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ことだま幸わうこの国で  作者: 桃々藤
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ナツとフユの金稼ぎ3

二人はますます川沿い下っていきました。


すると、ナツが足を踏み外し、川へ落ちてしまいました。


「うわぁ!」

「あ!ナツ!」


いくら気候が良くても、山の川の水は冷たいので、さすがの野狐の体にもこたえます。

ナツは水の中でもがきました。実は、泳げないのです。


「た、たすけ……」

「ナツ!いま たすけるからぁ!」


フユは持っている木の実を投げ捨て、一目散に川に飛び込みました。

ナツを後ろから抱え込み、必死に泳ごうとしましたが、ナツがそれを邪魔します。

そして、フユも溺れ始めてしまいました。

その時、ナツとフユの体が、ふわりと軽くなり、いつの間にか、水の中から出ていました。


「お、おぼれ……あ、あれ?」

「ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく……」

「ナツ、ナツ!」

「ぶくぶ……あ、あれ?」


二人は、空を飛んでいました。大きな木々が、足元に見えます。

二人は見上げました。すると、大きな大きな鳥が、足で二人を鷲掴みし、優雅に羽を広げていました。


「うわぁ!」

「うわぁ!」


空を飛んだのは初めてです。目の前には、とても美しい夕陽が海に沈みかけていました。夕陽に照らされた海や山や木々は真っ赤に染まり、二人の顔までも赤く染め上げました。


しかし、見惚れていたのもつかの間、大きな大きな鳥がフラフラとよろけ始め、ナツとフユは大きく揺らされました。そして二人は、鷲掴みにされていた足から離され、地面に落ちていきました。


「わぁぁぁぁぁーー」

「わぁぁぁぁぁーー」


二人は驚いて狐に戻ってしまい、咄嗟に小さく丸まって衝撃に備えました。そして、ナツは背中から、フユは頭から落ちて転がりました。


「いててて……」

「いたたた……」

「せなか いたい」

「あたまに たんこぶ できた」


二人、もとい、二匹がその場にうずくまっていると、そこに一人のひとがやってきました。


アキです。


「大丈夫?怪我はない?あれぇ、ナツ、フユ、下駄は?びしょ濡れだよぉ?」

「ごしゅじん?」

「あれ?ここは?」


なんと、二匹が落ちたところは、ちょうどお家の庭だったのです。

大きな大きな鳥はもう居ませんでした。


「ごしゅじん、わたしたち、おかねかせぎ してきたの」

「でもね、きらきらの おかねしか かせげなかったの」

「あらぁ、みせてぇ」


二匹はいつもの子どもの姿になり、着物の懐をさぐって手をだしました。しかし、手元にあるのは一枚の葉っぱだけでした。二人は肩を落としました。


「あれ、ない」

「おかね、ない」


二人はまた涙目になっています。


アキは二人を抱き寄せ、頭を撫でました。


「びしょ濡れになって、下駄まで無くして、がんばったね二人とも。いい子いい子」

「ごしゅじん、おこってる?」

「ごしゅじん、かなしい?」

「ううん、怒ってないし悲しくないよ。だって、私の為にこんなに頑張ってくれて、無事に帰ってきてくれたんだもん。私は嬉しいよ。幸せ」

「ごしゅじん……」

「ごしゅじん……」


二人は、アキのきらきらと輝いた笑顔を見て、声を上げて泣きました。アキは、笑顔を絶やすことなく、二人の頭を撫で続けました。


するとそこへ、ハルがふらふらと揺れながらやってきました。


「お二方、どこで油を売っていたのです?」

「ハルさま!」

「ハルさま!」

「早く中へ入って、湯浴みをなさい。せっかくご主人が腕によりをかけて作った天ぷらが冷めてしまいますよ」

「てんぷら!」

「てんぷら!」


二人はしがみついていたアキの着物から手を離し、大急ぎで湯船に向かいました。


「あの子たちを見守ってくれて、ありがとうハル」

「これで分かりました。あの子たちには、学が必要だと」

「学ぅ?」

「やはり、この世の仕組みを学ばせるべきだと。そう思いました。遊んで学ぶことには限界があるのかも……」

「遊ばせてあげなよぉ。私みたいに、寂しい思いをさせないでおくれなぁ」

「ご主人……」


ハルは少し笑い、「はい」と一言呟きました。


その日の夜、湯浴みを終えて食事も終わらせた二人は、寝る支度をして、ハルとアキの間に寝転がりました。


「あのねハルさま、わたしたち、おそらをとんだよ!」

「おひさまが まっかになって、きらきらしてたよ!」

「それはそれは、お二方に見つめられたお日様が、恥ずかしくて頬を赤く染めたのでしょう」

「あのねごしゅじん、きゅうせんぼうに あったよ!」

「こうらを かわかしてたよ!」

「おやぁ、今日は日光浴の日だったのかなぁ、九千坊さん」


二人の話はしばらく続きました。

そして四人は、いつの間にか眠りについてしまいました。


大きな大きな満月がこの家を照らし、その光は家の中まで照らして、四人の寝顔を、綺麗に輝かせました。


二人の子供は、時折可愛く笑って寝言を言います。


「もう……おなかいっぱい」

「……おそら きもちい〜」


どうやら、夢を見ているようですねーー。

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