倭特殊防衛部隊
今から150年前のこと、人類は科学技術とともに発展の一途を辿り、幸せを
謳歌していた。ただしその幸せは一部の先進国の裕福な人間だけで、貧困に
喘えぐ後進国の人間からの搾取の上に成り立っていた。そのため宗教問題は
解決することなく自爆テロや人質事件等が頻発し、各国は各地で小競り合いを
繰り返した。
そんなある日、あるテロ組織の行ったテロにより世界は一瞬のうちに先端科
学技術を失うことになった。
電磁波爆弾…。
このテロにより先進国のほとんどはインターネット網、航空機等の交通手段、
人工衛星による放送、監視技術等の科学技術を一瞬で失い、200年は科学
技術が後退したと言われている。
先進国は、各々疑心暗鬼となり、貿易の停止、安全保障条約の破棄等が行われ、
20年の間に世界の人口の90%と95%の国が滅んだと言われている。
この日本は、元々島国だったこともあり、早々に鎖国の決断を行い、一切の
国交を断ち、自給自足の生活に立ち戻ることを選択した。しかし、狭い国土
での自給自足は困難を極め、人口は激減、150年後の現在では全国で2000
万人以下と江戸時代よりも人口が少ないという状況になっている。
また時折発生する磁気嵐の影響で、未だに過去の科学技術を取り戻せないまま
今に至っている。
第五次日本国侵略大戦…。
今から20年前のことである。
その年、日本国は鎖国以来、未曾有の危機に瀕していた。
鎖国してから大規模な他国からの侵略に度々晒された日本であるが、秘密裏に
組織された防衛部隊によりその都度敵を退け、今まで首都への侵略を防いで
きた。
新日本暦130年3月、異教徒殲滅を合言葉にバチカン軍を名乗る謎の組織が
首都東京に侵入し、防衛部隊や民間人に多数の死傷者が出た。敵組織は、各人が
特殊能力を備えた所謂超人たちで、同じく特殊能力を備えた日本の防衛部隊と
真っ向から衝突し、双方の9割がその大戦で死亡したと言われている。
その大戦以後、日本国は更に防衛組織を強化し、日本各地の防御を固めると
ともに人材育成に勤しんできた。剣術、古武術、忍術、呪術と呼ばれる
エンシェント・ロストテクノロジー、超能力のサイキックテクノロジー等、
主に個々の戦闘力に特化した防衛能力の強化である。
倭特殊防衛部隊、その組織はこう呼ばれている。
その組織の代表及び大将を務める、倭鬼吏人を頂点とした
約5万人の精鋭部隊である。
そして新日本歴150年11月、再び謎の勢力が侵攻を開始した。
「鬼吏人様、日本各地で謎の組織の侵入が確認されています。我が軍の監視局、
警備局の精鋭が早速出動し衝突を開始しております。」
黒い軍服を着た男が真っ暗な部屋に座っている。
その手前に片膝をついた同様の軍服を着た男が頭を垂れている。
「で、状況は。」
「それが、8拠点は防衛を確認、2拠点はまだ交戦中との連絡が入って
おります。ただ、侵入経路が10拠点だけなのかはまだ未確認です。」
「各支部へ緊急戦時警報を発令し、2拠点に追加の戦闘部隊を差し向けるのだ。
また臨時会議の召集をかけろ。何か嫌な予感がする。」
「はっ了解しました。」
指示を受けた男は素早く立ち上がると真っ暗な部屋を飛び出していった。
「まさか20年前の大戦が再び繰り返されるのか…。」
真っ暗な部屋の中で一人、倭鬼吏人は呟いた。
その顔は、闇に隠れて見えないが、口元は微笑んでいた。




