地にまでやって来てエロ本を買ったのはいい、男子高校生としては真っ当な行為だ。


 しかし、クラスメイトに遭遇するのが嫌だとしても、人気のない所を選んで帰ることは今後しないようにしようと胸に誓った。


 そして、夜の路地裏で起きている現象を無かったこととして、全速力で別ルートからの帰宅を試みたがーーーー。


 肩に衝撃が走り、俺は実に無様な尻餅をつく羽目になった。


 当たった際に、鉄骨か電柱に当たったような硬い感触がたしかにあった。


 だが、目の前にいるのはーー死んだ魚のような目をしたスーツ姿でやる気の無さそうな黒髪の男だった。


「悪いな、怪我とかしてねーか?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「あー、ならいっか。めんどくさいのは嫌だからな」


 男は無防備なまでに大きな欠伸をし、全身から明らさまなまで倦怠感を撒き散らす。


 そして、彼の発するオーラは凄まじいまでのやる気のなさを帯びている。

 有名漫画で表すなら会長や王に匹敵するだろう。


 けれど、彼はーーーー。


「俺は、あそこにいる奴を助けなきゃいけねーんだ。お前は反対方向に向かって逃げな。危険が及ぶと危ないしな」

「あっ、はい。すみません、なんか」


 これが、本当の正義なのだろうか。

 こんなにもやる気がない駄目そうな大人が、一人の少女を助けようとしている。


 不良達は見るからに世紀末に登場してそうな武装集団で、通常の人間が単騎で乗り込んでも袋叩きにされるのが目に見えている。


 なのに、男は言ったのだ。


 “助けなきゃいけない”と言ったのだ。


 自分の保身とエロ本の為に、少女を見捨てた自分が無性に恥ずかしくなった。


 ーー情けないじゃないか、俺は……。


 少年は自責の念に駆られるが、男は既に少女を助けに入ったようだ。


 このとき、少年は素直に逃げればよかったのに、意地が働いたのだろう。

 障害物に隠れて、様子を伺うことを少年は選んでしまった。


「兄ちゃん達、危険だからやめねーか?」


 男は勇敢にも、不良達に割って入る。


「なんだ、テメェ? オレ達のやる事に文句あんのかぁ? あぁ?」


 決まりきったフレーズを不良達の一人が分かりやすい威嚇を用い、男を牽制した。


 男は言い返すのも手間なようで、頭を無造作に搔きむしり、不良達に再度忠告をした。


「お前達の言い分は分かる。たしかに見た目だけなら、アイドルグループのセンターを張れるかもしれない。顔とスタイルだけなら、女神だからな、そいつは。

 だから、兄ちゃん達はーーそいつにあれこれしたいんだろう?

 だがな。そいつは俺の部下で、ブタゴリっ」




 ーー激音が辺りを支配した。




 あの、やる気のない勇者は自分に何が起きたのかも分からずに、地面に力なく倒れた。


 何かから吐き出された煙は満月の微光に照らされながら、空に向かって一直線に向かって上っていく。


 そして犯人はーースモーキンガンに頼る必要もなく、一丁の拳銃を右手に握っている金髪碧眼女子高生だと、全員が察した。


 ーーなぜ、少女が一丁の拳銃を所持していたか。


 その疑問を解消する余地もなく、またする暇もなく、不良達は一目散に。

 それこそ焼かれる前の魚のような目で逃げていく。


 少女はそれを追うことはせず、ため息を吐くとーーーー。


「収穫は無しですか………」


 そう、自分だけを責めるように独り言を吐き捨てると犯人は、その場から立ち去った。

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