ナツとフユの金稼ぎ1
ここはとある山の中。今日も何処かでさえずる鳥の声を聞きながら、小さな子供二人が、日本家屋の庭で焚き火をしていました。
♪も〜えろよもえろ〜よ〜
ほのおよも〜え〜ろ〜
ひ〜のこをまきあ〜げ
てんまでこ〜が〜せ〜♪
「ナツ、フユ、何をしているのです?この時期に焚き火とは、季節外れですね」
焚き火を目の前にして歌っていた二人の子供は、男性の声のする方を向いて言いました。
「ハルさま!」
「これをもやしています」
そう言って、ナツとフユは手元の紙を見せました。ハルはそれを見るやいなや、「ご主人」と叫びながら家の中に入って行きました。
「ご主人!ご主人!」
「どうしたのぉ、大きな声を出してぇ?」
「ご主人、申し訳ございません!ナツとフユが……」
「ナツとフユがどうしたのぉ?」
ハルは、ご主人のアキの手を引いて、焚き火のある庭まで向かいました。
「もえろ〜」
「もえろ〜」
「あらぁ、ナツ、フユ、何を燃やしてるのぉ?」
「ごしゅじん、これを もやしたよ」
「これ、よくもえるね〜」
「あらぁ、全部燃やしちゃったのぉ?」
「はい〜」
「はい〜」
ハルは、アキに深々と頭を下げながら謝りました。
「申し訳ございません!この二匹、お金を燃やしておりました……」
そうです。ナツとフユは、いつぞやの報酬でもらった1百万円を燃やしていたのです。
「いくら野狐といえど、ここまで無知だったとは……この白狐、恥を忍ぶのみです」
頭を下げるハルに、ナツとフユは頭を傾げました。
「いいよいいよぉ、燃やしたものは仕方ないからぁ」
「しかし……」
「私も、きちんとしまわなかったのが悪いんだよぉ」
アキは、ハルの肩を優しく叩きました。ハルは頭を上げましたが、顔が青ざめていました。
アキは、ナツとフユに言いました。
「ナツ、フユ、これはね、『お金』って言うんだよぉ」
「おかね?」
「おかねってなに?」
「おかねがあるから、私たちは生きていけるんだよぉ。このお家も、あなたたちが履いている下駄も、その服も、あなたたちが好きな揚げ物も、全部お金を払って手に入れたものなんだよぉ」
二人の顔が青ざめていきました。
「わたしたちが おかね をもやしたから、わたしたち、もう てんぷら たべられないの?」
「もう からあげ たべられないの?」
二人の目に、涙が溜まりはじめました。
「またお金を稼がないと食べられないよぉ」
二人は泣き出してしまいました。自分たちが何をしたのか、分かったからです。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「もう てんぷら たべられない」
「もう からあげ たべられない」
「もう かきあげ たべられない」
「燃やしたものは仕方ないよぉ、またがんばってお金を稼ごうよぉ、ねぇ」
アキは、二人の頭を撫でました。すると二人は泣きやんで、アキの顔を見上げました。
「ごしゅじん、おこってる?」
この問いに、アキは少し考えて言いました。
「……少しねぇ」
二人は衝撃を受けました。普段怒らないアキが、少し怒っているからです。
この時、二人の心に決意が生まれました。
『自分たちで、お金を稼ごう』という、せめてもの罪滅ぼしです。