玉葱
「玉葱を食わなきゃ、父ちゃんみたいなふじみの男になれないぞ」
僕をそう叱った父は、二年後に癌で死んだ。
それからは不幸の連続だった。学校でいじめられたり、受験に失敗したり、就職した会社が倒産したり。
「賢者は最後にふじみの薬を手に入れるの。どう、面白い紙芝居でしょ。ねぇ聞いてる? なんかあなたって…つまんない!」
やっとできた保育士の彼女にもフラれた。
もういいや。
彼女の家を出て目白通りを歩いているうちに、死にたくなってきた。
どこにも帰りたくなかった。
路肩の木杭にふじみざか、と書かれていた。呪いの言葉だ。僕はその言葉に呪われているんだ。
坂を登り切って振り返ると、夕焼けの中に玉葱の頭みたいな富士山が見えた。
―――おしまい―――